◆◇




 「一体何があったんです?!」


 御村の後ろを付いて行く形で騒ぎの元に駆け付けると、同じく寄り集ったであろう人達は皆一様に青い顔をしていた。
 その中でも比較的落ち着いて状況判断を行えているように見えた若い女性が、通報でもしていたのだろう携帯の通話を終えると、くるりと此方を振り返り、
「殺人事件が起きたみたいです」と、先程の御村の問いへと返答をくれた。

 しかし、だ。
 今この緊急事態において取り沙汰されるべきことではないと分かってはいるのだけれど、この女性、何処かで見覚えがあるような──、


「あれれ〜? 千歳お姉さん、何で此処にいるの?」


 ──それは此方の台詞である、と声を大にして言いたい。
 やはりというか何というか、例の少年を連れて現れたのは、某探偵事務所──自身の婚約者が捜査の上で弟子入りをしたとかいう某名探偵の──を切り盛りしている一人娘の、毛利蘭さんであった。
 彼女一人だけであれば或いは瑣末事と思えたのかもしれない。そうは問屋が許さないとばかりに、疑心に溢れた眼差しを向けてくる少年を前にさっさとこの場から退場せしめたい気持ちが胸を占めているのが現状である。
 当然、それが許される筈もないことは重々承知ではあるけれど。


「コナンくんこそ、どうして此方へ?
蘭さんの付き添いですか?」

「ええ、実はそうなんです。
わたしの親友の伝で今日の花展に呼んでいただいたんですけど、コナンくんに一人で留守番させるのも可哀想だから」

「そうなんですか。
若いのにしっかりしてらっしゃいますね。
このくらいの男の子は元気が良くて、じっとしているのが一番苦に感じる年頃でしょうに」

「確かに、コナンくんったらすぐにどっか行っちゃうんだもん。
大人しくしてなきゃ駄目よ?」

「……はーい、蘭ねーちゃん」


 どうやら上手く話し相手を蘭さんに変更して話を流すことに成功したようだ。どんな状況であれ此方の情報をむやみやたらに話すことは得策とは言えない。個人的な情報ならば尚の事。
 どうせ周囲に同じ質問をしても、今日のわたしの目的は『御村鷹也に会いに来たこと』だという誤情報極まりないことを率先して話すに決まっている。……それはそれで問題かもしれない。
 それにしても、花展に呼ばれたはいえ此処は御村家が所有する個人的な休憩スペースである為、関係者以外は立ち入れない手筈となっていたのではなかっただろうか。
 不思議に思っていた所で蘭さんの側に寄ってきた彼女の姿に、なるほど伝のある親友とは彼女のことか、と漸く合点がいった。


「ちょっと、蘭!
アンタ千歳さんと知り合いだったわけ?」

「え? まあ、ちょっと事件で……そういう園子こそ、篠宮さんのこと知ってたの?」

「まあね。遠い親戚みたいなもんなのよ。
それより千歳さん、お久しぶりです!
今日来るなんて知らなかったからびっくりしちゃった!」

「こんにちは、園子ちゃん。
最近はあまり此方に顔を出していなかったから、本当に久しぶりだね」


 鈴木園子。鈴木財閥の御令嬢であり、千冬さんの生家に縁のあるお家の子でもあった。つまり、わたしとは全く血の繋がりはないのだが、親戚と言えば確かに、かなり遠い親戚には当たるだろう。
 昔は千冬さんに連れられてよくお花のお稽古やら何やらと顔を出していた為、たまに顔を合わせる機会が会ったのだ。幼い彼女には『千歳ちゃん』と呼ばれていたが、いつの間にか呼び方が変わっている辺り、歳月の経過を感じさせられる。
 さて、園子ちゃんの登場により彼女達が此処にいる理由は理解できたが、肝心の事件についてはまだ何も掴めていなかった。
 丁度良く此方に来てくれた彼女──恐らくは先程まで話の中心で野次馬宜しく情報収集をしていたに違いない──に事の詳細を尋ねる為、口を開く。





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