「ねぇ私もう疲れた」

「黙れ、お前がポーカーさえ覚えれば休憩させてやるつもりだ」

「やだやだやだ。私のキャパ狭いの知ってるでしょ」


今は親友であるクリフォードの家に来ている。一時間前にスマホに連絡があった時には二度見するくらいテンションが上がった。だってあの超プライド高い王族のクリフォードの口から『親友』って言葉が出たのだ、そりゃもうどうしたの明日は槍が降るのかな??って軽い脳内カーニバルが行われるほどだ。

なのにいざクリフォードのもとに行けば投げ付けられたトランプの束。なんだなんだ、ババ抜きでもするつもりなのか。私がそんな考えをしていたのに気付いたのか奴は「ポーカー」とたった一言言ってソファーにふんぞり返って座っていたのだ。ポーカーなんて生まれてこのかたした事なんてない。クリフォードがしてるのを見た事はあるけど、理解しようとも思ってない。ついでに負けるの目に見えてるから賭け事なんて大嫌い。だから今まで賭け事なんてスルーしてきた私がポーカーなんか出来る訳ないし、あげく相手はこの無敗の勝負師だ。確実に負ける。「いやだよ…」一言呟くと「教えてやるから」と意外と優しい声と表情でこの言葉が返ってきた為少しトキメキを覚えてしまった。多分クリフォードは私がイケメンに弱い事を知っていたに違いないし、自分がイケメンだと分かっててあれをしたんだ。結局あれよこれよと勝負師に流されポーカーを覚える事になってしまった。


「休憩させてほしいんだけど」

「まだ始めて一時間弱だ」

「なんでポーカー覚えなきゃならんのさ…」

「今度青二才と勝負すんだよ。」

「クリフォードがでしょ?私関係ないじゃん」

「セナと、お前がすんだよ。」

「ねえ初耳〜」


話を聞けばヒル魔くんがセナにポーカーを教えて、クリフォードが私に教える。そして教わったセナと私がポーカーで対決する。という本当迷惑なゲームの約束を取り付けて来たらしい。え、本当なんなの?

一通り説明を受けて何度目かのポーカーだが連敗している。
その度に「なまえは顔に出やすいからな」って笑うクリフォードに悔しさが止まらない。
負けず嫌いの炎がメラメラ燃えてしまい、もう一回を何度も繰り返すが「ロイヤルストレートフラッシュ」の一言と共に見せられるカードに、カードの引きの弱さを恨んだ。

ようやくストレートを手元に持ってこれた事に喜びを覚えるが容易くフォーカードで敗れるのはもうこれセナにも負けるわ…


「…弱えな」

「引きの弱さを今ほど恨んだことはない」

「これじゃあ負け戦じゃねえかよ。」

「勝手に約束取り付けて来たのはクリフォードじゃん。セナも可哀想だよ。」

「青二才にコケにされた雪辱は晴らさねぇと気がすまねえんだよ。」


少し不機嫌なクリフォードを恨めしそうに見つめると喉で笑われ「ホラ、早く。」と指でテーブルを指され再びカードを配られる。

ロイヤルストレートフラッシュなんてそんな簡単に出せる訳のないカードを連続でパンパン出してくるあたり本当容赦ないし、私の元に来るカードたちはストレートが良いところ。
勝負を仕掛けて簡単に返り討ちにされるってまじで雑魚だよね、私。


「またなまえの負けだな、賭け金出せよ。」

「待ってこれレクチャーでしょ。賭け金とか聞いてない!」

「今言った」

「私お金持ってないよ〜!あっ、筧くんのブロマイドならあるよ!」

「ふざけてんのか」


アイアンクローで私の頭を攻め立てる。めちゃくちゃ痛い。流石QBですね、握力はんぱないです!
メギメギと私の頭蓋骨が悲鳴を上げ始めてようやく彼の手から解放されるが頭が痛いのには変わらないし、賭け金を差し出せという要求は無くならなかった。
渋々お気に入りの筧くんブロマイドを一枚差し出すとビリビリに破かれる。それを目の前でやられる私とやるクリフォードのお互いの顔といったら無いだろう。


「おあああああ!筧くん!私のイケメンコレクションの筧くんがああああ!!!!!!」

「男の写真なんて貰っても嬉しかねえよ」

「これレアなのにー!プレミアついてるのにー!」

「なまえは日本の男の方が好きなのかよ」

「イケメンはみんな好きかなー!」

「クソ」


テーブルを思い切り拳で殴り立ち上がるクリフォードに驚いて後を追うがピタリと扉の前で止まり、顔だけこちらに向ける。視線は私には向いていないが何かを言おうと口をパクパクさせている。よくわからない行動ではあったが耳がほんのり赤い所を見て、そこまで鈍感でもないために私まで耳が赤くなって来る。

これはもしかすると、両片想いとか言う超甘酸っぱいやつなのでは?クリフォードとの間合いを一気に詰めて腕を掴む。


「クリフォード、あのさ。」

「うるさい。黙れ」

「お顔が赤いようですが!」

「うるせえよ」

「クリフォード、お知らせがあります。」


もしかしたら私たちは同じ想いかもしれません。


そう言うと彼はぐるりとこちらに向き直り今度は彼が私の肩をガッシリと掴み凄い顔をしている。こんなクリフォードを出会ってから果たして見たことがあっただろうか、否、ない。きっとクリフォードとお付き合いした女の子だって見たことないんじゃないだろうか。

何も音がしない空間でドキドキと私の胸が鳴る。
クリフォードの目は私を捉えて離さない、ジッと見つめると徐々に顔が近づいて来て、


「やっぱりイケメンすぎてむり!」


ムギュ、とクリフォードの口元を両手で覆って引き離した時小さく「覚えてやがれ」と唸ったのを確かに聞いた。

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