空から綺麗な女人が落ちてきた、それはもう女ならば誰もが羨むくらいの美貌を持ち、男ならば誰もが振り向き欲しがるその存在。人々は皆口を揃えて彼女を讃える。

「天女様」

と。

だけれど私はそうは思わない。忍たま上級生、彼らには見せない女の醜い顔を持った天女に吐き気を覚えていた。そんな天女が上級生を使って力で下級生や私たちくのたまをねじ伏せ始めたのはつい最近。お前たちは一体どうしてしまったの。
泣いてばかりの忍たま下級生、悔しくても手も足も出せない私たちは静かに彼女が消えるのを待つしか出来ない。

いつの間にかくのたま自体が悪いものとなってしまったのははて一体いつからだったか。
天女を優先され食堂にも風呂にも行けないだなんてそんなの可笑しいと思いませんか、私たちは所詮はくのたま。戦忍を目指しているくのたまなんてほんの一握り、いや、一握りも居やしない。そんな私たちが戦忍を目指し日々鍛練を続けている忍たまに敵うわけもないのは目に見えている。でも誰かが動かなければならないのならば最年長の私しかいないんでしょうね。
苦虫を潰したようにしわくちゃな顔をもっとしわくちゃにさせて学園長先生とシナ先生はこちらを見ている。仕方ないんですよ、残されたくのたま上級生は私しかいないんですから。なんて嘘。本当は嫌ですよ、だってこんなの私が死に急ぐだけなんだから。それでも動かなければならないの。これは後輩たちから託された希望であって、私の大切な仲間の仇。そう、仲間はみんな天女に殺された。死んだんだ。愛した奴等に首を跳ねられるのはいかがな気持ちだったのか、心臓を貫かれ、四肢を断たれ、想いを砕かれた彼女らは、きっと誰よりも気高く美しく、最高として地に落ちたのだろう。遺されたわたしの残された道はただ一つ、後輩の為、今までお世話になってきたこの学園の為に命をかけます。


***


嗚呼、やはりね。キンキン耳に響く甲高い悲鳴に彼らは来てしまった。月夜に照された銀、その銀から滴り落ちる深紅のソレとピクリとも動かない血塗れの横たわった彼女に駆け付けた誰もが、怒り狂い突進を始める。
色に溺れた憐れな男はそれでも男。戦忍を唯一目指していなかった私をとらえるなんて他のくのたまに比べればとても簡単なようで抵抗も見せる気もない私は涙を流し狂気を纏った彼らからたくさんの暴行を受けて瞼を閉じた。
痛いな、みんなこんな痛い目にあいながら死んでいったのかな。でもみんなは良いなあ、戦忍として闘って死ねたんだもん、私は卒業したら輿入れの予定で、謂わばお嫁さんとして後世を生きる筈だったんだから。もう体も動かないよ、痛いよ、眠いよ。なんで天女なんか降ってきたんだばかやろう、ちょーじのばかやろう。大好きだ。


***


「う゛お゛ぉい、生きてんのかぁ?」

「………、」

「生きてんのか?死んでんのかあ?」

「、髪…ひっぱる、な…」

「血塗れで何してんだ?死体ごっこか?あ?」

「………」

「う゛お゛ぉい寝るなぁ、本当に死ぬぞぉ?」

「…うる、さ…い、」


騒音に目を開ければそこには銀色の髪の毛に黒ずくめの華奢な男、そいつは私と目を合わせるなりニヤリと笑い怪我だらけなのを無視して担ぎ上げ走り出した、それからの記憶はない。



(目を醒ますと)(そこは不思議な世界)(包帯だらけの体は)(なにもおぼえていなかった。)

あなたはだれですか。

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