「オーロラに飲み込まれて、デジモンと出会って、クワガーモンと戦って、旅をして。デジモンを倒して、サーバ大陸に行って、エテモンを―――」


 そこで、栞は、はっとした。一瞬、やっぱり夢であったと思った。一馬を見ていたら、それでいいとも思った。否、それでも彼女は経験したたくさんのことを、夢だと思いたくなかった。命の危機に瀕した時もあれば、仲間を失いかけた時だってある。心が引き裂かれて、バラバラに八つ裂きになりそうなくらい、苦しい闇の中でもがいたこともある。それでも、栞は、あそこにいた。独りぼっちの輪が、徐々に広がり、いつしかその輪の中心に溶け込んでいる自分が居た。


「″シオリ″!!」


 その時、突風のような轟々と唸る音が二人を裂いた。自然の為せる技でなければ、悪意を持ったものでもない。むしろ一馬から栞を護るように、その風は吹き荒んでいるようだった。だからか、一馬に対しては、悪意で満ちていた。
 咄嗟の事だったので、両腕で己を守ろうとする栞を抱きかかえるように、一馬はその場にしゃがみ込む。


「栞に触るな!!」


 鋭い声が、一馬の鼓膜を刺激した。まだ声変わりをしていない少年のように高い声は、決して不快感を表すものではなかったが、たかだか小学生には十分に恐怖心を煽るものでだった。強く強く栞を抱きしめた。


「離れろ!!」
「な、何なんだよッ!」
「お前こそ何だ!!栞から離れろッ!!」

「イヴモン…!!」


 その風は、栞の声を聞くと、ふんわりと全てを浄化させるかの如く静まった。勿論、突然のことばかりで一馬の気持ちは付いていけない。抱きしめる手を緩め、ゆっくりと栞を見た。彼女は、自分の中で、空中を見つめている。つ、とその視線をたどった。
 そこには、一馬が見た事もないような、ぬいぐるみが浮かんでいた。


17/07/26 訂正
11/01/07

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