夢現の中
「クラピカ…」
「痛い…苦しい…」
「我等クルタ族の仇を…取ってくれ…」
「…は…っ!!…ハァ…ハァ…ッ、」
欠けた月が闇夜を照らす中、オレは発作の如くベッドから上体を飛び上がらせた。
窓の方を見るとほんの少し開いていた隙間から海風が入り、カーテンをゆっくりと揺らしている。
どうやら今のは夢だったらしい。
夢で見た惨劇が忘れられない上に、その夢のせいだろうか、起きた辺りから頭痛もし始めた。
常に頭の中で一族のことは考えてはいるが、夢になって出て来るのは珍しい。
…何かの暗示だろうか。
隣のベッドには、レオリオが試験に疲れていびきを部屋中に響かせながら眠っていた。
呑気なものだと思いつつ、レオリオのそんな性格が羨ましいと感じている自分も居て思わず苦笑してしまう。
しかし、この大きなイビキを聞きながらまた眠りにつくのは少々難しい。
それに加え、先程まで見ていた夢でオレの目も頭も完全に冴えてしまった。
一度外へ出て風に当たればこの乱れた心や頭もスッキリするかもしれないと思い、レオリオを起こさないよう静かに部屋を後にした。
ーーー…
ーーーー…
ーーーーー…
部屋から出て少し歩くと、意外なことに既に先客が居た。
しかもその先客というのがまさかの#name#。
現在の時刻は深夜2時、こんな時間に彼女は船内から夜の真っ暗な海を眺めていた。
風が吹く度に#name#の肩くらいまである髪が揺れて靡き、日中に見る明るい姿とはまた違う感じがする。
オレの船内を歩いている音で気配を察知したようで、#name#はゆっくりこちらに顔を向けた。
「あれ?クラピカ、どうしたの?」
「いや、少し眠れなくて風に当たりに来たんだ」
「そっか。……あれ?クラピカ…泣いてる?」
「!」
「やっぱり…っ、どうかしたの…?」
「あ…いや、大丈夫だ。気にすることのほどではない」
「でも……」
三日月が自分たちを照らした時にお互いの顔がハッキリ見え、#name#はオレを見て心配そうにしている。
#name#に言われてから気付いたのだが、どうやらオレはいま泣いているらしい。
涙が頬を伝っている感覚などはなかったはずだが、指で右目を軽く当ててみると、そこには確かに透明な水分が付着していた。
服で涙を拭おうとしたその時、#name#が自身のジャケットのポケットからハンカチを取り出し、それをそっとオレの瞼に充てる。
彼女の優しい行動に有難い気持ちもあったが、今まで以上に近い距離に居るためオレの心拍数が早くなった。
おそらく#name#にとっては普通に"仲間の涙を拭っている"だけなのだろうが、#name#に淡い思いを抱いている自分にとってこの振る舞いはかなり動揺してしまう。
こういう時どうすればいいか分からないオレは、ただじっと、されるがままになるしかなかった。
高鳴る鼓動の反面、今の二人だけの時間がとても幸せだと感じ、矛盾する感情が交差する中オレはゆっくり目を閉じる。
少し経ち、涙を綺麗に拭き取ってくれた#name#はハンカチをポケットに戻し、オレに向かって僅かに微笑んでまた何も見えない海へ視線を戻した。
月の光が反射し、照らされている#name#の横顔は夜ということもあって青白く、それでいて幻想的な姿でもあり魅了される。
「…過去の夢を見てうなされていた。」
「え…」
「普段、夢を見ることはないのだが…」
「…………」
「立て続けの試験で疲れているのかもしれない」
「…そっか」
話すつもりはなかったが、#name#の横顔を見ていたら何故か今の心情を語りたくなり口を開く。
#name#は静かにオレの話を聞き、色々と訊きたいこともあっただろうが無理に追及はしなかった。
…オレは、#name#のこういうところがとても好きだ。
本人が言いたくなさそうにしていたらその空気を読んで深入りはせず、しかしその場を離れたりもせず、ただ黙って隣に居てくれる。
いつもならゴンたちが居るため、こんなに#name#と二人きりになることはなかった。
なるべく仲間として意識し仲間として見ようとしていたが、やはり二人になるとそれは不可能だったということを思い知らされる。
滅多にない#name#との二人の時間。
この機会を良いことに、強引に彼女の肩を自分の方へと引き寄せた。
驚いた#name#は反射的に顔を上げてオレを見上げる。
当然お互い目線が重なり、オレはこの機を逃すまいと#name#の唇にキスをした。
「んん…ッ、ふ…、、は…ッ、クラピカ…どうして…」
「#name#…。オレは君が好きだ」
「え…」
「こうして二人で居ると…本当に落ち着く」
「クラピカ…」
一度だけ口付けをしたあと、少しだけ我に返ったオレはゆっくりと顔を離して#name#を力強く抱きしめた。
初めてのキスも、初めて感じる#name#の体温も、唇を離した時に一瞬だけ見た色気のある表情も、全てが愛しくて"もっと"と欲求が強くなってしまう。
恋人というわけではないのにこんな行為をして、#name#はさぞ驚いたことだろう。
だが#name#は驚きはしたものの嫌がる素振りは見せず、それどころか軽くオレの体を抱きしめ返してくれた。
互いの熱を感じ、数十秒か数分か知れない時間を微動だにせずに過ごす。
ただの仲間の時間ではなく、二人の男女としての時間。
出来ればずっとこのまま時が止まってくれたらいいのに、と非現実なことすら願ってしまう。
やがてどちらからともなく体を離してまた目線を合わせる。
#name#は目が合うと恥ずかしそうにしながら目線を下に背け、オレの服の裾を軽く掴んだ。
言葉は発していないのに何故か#name#の気持ちが解ったような気がする。
相変わらず目を伏せている#name#の顎を上げ、彼女の望み通りオレはもう一度彼女の唇にキスを落とした。
夢現つの中
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