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「蘭ねーちゃん達、何見てるの?」

「ああガキンチョ、ちょっとこのデザイン悪趣味よねって蘭と話してたのよ。
小鳥を取っ捕まえてる所なんて、なんだか可哀想じゃない?」

「もう園子ったら、声大きいって。
ほら、先祖の人が鷹匠だったって言ってたし、それでじゃないかな」


 相変わらず全く小さくない声で囁く園子を諌めて苦笑している蘭の側に寄ると、そこには確かに小鳥を趾(あし)に挟んだ大きな木彫りの鷹が、雄大に羽を広げて佇んでいた。


「それは温め鳥をモチーフにしたものですよ」


 控えめな声が後ろから掛かる。振り返った先にいた何処となく寂寞とした雰囲気を纏う女性、安藤里穂が着物を翻して歩み寄って来ていた。
 「ぬくめどり?」気まずげな顔をしつつも蘭が疑問をそのまま口にする。


「冬の寒い夜、鷹が小鳥を捕らえて掴み、自分の趾を温めるんです。
翌朝には鳥を放し、暖を取らせてもらったお礼にと、その飛び去った方向にはその日行かないようにして恩に報いるというお話です」

「へえー! 素敵なお話」

「なーんだ、良い所もあるんじゃないっ」


 コロッと掌を返したような感想を漏らす幼馴染み達に苦笑を溢すと、それを見ていた安藤が慌てた様に、
「あくまでフィクションですけどね」と付け加えた。
 途端に残念そうな声を上げる素直な二人を横目に入れつつ、ある可能性に思い至った。
 それの確認は後で行うとして、もう一つ、気になっていることを投げ掛けてみる。


「ねえ、お姉さんってとっても鷹に詳しいみたいだけど、鷹が水辺に近寄ることってあるのかなあ?」

「さ、さあ、水浴びしたりすることもあるみたいだし、無くはないんじゃないかしら。
どうしてそんなことを聞くの?」


 少し固い表情の安藤を相手に、出来るだけ子供っぽい笑顔を心掛けて向ける。


「だって、鷹が本当に感謝してるかどうかなんて、誰にも分からないでしょう?」


 ハッとした表情の女の顔を視界に納め、「本当は体を温めたくなかったのなら、水辺に趾を突っ込むこともあるかもしれないなと思って!」──核心に触れた。
 何か言いたげな彼女にはもう用はない。駆け出した足はそのまま、鷹也の隣にいる彼女の下へと向かう。


「ねえ! 千歳おねーさん、聞きたいことがあるんだ!」


謎は、全て解けた。





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