「これは…っ空のものだ!!」


 太一は自らに瞬発力を活かし、ナノモンの手の中から紋章とデジヴァイスを奪い取った。一瞬にしてナノモンの顔がぐしゃりと歪む。


「そんなことをされては、こちらの予定が狂ってしまう!!」


 ナノモンが、苦痛にも咆哮を上げた。ぽっかりと心に空いた穴を、埋めなければならない。ノイズ混じりに聞こえる優しい声を、砂嵐にまぎれて見えない暖かい姿を、奪ったエテモンに復讐をしなければならない。諸々の思いが糧なり、す、と本物の空が縛り付けられている台の下にぽっかりと穴が開いた。


「きゃああああ!!」


 一瞬のうちに空の小さな身体は穴の中に吸い込まれ――栞は、しっかりとその手を掴んだ。


「栞…!!」
「ぜったい、ぜったい離さない…っ!!あっ…!!」


 しかし栞の身体は空よりも小さく、彼女自身も身軽であるため、空の体重を1人では抱えきれなかった。それだけではない。この穴の中からは、気持ち悪いくらいの闇の力を感じる。頭痛がひどく彼女を襲った。ずるりと穴の中に落ちそうになる危険が迫り―――栞の身体が透明に輝いた。キラリ、キラリと光の粒子が空から舞い降り、ピヨモンに降り注ぐ。


「栞、空!!」


 太一が反対側から空の手を掴んだ。穴の下を覗きこんで、小さく息をのんだ。


「っこれは!?」
「エテモンのネットワークを形造っている暗黒の力の中心部だ!!そこに落ちれば全てのものが暗黒の力に吸収されカケラも残らない…。オリジナルに用はない!消滅してもらおう!!」

―――…しゃらららん。

「やめて…!!」


 痛む頭を必死に抑え、栞は涙を零した。
 彼の言葉の節々に痛みを感じる。それは大切な何かを失い、それを必死に取り戻したいと言う気持ちが伝わるくらいだ。デビモンと同じく、闇に咲く花を、探しているかのごとく。

―――…しゃらららん!!


「もうやめてーっ!!」


 それは己自身も誰に対して告げた言葉かは理解していなかった。しかし、言葉が心の奥底からあふれ出る。栞の身体が、今まで以上に光を帯びて、小さな花を咲かせた。


17/07/26 訂正
10/12/07

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