◆◇




「それで、探していた物は見つかったの? お嬢さん」


 明確に話を逸らした、という意思は感じ取れても、嬉しそうに寄って来る少女の姿を見ればさすがにこれ以上話を続けることは出来ないのだろう。
 釈然としない面持ちで此方を見遣る少年の視線は素知らぬ振りで通させていただく。素性の知れない男など尚更である。


「あのね、わたし吉田歩美っていうの!
あっちにいる男の子が元太くんで、その隣が光彦くん。あの女の子は哀ちゃんだよ!」

「そう、よろしくね歩美ちゃん」


 紹介に預かった男の子達二人も駆け寄ってきて、元気な声で自己紹介をしてくれた。
 「俺は嶋田元太! 少年探偵団の団長だぜ!」「僕は円谷光彦です! コナンくんも含めて僕達少年探偵団を結成しているんですよ!」その後に、声は続かない。
 一人離れた所にいる『哀ちゃん』という女の子は、近寄る素振りを見せずむしろ物陰に隠れ、此方を窺っているように感じられた。どうやら自身の知らぬ所で警戒を与えてしまったらしい。
 こればかりはどうしようもない。
 かくいう自身も警戒心は人一倍に強い方である。


「皆は探偵団なんだね。
じゃあ探し物も意外とすぐにみつかるんじゃない?」

「うん! あのね、コナンくんが探してくれてるから大丈夫なんだよ!」

「そう、コナンくんはとっても優秀なのね」

「そうなの!
お姉さんも探し物があったらわたし達少年探偵団に依頼してね。歩美達が、きっとお姉さんの大事なものを見つけてあげるから!」

「うん……ありがとう、歩美ちゃん」


 小さな頭を一撫ですると掌の下で嬉しそうな声が上がった。
 少女の他意のないひたすらに無邪気な言葉がただ、眩しかった。優しい子。
 手助けをしてあげたいと思ったのは、一重にこの少女の存在があったからに他ならなかった。


「さっき、コナンくんが『探し物は誰かに持ち去られたのかもしれない』って言っていたけれど、歩美ちゃんの探し物は一体どんな物なの?」


 少年の推理はやんわり流しつつも一応は聞いていた。
 彼からどう思うか聞かれた時には意にも介さなかったが、この心優しい少女の為というのであれば話は別である。
 思うにこの事件、そんなに簡単な話ではない。


「あのね、歩美の親戚の叔母さんのお家に今度、赤ちゃんが産まれるの。
それで、歩美が小さい時にお誕生日にもらったくまさんのぬいぐるみをその子にあげたいなと思って。
歩美はもう大きいから、くまさんがいなくても平気だからね、今度はその子の側にいてあげてねって思って持ってきたんだけど、叔母さんの病院に向かってる時にコナンくん達に会って、ちょっとお話ししてる間にくまさんが何処かに行っちゃったの!
コナンくんが言うには、その時横を通ったおじさんが何か紙袋を持っていたから、それが歩美のくまさんだったんじゃないかって言うんだけど……」


 一生懸命説明していた顔が不意に悲しげに曇る。横に立っていた男の子達が慌てて慰めようとしているが何と声を掛ければいいのか分からないようだ。
 女の子がきゅっと手を握り締めたのを見て、その幼気な両手を上から覆う。


「歩美ちゃんはとっても優しい子だね。
大丈夫、歩美ちゃんが大事にしていたくまさんが勝手に何処かに行く筈ないもの。
きっと、歩美ちゃんの所に戻ってくるよ。
でも、くまさんが寂しくないように、お姉さんも一緒に探してあげるね」

「本当? 千歳お姉さん」

「勿論。そうしたら今度は、歩美ちゃんが笑顔でくまさんを見送れるように、お姉さんにもお手伝いをさせてくれる?」

「うん、千歳お姉さんありがとう!
本当はね、歩美がくまさんと離れるのが寂しくて、それがくまさんに伝わったから何処かに行っちゃったのかもしれないって思ってたの。
でも、歩美、赤ちゃんに喜んでもらいたいな。
それも本当なんだよ」

「そうだね。大丈夫、ちゃんと分かってるよ。
くまさんもきっと、分かってくれているんじゃないかなあ」


 そうっと撫でている内に少女の頭が近付いてきたので、胸に寄せて今度は背中を撫でてやると、頬をすり寄せてきたのが分かり温かな気持ちになった。六つの観察する瞳など、気にもならない程に。
 後で彼に謝らなければいけないかなあ、なんてぼんやりと考えながら、それでも思考を巡らせていた。





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