「タイ料理じゃねえよ!大陸だ!」
「え!?」
「うん、…ほらサーバ大陸」
「つ、ついに着いたってことですか…?」
「…そういう、ことだよね」


 光子郎の問いに、栞は優しい笑みを浮かべ応じた。何故だかは分からなかった。だけど、自然と笑みが零れた。


「っ、お、おおきい島だな…」
「島じゃなくて大陸だよ!さっきから言ってるだろ、ヤマト!」
「こないデカイ陸地、初めて見ましたわ…」


 子供たちだけではなく、ファイル島から一歩も出たことがないデジモンたちにとっても驚愕の大きさだった。


「フわァ…ナあニ、着イたノ…?」
「あ、…おはよう、イヴモン。よく、眠れた?」
「…うン、僕はネ」
「"僕は"…ってことは、栞はあまり眠れなかったの?」


 裏がありそうな言葉に、空は思わず眉を寄せた。ただ聞いていただけの会話だったが、どうもおかしいのである。案の定、栞は妙な慌て方を見せ、空に余計怪しまれたが、太一の「降りるぞ」という言葉のおかげで、この話はうやむやになった。


「よっ」


 運動神経のある太一や空を筆頭に、子供たちは順々と陸地に降り立った。しかし、運動に自信のない(もはや降りれるとは思えない)栞とミミだけはホエーモンの頭の上で残されたままだった。


「栞!ミミちゃん!いらっしゃい!」
「…いける、気が、しない…」
「私もよ!何でこんなところから上陸しなきゃいけないの!?もっとマシな場所はなかったの!?」


 すっかりネガティブになった栞と、ヒステリックを起こすミミを何とか上陸させる方法はないかと子供たちは考える。こんな場所でもたもたしている時間は残されてはいない。出来れば一刻も早く、紋章なるものを見つけなければならない。


「みんなで相談してここから上陸することに決めたんだよ!ミミくんは寝てたけど…」
「大丈夫よ!勇気を出して、栞、ミミちゃん!」

「…勇気…?」


 その言葉に、栞はドクンを胸が鳴った。 勇気。 それは、栞が欲しいと思っていたものだった。憧れていたものだった。


「できル?」
「う…うん」


 胸の前で、ぎゅっと手を握りしめて、栞はイヴモンの方を向いて笑みを浮かべる。


「や、やってみる…」


 そう言ってから、栞は、勢いよくジャンプをした。多少ホエーモンが手伝ってくれたので、身体は海に落ちることなく、見事陸地にたどりつくことができた。その際、丈の身体の上に乗っかってしまったことは、悔やむべきことであった。何度も必死に謝れば、丈は仕方ないよと笑ってくれた。

back next

ALICE+