過去を生きるか未来を生きるか
オレがハンターになる理由は、同胞を皆殺しにした幻影旅団の連中を捕らえること。
仲間を殺されてからのオレは、それまでの自分の性格を完全に閉じ込めて冷静沈着な人物へと変わっていった。
オレの仲間を殺した奴等は旅団の人間、つまりクルタ族ではない。
ルクソ地方の山奥を離れて外の世界に行けば、どこに旅団が潜んでいるかは分からない。
旅団たちはそれぞれにナンバーがあり、それは体のどこかに刻まれている。
普段は服で隠れているのとメンバーの写真もほとんど出回っていないため、すれ違ってもおそらく判断は出来ないだろう。
そう、いつ奴等と出会い頭になってもおかしくない。
だから、常に旅団と対峙してもいいように武器は服の中に装備し、精神も冷静でいるよう徹していた。
しかし最近になり、オレのこの性格、殺された仲間への決意が揺らいでしまうことがある。
それは何故か。
「あ、クラピカ!こんなところに居たんだね」
「#name#、どうかしたのか?」
ハンター試験会場に向かう最中に出会った彼女、#name#。
そして同性の仲間、ゴン、レオリオ、キルア。
四人と出会い、行動を共にするようになってから、オレはそれまで封じ込めてきた感情を少しずつ開き始めるようになっていた。
それに大きく関わり貢献したのは間違いなく#name#。
彼女は本当に傍に居ると安らぐ存在で、そのおかげで以前より笑うことが多くなった。
自分と同じクルタ族の血が流れている者はもうこの世には居ない。
その事実は地がひっくり返っても変わらないが、オレの無に等しかった心の動きは確実に変わってきている。
かつての人間らしさが蘇ってきた、とでも言うべきか。
「コックさんがご飯作ってくれたみたいで受験者に振る舞ってるんだよ!クラピカも食べようよ」
「…あぁ、そうだな」
どうやら#name#がわざわざここへ来たのは、ゴンたちと一緒にご飯を食べようとの誘いだったようだ。
丸い大きな目を輝かせている#name#はオレの手を握り、ゴンや他の受験者が集まっているであろう食堂へと小走りで駆ける。
一緒に食堂へと走る間、#name#は繋いだこの手を離そうとはしない。
指先から伝わってくる#name#の温度に心臓の動きが早まるが、同時に心地好さも感じていた。
当然だが手が繋がっている以上、前を向いて走っている#name#の表情を見ることは出来ない。
#name#が今どんな顔をしているのか、#name#は今どんな気持ちでオレの手を握りしめているのか、叶うことなら知りたい。
オレは#name#が好きだから、簡単に彼女に触れたり、まして手を掴むことは難しい。
こうして#name#と一緒に居たり肌を触れ合わせていると、ふとこのまま本能に従って生きていきたいと思ってしまう。
復讐に囚われることなく、昔のような言いたいことを真っ直ぐ言える人格に戻れたらいいのに。
「カレーとかあるといいなぁ〜。クラピカは何が食べたい?」
「私は…試験で疲労も溜まっているから、さっぱりしたものが食べたい気分だな」
「さっぱりしたものも良いけどしっかりお肉とかも食べないと!クラピカは華奢なんだから」
「…男だから一応それなりの筋肉はあるんだが」
小走りで飛行船内を駆けながら、あまり息が上がらないように会話するオレと#name#。
この二人だけの時間がとても楽しく、そして何よりも大切な一時。
やらなければならない使命を背中に乗せながら、もう一方で彼女との未来も想像してしまう。
#name#に好きだと自分の思いを告げ、もし彼女もオレと同じ気持ちだったら男女の関係になりたいと切に願う。
普通に#name#と恋愛をして、出来れば永遠を誓って子宝にも恵まれたらと。
仲間の死を受け入れ復讐を決意したはずなのに、それでも人間が持っている本来の欲も棄てきれず、オレの心は同胞の弔いか淡い未来かで揺れている。
つらく苦しい葛藤が心の中をさ迷い続け、その答えがどちらに転んで止まるかはオレ自身も分からなかった。
それならば今は先が見通せない将来を考えるのは一旦止め、今こうして流れていく時間を大切にするべきなのかもしれない。
「コックさんが作る料理って一つ一つ凝ってるんだよね」
「#name#」
「?どしたの?」
#name#と話しているうちに目的地の食堂の前へと着いた。
お互い少しばかり息が上がっていて、#name#は顔の前で手をパタパタさせて風を作っている。
汗をかいても常に笑顔を絶やさない彼女。
こうして離れた場所に居たオレを呼びに来てくれたりと、いつも我々のことを気にかけてくれる。
「#name#が食べたいもの、あるといいな」
「うん!サラダとかはなくてもいいからお肉とかがたくさん食べたいなぁ」
「好き嫌いは良くないぞ」
オレが言うと#name#は恥ずかしそうな、それでいて照れているような表情を見せた。
はにかむ顔で頬を指先で掻く仕草がとても可愛くて、つい口元が緩んでしまう。
今は、今だけは…未来のことを考えず、ただ#name#の隣に居てこの愛しい仕草や表情を見ていたい。
そう思いながら、食堂に入る扉をゆっくり開けた。
過去を生きるか未来を生きるか
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