葛藤
同族を殺されたあの日から、オレの心は荒んでいた。
オレがヤンチャする度に叱りつけてくれた長老も、いつもオレのことを応援してくれていた親も。
…オレのせいで足と目を悪くさせてしまった親友も、全員。
あれから4年、オレはずっと独りで生きてきた。
そしてこれからも誰にも頼らず独りで生きて、誰にも見つかることなく独りで死ぬつもりで居た。
ハンター試験で"彼等"に出会うまでは。
「あー!ゴンの方が肉でっけー!いいなー!」
「あんまり変わらない気がするけど…」
「おいキルア、人のを盗もうとしてねぇだろうな」
「ん〜、でもここのお肉すごい柔らかくて美味しい!」
ハンター試験も次で最後になり、今はハンター協会のホテル内にあるレストランで食事をとっている。
最終試験は翌日、それまでは自由時間のため出された食事を楽しみながら5人で談笑していた。
これまでの試験は体力的にも精神的にもなかなか堪えるものがあったことは事実。
ただ、何故だろうか。
大変な試練の連続だったというのに、5人で居るとどんな困難でも立ち向かえる、そんな気にさせてくれる。
今まで何をするにも、どんな時も一人で考えて行動していたオレが、今は仲間の意見も聞きながら動くようになっていた。
仲間が出来る喜び、共に一緒の道を目指すライバル心、独りじゃないという安心感。
周りは常に敵しか居ないと思っていたハンター試験で、こんなにも素晴らしい仲間に出会えるなんて思わなかった。
最終試験はおそらく1対1の戦闘対決になるだろう。
この5人が誰とも当たらずに試験に合格、ということはまずあり得ない。
誰かと戦わなければならない。
皆それぞれハンターになりたい動機は違うが、なりたい気持ちは強くあるだろう。
だから、もし戦うことになっても容赦はせず全力で挑む。
…だが本音はやはり、出来れば誰とも当たりたくない。
「いよいよ明日が最終試験だね!」
「泣いても笑っても、明日で決まるんだな」
「ま、オレは絶対に負けないけどね」
「私もここまで来たからには合格したい!…クラピカ?」
「……ん、どうした?#name#」
「ううん、なんかボーっとしてたから…」
「いや、なんでもない」
その中でも特に、いや絶対に戦いたくないのが彼女、#name#だ。
#name#も過酷な試験をのし上がってきた、スタミナもメンタルも一般人に比べて充分ある女性。
華奢な見た目からは想像がつかないが、これまで一緒に行動してきて戦闘力もあるのが分かる。
もちろん強そうだから戦いたくない、というわけではない。
では何故か、それは彼女がオレの思い人だからだ。
#name#はオレの1つ下の女性で、まだあどけなさが残る可愛らしい女性。
年齢的に女性というより女子、女の子といった方がいいかもしれない。
会場までの道のり、そして試験中も彼女の優しさと笑顔に癒されてきた。
彼女に危害が及ばないように、彼女に触れさせないように、周囲の警戒を怠らなかった。
#name#のためにならないと思いつつも、常に体が彼女を守ろうと動いていた。
横目で#name#を見ると、コックが作ったオムライスを美味しそうに口へ運んでいる。
笑顔で食べているその姿を目にすると、明日が最終試験、もっと言えば今がハンター試験真っ只中だということを忘れてしまいそうだ。
リスのように頬が膨らむまで口に含んでいるところが何よりも可愛らしい。
「出来れば私たち5人全員が合格したいよね。ここまで一緒に頑張ってきたから」
「あぁ。私もハンターにならなければ先に進めないからな」
「問題はヒソカだ、アイツにだけは当たりたくねぇぜ」
「なんかレオリオが一番合格できるか心配だよなー」
「なんだとぉ?!」
「まぁまぁ…」
もちろん#name#だけではない。
出来ればゴン、キルア、レオリオとも戦いたくはない。
視線を#name#から彼等に変えると、何気ないいつもの表情をして会話を続けている3人。
…ふと、#name#や彼等に出会わない方が良かったのではないかと考える時がある。
あの時あの船に乗らなければ、ゴン、レオリオと出会うこともなかったのにと。
全てはそこから始まった。
#name#たちに出会わなければ、仲間の命の心配をせずに自分一人で生きていけたのに。
それでも彼等に出会わなければ忘れていた感情もあって、出会ったことで芽生えた仲間意識、人間らしさ、人を思う気持ちなど、完全に頭から抹消した大事なものを蘇らせてくれた。
彼等が居ない人生を考えると、それだけで背中が寒くなる。
「明日に備えて今日は早く寝なくちゃね」
「試験中に眠気なんてきたら最悪だからな」
「それはレオリオくらいじゃね?」
「だーかーらー!お前はなんでいつもオレをバカにするんだよキルア!」
「…………」
レオリオをからかうキルア、それに対してレオリオを宥めるゴン。
3人のやり取りを見て微笑む#name#。
この他愛ない日常も、試験が終わったらそれぞれの道を歩むためなくなるだろう。
それならあれこれ考えるよりも今この時間を大切にしたい。
そして明日は全員がハンター試験に合格して、笑顔で終わりたい。
頼んだ飲み物をゆっくり喉へ流しながらそう思った。
葛藤
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