Sleep Time


果てしなく続く空の下に居る君へ


ハンターになりたてのオレを雇ってくれたノストラードファミリー。
経験0でも微集するということはよほど人手が足りていないか、経験より個々の腕を重視して雇用しているのだろう。
どちらにしてもオレにとっては好都合。
実戦経験も積めてオレの力量がここで通用するなら、そう遠くない未来ボスから色々と欲しい情報を入手できるかもしれない。

早く仲間の目を取り戻して、弔ってやりたい。


刻々と近付いてくる9月1日。
幻影旅団の連中はたくさんのコレクションを盗みに必ずやって来るだろう。
そして…、ゴンたちもヨークシンに来る。

ゴン、キルア、レオリオ、#name#。
ハンター試験で出会った、歳が近い大切な仲間。
今のノストラードファミリーで一緒にボスを守っているセンリツやバショウたちも大切な存在ではあるが、やはり同僚という意識が強い。
ゴンたちはオレにとって、本当に無くしたくない存在。
特に仲間の中で唯一の女性の#name#。

本音をいうとゴンたちはともかく、#name#にはヨークシンに来てほしくない。
まして人間の欲の塊であるオークションが開催されるこの時期には。
人間の欲というのは何も物欲だけではない。
個々によって様々だが、優越欲や食欲、生存欲や承認欲といったり挙げればキリがない。


中でも厄介なのは性欲だろう。
人間の三大欲求の一つとして数えられる性欲は、人によってかなりバラつきがある。
普通なら自我を抑えられるものだが、それが出来ない奴も居るもの。
…もちろんオレも、#name#を前にすると常に理性が切れかかってしまうのだが。



「…なんだか、複雑な心音だわ」
「センリツ…」
「会いたい人が…居るみたいね」
「…あぁ」



今はボスを守る話し合いも終わり、短い時間ではあるが自由に行動できる一時。
一人で考える時間が欲しかったため、協議を終えてすぐに敷地内にある庭へと移動した。
庭園に広がる川をぼんやり眺めていると、いつから居たのか、もしくは最初から尾けていたのか、後ろでセンリツの声が耳に入る。

センリツはとても耳が良く、多少遠くに居たとしても相手の声を拾ったり、近くに居ればその者の心情が分かるという恐ろしい武器を持っている女性。
敵からすれば、自分たちの行動計画などが常に嗅ぎ付けられていることになる。
要するに、筒抜け状態だ。


仲間にすればとても強力な存在だが、逆に仲間でも少し面倒な能力と感じる時がある。
今がまさにそうで、誰しも人との関わりを遮断したい時だってあるだろう。



「その人を思うあなたの心音、とても心地いいわ」
「………」
「だけど危険な場所には来ないでほしい、そういうザワついた心音も奏でているわね」
「…私の、何より大切な人だからな」
「人を好きになるのはとてもいいことよ」



何故かセンリツは異様に絡んでくる。
オレのような寡黙な人間に何故こんなに話しかけてくるのか理解できないが、そんなことはどうでもいい。

考えるのはやはり#name#のこと。
このオークションに参加する男女の比率は、調べてはいないので憶測にはなるが男7、女3、といったところか。
この割合を見ても、女性がこの場所に来るのはリスクが高いように思える。
おそらく#name#も念を習得しているはずで普通の男よりは強いだろうが、問題は念能力者と対峙した時。

念はとても奥が深く、見た目だけではその人物の力までは測ることは出来ない。
9月1日からの10日間はたくさんの猛者がここに集結するだろう。
そんな殺伐としたこの場所に、#name#も来る。



「#name#…」



空を見上げながら思わず彼女の名前を呟く。
オレが発した言葉は当然だが#name#からの返事はなく、この広い宙を舞って溶けていった。

#name#は今頃、このヨークシンに向かっている頃だろう。
会いたい反面、やはり男に騙されないか、力ずくで襲われたりしないか、それが心配で仕方ない。
オレの仕事はボスの護衛、それだけに#name#のことをずっと気にかけてやることも出来ない。
本当は#name#を一番に考えて行動したい、だがオレの生きている理由は同胞の敵討ちだ。


やり場のない、そして行き場のないこの気持ちを、彼女の名を空に向かって呼ぶことで解消する。
完全に自分の世界に入っていて気付かなかったが、いつの間にかセンリツの姿はなくなっていた。
周囲の空気を辿るが誰の気配も感じず、それに安堵したオレはゆっくりと大きな深呼吸を一つ。

瞼を閉じ、頭の中で思うのはハンター試験で#name#が見せたたくさんの笑顔。
柔らかく控えめに笑う顔、思いっきりクシャッと笑う顔、何かを決断した時に見せる自信に満ちた顔。
一つ一つ記憶を辿る度に強くなるのは、"やはり#name#に会いたい"という気持ち。
危険を伴うこの街だが、彼女を思えば思うほど会いたい気持ちが増していく。



「ゴン、キルア、レオリオ。………#name#…」
「…ヨークシンで待っている」



生温い風が髪を揺らして通り抜け、オレの声を空へと浚っていった。

その時、持っていた携帯に振動が走り、確認するとセンリツから集合のメッセージが入っていた。
…そろそろ戻る時間だ。
もう少し一人の時間に浸りたかったが仕方ない。
持ち場に戻る前にもう一度、この悩みのないような青い空を見上げ、#name#の名前を呼んで踵を返した。




果てしなく続く空の下に居る君へ



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