Sleep Time


覚悟と誓いと、迷いと


「クラピカ、復讐なんてしたところで意味はない」
「…何?」



ハンター試験を終え、ゴンたちと別れて数ヶ月。
仲間の目を取り戻すといっても、闇雲に探したところですぐに行き詰まるだけ。
そしてハンター試験中レオリオが言っていたように、おそらく仲間の目は既に色々な闇事業で取り引きされているだろう。
ならばその世界に足を入れ、裏組織に関わっている傾向が強い雇い主を探すのが手っ取り早い。


入り組んだ道をたくさん通り抜けて辿り着いた、普通の人間では見つけることさえ困難な仕事の仲介所。
しかし、仕事はおろか雇い主さえも紹介してはくれなかった。
オレを見た途端、話にならないという顔されてしまい、いわゆる門前払いを受けた。
何かが足りない、それがなんなのか分からず手探りで色々と調べるうちに一人の男に出会う。

名前はイズナビ。
イズナビによると、我々が受けたハンター試験は表向きのもので、実際には更に難しい試験があることを知る。
どうやら本当のハンターになるには、武術や精神的強さだけでなく、もっと異質な力も身に付けなければならないらしい。
その異質な力とは"念能力"
ハンターでない者も念を取得している人間が一定数いるようだが、ハンターとして活動するなら念能力は必要不可欠とのことだった。

森の山奥でイズナビに念の詳細や利便性、逆にリスクの高さなどを伝授してもらい、自分の属性は平常時は具現化系、緋の目状態の時のみ特質系ということが分かった。
イズナビの元で念の習得、修行をして数ヶ月、今度こそと思いあの仲介所に行くため離れようとした時。
冒頭の言葉を後ろから投げ掛けられる。
イズナビにはハンターになった理由、生まれた故郷のこと、その故郷で起こった悲劇などは概ね話していた。

もちろんイズナビはオレのやることに対して最初から否定的ではあった。
というより、オレの目的を聞けば大抵の人物は首を横に振るだろう。



「復讐なんかしないで別の道を行くべきだ」
「………」
「居るんじゃねぇのか?大切な人が」
「そんな人間は……、」



イズナビに声を掛けられ、これが最後ということもあり立ち止まって彼の言葉に耳を傾ける。
"大切な人"か。
そう言われて頭に浮かぶのは試験を共に受けて絆を深めたあの4人のこと。
ゴン、キルア、レオリオ、そして#name#。
…彼等は今、どうしているだろうか。
#name#は…何をしているだろうか。

下げていたカバンを開け、大切に隅の方にしまっていたモノを取り出す。
それは1枚の写真。
キルアと無事に再会して空港で別れる前、しばらく会えないということで#name#が皆で写真を撮りたいと提案した。
写真の中央には前方にゴンとキルア、後方には#name#を挟むようにしてオレとレオリオが両端に立って写っている。
写真というもの自体が初めてだったが、こうやって思い出を振り返ることが出来るのはとてもいいと思ったものだ。

…そして同時に寂しくもなる。
離れる日数が多くなるほど、こうして念を会得し蜘蛛への復讐が少しずつ近付くほど、彼等とは違う世界にオレは居るということを思い知るからだ。
彼等はオレと違ってとても明るい。
暗殺をしてきたキルアも自分の生きる道を見つけつつあるのか、過去を振り返らず今は前を向いて歩いている。
だがオレは違う。
オレは未来を夢見たことはなく、ただひたすら旅団への憎悪を糧に今まで生きてきた。
それしか生きる目的がなく、それまであった沢山の目標も同胞の死によって完全に抹殺されたからだ。
仲間の仇を討つことだけが、オレがこの世に存在する理由なはずなのに。


…写真を持つ指先が先程よりも強くなる。
燃えるようにこの目に焼きつけているのは、写真の中央に居る愛しい#name#の姿。
#name#はゴンたちと違い戦闘力が高いわけではない。
それ故、念の習得には他の仲間たち以上に手こずっていることが想像できる。
生まれて初めて、淡い思いを抱かせてくれた女性。
彼女より大切と思えるような女性はもう現れないだろう。
本当に、今でも守りたい大切で愛する女性だ。

それでも……



「…私には、やらなければならないことがある」
「殺された仲間はお前に復讐してほしいなんて思っちゃいねぇ」
「これが私の使命だ」
「………。お前はなんにも分かっちゃいねぇな」



後ろからイズナビの冷えきった溜息が聞こえる。
迷いがないと言えば嘘になるし、本当は復讐なんてしたくはない。
だが仲間が殺されて何もしないということだけは出来ない。
新しく出来た仲間、かけがえのない存在になった彼女との未来を放棄してでも、成し遂げなければならないことがある。

顔を上に上げると、都会では見られないような星が夜空を支配していた。
それは今まで見て来た星空の中で最も美しく、体が膠着してしまうほど。
こんな綺麗な満点の夜空を、いつかまた#name#と見れたら…
ヨークシンで、皆に会えたら…
優先順位は一族の仇討ちだが、やはり#name#たちのことも捨て切れずにいる。



「…世話になった」
「……達者でな」



オレの決意に賛同しないからか、イズナビはずっと背中を向けていて振り向く素振りはない。
止めようとしている気持ちはとても伝わるが、オレは前を見据えてやるべきことを果たす。
旅団への敵討ちと断つことが出来ない#name#たちへの思いを胸に秘めながら、一向にこちらに顔を向けないイズナビに頭を下げる。

数秒経って頭を上げ、オレは踵を返して森を出た。






覚悟と誓いと、迷いと



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