Sleep Time


恋の始まり


「ヌメーレ湿原、通称"詐欺師の塒"」
「「……………」」
「十分注意してついて来て下さい。だまされると死にますよ」



ついにハンター試験が始まり、何十キロか、それとも何百キロかも分からない地下を延々と走り続けた。
ゴンと先ほど出会ったキルアという少年は体力も相当あるようで、おそらく先進を切っていると思われる。
オレとレオリオ、#name#も息が上がってはいるが、他の受験者たちに遅れを取らないよう走行を再開した。
地下から見えた地上への光を見てようやく持久戦が終わったと安堵したものだが、それは安易な考えだったらしい。


しばらく走り、地上に出た時と比べて視界が随分とぼやけるようになってきた。
敵が攻撃をしかけてきそうな状況。
殺意を持っている者からすれば、周りの景色が霞むこの状態は最高の機会と思っているはず。

…やはり想像した通り、周囲にドス黒い殺気が立ち込めているのが肌に伝わってきた。
こんなに強い敵意を剥き出してくる人物は限られている。
オレに向けられているのか、もしくはレオリオか#name#か、はたまた全く違う受験者に、なのか。
服の中に仕込んでいた武器を取り出して構え、緊張からくる唾を喉へ通す。



「#name#!レオリオ!気を付けろ!いつ敵が姿を現してもおかしくない!」
「いいぜ、正面から受けてやらぁ!」
「う、うん!」
「ぐわあぁぁぁっ!!」
「「「っ?!」」」



#name#とレオリオに周囲への警戒を促したその時、近くで受験者の叫び声が響き渡った。
ちょうど我々の少し後ろから聞こえてきたため、すぐさま体を後ろへ振り向かせて体勢を整える。

身構える中で段々と霧が薄れていき、目の前には叫び声を上げた受験者であろう人物をしっかり捕らえている巨大な虫の姿があった。
昔から色々と参考文献や資料、図鑑など、様々な書物を目に通してきたが、あんなに大きな生物は記されていなかった。
"未確認生物"というやつか。


その巨大な虫は、捕らえた獲物に逃げられないよう何本も生えている自らの足と腕で固定したあと、背中から大きな羽を広げて宙に浮かぶ。
こちらに来るかと思い戦慄が走ったが、その生物は既に収穫があったからか我々に何かするわけでもなく、凄まじい速さでこの広い草原を飛んで行ってしまった。

どうやら助かったらしい。
捕まった受験者を助けようとも思ったが、深追いすれば我々も捕らえられるリスクがある。
…残念だが見捨てるしかなかった。



「いやあぁぁっ!!」
「なんだァ?!うわっ!」
「#name#!レオリオ?!」



そう安堵したのも束の間、近くに居る#name#とレオリオの悲鳴が聞こえ、オレは即座に二人を見る。
そこには小さな虫の大群が二人に襲いかかっていた。
こちらは先程とは違って既存の虫だがすごい数で、レオリオはなんとか所持しているナイフや素手で応戦しているが、#name#に至っては恐怖で立てなくなり頭を抱えて踞ってしまっている。

ケガをしたりまして殺されるといったことはないが、あれだけ体に虫がまとわりついていたら不快感しかないだろう。
オレは急いで#name#に駆け寄り、彼女の至るところで蠢いている虫を手で払い退ける。
本当なら武器を使って一気に取り払いたいところだが、#name#の体に付着した状態で使用すると彼女がケガをする危険性があった。


#name#への精神的負担をなくすため、出来る限り早く虫を取り払う。
10分ほどかかっただろうか、彼女を覆っていた虫は完全に居なくなり、#name#に確認したところ服の中にも居ないとのことだった。
レオリオの方を見ると既に自分で取っ払ったようで、乱れたスーツを整えている。



「#name#、大丈夫か?」
「うぅ……うん…。クラピカ、本当にありがとう…」
「いや、礼には及ばな……。…っ、」



#name#に心配の声をかけ彼女がオレを見て返事をした時、自分でも驚くくらい心がザワつく。
それまでは"一緒にハンターを目指す仲間"としか思っていなかったのだが、瞳いっぱいに涙を溜めている彼女を見て、心臓の音が聞こえてしまうのではと思うくらいに高鳴った。


こんな時に不謹慎だが、彼女がとても可愛いと思った。
思わず目線を合わせることすら躊躇してしまうほど。
#name#の怖がっていた顔が忘れられずに少し虚ろになっていたが、それはレオリオの声でまた現実へと引き戻される。



「おい!急がねぇと先頭にどんどん離されちまうぜ!」
「あ…。うん!そうだね、行こう!」
「……あぁ。」



レオリオの掛け声に#name#は服で涙を強引に拭い、立ち上がって走り出す。
そんな二人の背中を見て、オレも遅れないよう駆け出した。
一度は晴れた霧だが、ここへ来てまた靄がかかってきて視界が悪くなる。


少し走り、近くで何人もの駆ける音が聞こえてきて、ようやく遅れを取り戻してきているのが分かった。
もちろん周りに居る受験者たちもいつ我々に襲撃してくるか分からないため、常に用心深く注意する必要がある。

そんな中でもつい見てしまうのは#name#のこと。
ほんの数十分前までは近くで走行していても何も感じなかったのに、先程の件で妙に意識してしまう。
なぜ#name#を見ると胸の動きが加速するのか、普通なら涙を流している人を見たら同情の気持ちが沸き上がるものなのに、なぜあの時は可愛いとしか思えなかったのか。
そして今、横で汗をかきながら走り続けている#name#とのこの距離が、なぜこんなにも心地好いのか。

…分かっている。
というよりも気付いてしまったという方が正しい。
これが俗にいう"恋"だということを。





恋の始まり



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