◆◇ 二
わたしと婚約者との間に隔たれた年の差は七つ。
当時、それがどれ程の意味を持つのか正しくは理解しておらず、漠然と大人と子供という線引きが横たわっているのだと、ただそれだけの認識だった。
後一年もすれば当時の彼の年齢に追い付くという年になり初めて理解したことは、未成年を相手に思い思われという関係は、酷く頼りのないものであるということだ。
若さは有限なのだからもっと学生らしい楽しみ方の出来る恋愛を選べば良いのに、というのは些かブーメランが過ぎるだろうか。
それでも、容姿も家柄も女性の扱いすら秀でている将来有望な男子高校生が何を血迷ってか自身を見初めてしまったことに、言い様のない罪悪感が沸き出てしまう。
何かと言うと、犯罪臭がすごい、とぼやいていた零さんの気持ちも分からなくもない。
現役高校生が相手となるとこんなにも気が引けるものなのだな、と身をもって思い知った次第である。閑話休題。
「千歳さんは恋人はいらっしゃるんですか?」
「……婚約者がいます」
むしろそれは最初に聞くことでは、と思ったが、一応間を置いて答えた。
こういった質問は千冬さんに着いてきた時などにたまに聞かれていたことなので、この答えにさして問題はない。
というかそもそも知らなかったのか、この人。
「へえ、本当だったんですね」
全 然 知 っ て い た 。
知っていて聞いてきた意外と強かな彼に、どんよりとした気持ちは面に出すことなく微笑みを絶やさずにいると、何やらめらっと瞳の中の炎が燃えたのが見えた気がした。気のせいだと思いたい。
「ところで。千歳さんはどんな花がお好きですか?」
さっき聞いた質問は一体何だったのかというほどあっさり流されて先程とは全く無関係の質問を投じられた。訝しく思いながらもこれくらいなら、と素直に答えることにする。
「そうですね、アネモネのお花が好きです」
「ああ、良いですね。俺も好きですよ」
特に、赤いものが。小首を傾けにっこりと過剰なくらいの甘さを含めて告げられた言葉に、思わず頬が引き攣りそうになるのを何とか堪えた。
高校生にしては随分マセたことをと呆れながらも、このまま言い負かされるのも癪なので少しばかり大人げないことを口にしてみる。
「以前婚約者の方にもお伝えしたら、花束でいただいたことがあって。
それ以来一層好むようになりました」
「え、」
あれ。思いの外ダメージを負って、る?待って何か耳と尻尾が垂れているのが見える罪悪感で心が抉られる……!
意地悪なことを口にしたと自覚がある分、下手にダメージを目にすると此方としても痛かった。結果的に何故か痛み分けみたいな形になっている辺り全然笑えない。
いつもはもう少し上手く仕掛けられていたと思うのだけれど、と思った所で、その"いつも"の相手に思い至り、いつの間にやら判断基準まで彼に染められている自分に苦笑する。
さすがに目の前の彼と比べてしまうのはどちらにとっても失礼だろう。
「それって、花言葉、知ってて……」
「いえ、あの、」
対高校生にはこの手の愛情表現はやはり慣れたことではなかったらしい。
背伸びをしていただけだったのかと少しの安堵を覚えながらも、実際にはそんな愛情のこもった贈り物とはかけ離れた代物であった為、嘘を吐くのもどうかと思い事の真相を打ち明けようとした瞬間、つんざくような悲鳴がその場に響き渡った。
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