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「あら、構内に爆弾が仕掛けられているんですか?それは物騒ですねえ」

「それにしてはえらく軽い口調だけどな。
もう少し危機感を出せないのか?」

「もう少し危機的状況に陥ったら出します」

「そんなの陥らせるわけないだろう」


 呆れたと言わんばかりの顔をしている彼が側にいる限り、危機感を出す必要はあまり無さそうだった。
 そもそもの始まりは、彼が扮している安室透のアルバイト先である喫茶ポアロにてお客として来ていた、この大学──東都音楽大学のOBの一人に突然送られてきた電子メールが原因だったらしい。

 送られてきたメールには、携帯の持ち主である男の恋人にあたる女性を誘拐したこと、男のことを恨んでいること、添付している動画は仕掛けられている爆弾の側で身動きの取れない恋人を監視カメラで映した映像であること、そちらの動きはよくわかっている為警察に連絡した時点で爆弾を爆発させるとの旨が書かれてあったそうだ。
 恋人と巻き添えにされるであろう人々を救いたければ、自ら爆弾を解除しに来いということも。


「身勝手な内容ですね」

「爆弾魔なんてどいつもそんなものだよ。
自己顕示欲と屈折した自己愛の陶酔に他人を巻き込むナルシストばかりだ」


 心底蔑んだ物言いに、うっすらと浮かび上がってしまった彼の私怨が見て取れた。
 心の奥深くではもっと、ドロリと深く濁ったものを抱えているのだろう。そっと彼の手に自身の指を添えると、ふ、と弛んだ口元が努めて冷静な口調で続きを話してくれた。


「一般人が爆弾解体なんて当然出来るわけがない」


 ほとんど発狂するように男がOB仲間に110番通報するよう声を荒げた瞬間、その様子を嘲笑うかのように男の携帯の通知音が鳴り響いた。
 届いた電子メールには一言。


『 絶 望 す る に は 早 す ぎ る 。 』


 瞬間、ポアロのガラス張りの向こうで不自然に落ちていた木彫りの馬の玩具が爆音と共に粉々に砕け散った。
 携帯を取り落とし膝から崩れ落ちた男と緊迫した空気が漂う店内で、事態を動かしたのはその場に居合わせた二人の探偵だった。





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