◆◇




「それで、園子くん、本当かね?
事件の真相が分かったというのは」

「ええ、本当よ。
わたし分かっちゃったの。事件の犯人がね」


 影に隠れて蝶ネクタイ型変声機を口元に宛がいながら、眠ったままの園子の口調を心掛けて喋る。
 その場に集めた人達の動揺した声を歯牙にも掛けず、そのまま続きを口にした。


「犯人は、貴方よ。
安藤里穂さん」


 驚きに打ち震える彼女よりも先に復活した御村依世が吠える。


「そんな、そんなわけないでしょ!!
里穂はアリバイだってあるのよ!?」

「ええ、そうね。
ところで安藤さん。
貴方が御村夭さんの部屋に訪れたのは水揚げの用意の為だと言っていたけれど、実際に頼まれたのは湯揚げだったんじゃない?」

「え、ええまあ。
生けていたのは自由花で、ダリアが少し萎れていると言っていたので。それが、何か?」

「『温め鳥』。
貴方からその説明を聞いた時にわかったのよ、今回の事件のトリックが」


 顔面を蒼白に染め上げた安藤から目を離さないまま目暮警部が不思議そうに聞き返してきたので、聞いた内容をそのまま話すと、未だ話しきっていない推理を続ける。


「コナンくんに頼んで千歳さんに聞いてもらったの。
水が上がりにくい植物が水を吸いやすくする時に使う方法の中に、湯揚げというものがあるって。貴方は湯揚げ用のお湯を桶に用意して、部屋の備品である毛布を巻き付け、彼女の足や身体を温めることで死亡推定時刻をずらした。
ちょうど温め鳥のように、自分の痕跡を追わせない為にね」


 それだけじゃないわ、少し強めの口調で切り出す。


「鷹也さんと依世さんの仲裁に入った時、依世さんの制服の裾を引いた貴方の袖は湿っていた。それも普通の湿り方ではなく、中途半端に濡れたり乾いたりしていた。
まるで、一度深い水辺に手を突っ込んで濡らした袖を、絞って乾かしていたかのような」

「……それは」

「この屋敷の庭──夭さんの部屋の前には、大きな池があったわ。
きっと探したら出てくるんじゃないかしら、返り血を浴びた痕のある生け花用のエプロン、それと、夭さんの部屋から消えた、血を吸った毛布が」


 何も言えなくなった犯人の代わりに、
「どうして、」と震えた声で依世が溢した。
 それに対しても答えを呈示する。


「彼女が男性恐怖症(アンドロフォビア)だったからよ。
一番邪魔だった筈の御村鷹也さんには近付けなかった。だから先に夭さんを殺したの。
そうすれば、鷹也さんは疑われるか、──貴方が殺すように導くことが出来るからよ」


 ハッとした顔つきの依世には確かに、殺意への心当たりがあるのだろう。どういうことだと疑問を呈した目暮警部に答える。


「不思議だったのよね、鷹也さんと同い年の筈の依世さんが全ての事情を知っていることに。
幼い頃のことなら尚更人に聞かないと知り得ないし、かなり際どくて偏った話だったから、それを聞かせた人物が居ると思ったの。
この場にあまり参加することがなくて馴染みのない依世さんが妙に信頼していて、且つ、彼女よりも年上の人物がね。そうでしょう?」

「そんなことまで見破られていたのね」


 諦めたように沈痛な面持ちを浮かべた安藤が答えた。


「貴方の言った通りよ。わたしが夭を殺したの。
依世は覚えていなかったけれど、わたしは覚えてる。お祖父様が死に際に鷹也を、鷹也だけを見据えて、言ったことを。
『お前はきっと今に立派な鷹になる。ずっと見守っているよ、撫鷹』そう言ったのよ、わたし達には目もくれず!!」


 依世が吐いた鷹也への言葉は、全て安藤の受け売りだ。依世越しにぶつけていた鷹也への呪いは全て、安藤自身のものだった。


「何を犠牲にしてもわたしが家元を継ぐと決めたわ。わたしにはお祖父様が全てだったの。
その為には夭も邪魔だった。現家元が鷹也と夭を比べるのは鷹也を焚き付ける為だとも、夭が後を継ぐことに興味がないことも知っていた。
それでも邪魔だったのよ、あの子の才能が。
双子の妹の才能を奪ったかのようにメキメキ上達していくあの子が憎らしかった。
貴方たちさえいなかったら、わたしに目が向くのにと何度思ったことか」


 その言葉に、大人しく話を聞いていた鷹也が初めて反応を示した。
 下を向いている為に表情は何一つ見えないが、声には怒りと、深い悲しみが混ざり合っているような響きがあった。


「花を愛せなかった貴方が、憎しみと向き合い続けてきた貴方が、夭に勝てるものか」

「な、んですって?」

「夭は花を愛していた。誰よりも。
家元だとか、自分の生まれだとか、そんな柵(しがらみ)に囚われることなく、何かの為に花と向き合っていたわけでもない。
ただ、花を愛していただけだ。
最初からずっと」


 夭は、俺の憧れだった。
 ぽつりと溢した彼の言葉に、家元候補とされていた彼女達はそれぞれに思うことがあったのだろう、がくりと首を項垂れさせると、静かに顔を伏せた。





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