Sleep Time


ワレモノ


「#name#、ケガをしてるのか?」
「ん?あ、ホントだ!でも掠っただけだから大丈夫だよ」
「いや、それでも消毒はした方がいい」
「そ、そうかなぁ?」
「ほんっとにクラピカは#name#に対して過保護だよなー」



ハンター試験も中間辺りまで終わり、ふと#name#の具合を見ると彼女の細くて真っ白な腕に傷が付いているのが目に入った。
見たところ#name#の言う通り本当に掠り傷程度のもので、もちろん大事に至るなんてことはないだろう。
しかし、愛しい人には少しの傷だってついてほしくはない。
大切な子だから、ほんの少しの傷でも気になる。
こんなにすぐ傍に居るのに、触れ合えるくらいの距離なのに、それすらも怖がってしまうほどに。

#name#はオレの気持ちを知らない。
この気持ちを言葉にすると、そのたった一言で関係が壊れてしまいそうな恐怖がある。
だから今まで何度も喉まで来て出ようとしていた言葉を飲み込み、心の中の深部に包み込んだ。



「…#name#」
「クラピカ、どしたの?」
「………いや、なんでもない」
「?」



#name#とたくさん話がしたいのに、話しかけてもどこから話せばいいのか混乱してしまい止めてしまう。
彼女を考える度に胸の中が熱くなったり辛くなったり、温かくなったり愛しくなったりと、色々な気持ちにさせてくれる。
本当に可愛くて、壊したいが壊せない。

ポツポツとしたオレとの会話ともいえない会話が終わると、キルアたちに呼ばれた#name#はそちらに小走りで駆けていった。
そして#name#は3人に笑顔を振り撒いていて。
少し遠くに離れた#name#を目で追いかけながら、オレにもその笑った顔を見せてほしいと心の中で求める。


オレに玉砕してもいいという覚悟があればいいが、この日常が砕けてしまいそうでどうしても言えない。
オレにあとほんの少しの勇気があれば、もしかしたら今と違った明日になるかもしれない。



「あれ、#name#、後ろの方に寝癖ついてるよ」
「えっ!ホントに?」
「うわ、また変なところにつくなー」
「なんか恥ずかしいなぁ…」
「ま、お前は寝癖ついても可愛いから気にすんなって」



ゴンの言葉を皮切りに、キルアとレオリオが続いて#name#の後ろ髪を食い入るように見る。
オレからは角度的に見えないが、どうも#name#に寝癖がついているらしい。
そんな彼女をからかいながらも、最後は愛しそうな目線を#name#に送るゴンたち。
そう、#name#に好意を抱いているのは何もオレだけではなく、あの3人も同じだ。
それ故に#name#の周りには常に彼等も居る。

#name#とハンター試験会場に向かう時に出会ってから、ずっと一緒に行動してきた。
そして出来ることなら、試験が終わったあとも傍に居たい。
仲間という結び付きではなく彼女の特別な存在として繋がりたい。
そこまで遠くない位置に居るのに、今日はいつもより離れているように感じる。
特に何かあったわけではないのに感傷的になっているからか。


いつの日か、この長い距離を越えられるのだろうか。
オレはいつの日か、#name#の隣に居るのだろうか。
センチメンタルになりすぎていて、いつもは考えないようなことが頭の中を高速で駆け巡る。



「クラピカー、この寝癖目立つかな?」
「いや……。そこまで目立ちはしないが…」
「?」
「…寝癖があるところも可愛いな」
「え…っ」



ゴンたちと一緒に居た#name#が、今度はオレの方へとやって来て寝癖のことを訊いてきた。
やはりゴンが見つけた寝癖が気になるようで、明確な位置は分かっていないものの後ろ髪を触って見つけようとしている。
オレと駆け寄って来た姿、オレを呼ぶ高くて可愛らしい声、寝癖が気になりそれを探そうとしている仕草、その一つ一つが愛しくて堪らない。

だから、#name#と居ると自然に正直になる。
だがそれでも、"好き"という言葉は伝えることが出来ずに届かず、行き場のない気持ちは心の中で渦を巻いていた。
本当に大切だからこそ思いは言い出せず、逆に彼女を失うことばかり考えてしまう。
もしそうなったとしたら…オレの心は跡形もなく粉々に砕けて何も手がつかなくなるだろう。


マイナスな気持ちを溜息と共に吐き出し、可愛いと褒めて顔を赤らめている#name#を瞳に映した。
照れたり笑ったり、落ち込んだり悲しんだり、#name#の表情は本当にコロコロ変わる。

同胞を失ってからのオレは完全に他者に対して心を閉ざしていて、楽しいことや、まして笑うことなんてなかった。
だが今は違う。
今は昔と違い、ゴンたちが少しでも面白いことをするとすぐに口元が緩んでしまう。
そして#name#の笑顔に今までどれだけ助けられてきたか。
本当に、本当に感謝している。
そんなオレが今、伝えたい、伝えられることは1つだった。



「#name#」
「ん?」
「…ありがとう」
「??え?何が?」
「いや…色々と」
「??」



オレが発した突然の礼に少し戸惑う#name#。
彼女の受け止めは当然で、これはオレの自己満足的なもの。


暖かい風がオレの髪を撫で、晴天が広がる空に顔を向ける。
気持ちいいくらいの真っ青な空の世界、眺めているとそのまま飲み込まれてしまいそうだ。
目を閉じて深呼吸を1つして頭を戻し、思いを告げられない愛しい人をこの瞳に映す。
満月のように丸く輝いてる目でオレを見る#name#に対し、こちらも負けじと見つめ返した。
#name#の艶めいている髪に触れ、可愛い顔がよく見えるよう耳にかける。

心地好い風が#name#を、オレを、そして周囲を吹き通り、地面に落ちた枯れ葉を巻き上げて空高くへと昇っていった。





ワレモノ



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