「お?おおおおあああ????」

「どうかしましたか?」

「お、おいしい…」

「それは良かったです。」


にこり、とこちらの顔を覗くようにして微笑む沖矢さんに対して私は目を見開いて目の前に出されたクリームシチューを口に運び入れていく。
彼、沖矢昴さんと出会ったのは蘭ちゃんと園子ちゃんが「なまえちゃんも一緒に新一くんのお家掃除に行くぞ〜〜ちなみに今昴さんって人居候してるらしいぞ〜〜!」って軽いノリで腕掴まれて連れて行かれたのが発端である。正直ね、居候いるならその人に掃除任せればよくない?って思ったんだけど流石にあんだけ広い屋敷を一人で掃除は無理だし、新一くんのお部屋は蘭ちゃんじゃないとお掃除は許されないんだろうなあ。って思って考えを改めた。

いざ新一くんのお家着いたら着いたでもうホント、相変わらずの存在感だし貴族でも住んでんのかよって思うレベルなわけ。居候がいる為かインターホンを押して中に入る了承を貰いガチャリと扉を開けて「おじゃまします」とひとつ挨拶すると現れたのはイケメン。え、なにこれ。新一くんもなかなかイケてる顔してたしその両親だってもう国宝級の容姿を持ち合わせていたと記憶している。そしてこの居候だ。なんだなんだ。ここに住む人間は顔面偏差値めちゃんこ高い奴らしか住めねえのか、なんだよ世の中不公平じゃねえかチクショウ。そんな彼に初めて発した言葉が「イケメン尊い」だった。私への第一印象なんて怖くて聞けない。
多分ホント印象はあまりよろしくないのにお掃除中に些細なやりとりで何故か沖矢さんと仲良くなれてこうして時折ご飯食べさせてもらってる。ホント何故。あの時の私何したの。


「沖矢さんは料理教室開いた方がいいと思うんですよね」

「そこまでの腕はありませんよ」

「凄いおいしいのに。煮込み料理多いけど。」

「煮込みって楽なんですよね。」

「リクエストしたら作ってくれたりします?」

「なまえさんからお願いされたら作る以外の選択肢はありませんね。」

「えー嬉しいー。今度はラザニアが食べたいです。」

「腕によりをかけて作りますね。」


こうして私は見事に胃袋掴まれてるんだよ。こんなイケメンの手料理食べれてる私凄くない?我が人生に一生の悔いなし。だよね。今ならその言葉に激しく共感出来る。
目の前の沖矢さんは先程まで頬杖ついてこちらを見ていたけれど私がラザニア食べたいと言った後からスマホでラザニアの作り方を検索していた。何これ可愛い。ねえなんで沖矢さんって全てが可愛く見えるの信じらんない、この沖矢さんマジックを誰かに解いてもらいたい。


「そういえばなまえさんはお休みの日は何してるんですか?」


食べ終わった食器を一緒に片付けている際、不意に投げかけられた質問に、何していただろうかといつもの休日を思い出す。


「バイトとか、友達と遊びに行ったりとか、あとは沖矢さんにこうして会いに来たりですかね?」

「おや、バイトしてるんですか?」

「うちお小遣い制じゃないから、自分の分は自分で〜って言われてそれで。自由な時間無くなるのは嫌だったけど、その分使えるお金増えるし、まあいっか。って。」


別に生活苦な訳ではなく、親としてはお金の重みを知ってほしいとの事でこうなっているのだ。でもバイトで色んな歳のお友達も増えたので結果オーライ。楽しく働かせて頂いている。


「ちなみにファミレスで働いてて、店長がすごく優しい人でこの前テーマパークのチケット2枚貰ったんですけど誰と行こうって悩んでて…」


園子ちゃんや蘭ちゃん誘おうと思ったけど、園子ちゃんのお家が関わってるテーマパークだから「チケットなんて要らないわよ!」って言われて結局貰ったチケットが無駄になりそう。どうせなら最近(一方的に)仲良くなった哀ちゃんとデート行こうかなって考えて、撃沈する未来しか見えなかった為未だに手帳にチケットが挟まっている。


「沖矢さんって彼女さんいたりします?」


鞄を漁って手帳からチケットを抜いて沖矢さんに差し出す。


「良かったら彼女さんと一緒に行ってきてください。」


どうぞ、と言うけれど沖矢さんはジッとこちらを見て黙っている。
なになに、私なんかしたのか。もしかして私が貰ったチケットなのにウンタラカンタラって思ってたりするのだろうか。私は園子ちゃんに頼んで連れてってもらえるからもう何も気にせず彼女さんと遊びにいってきてくれたらこのチケットもきっと成仏してくれる。はず。


「なまえさんが頂いたものですし、その本人が行かないのは如何なものかと。」

「誰を誘おうって悩んでもう私には誘える人が居ない事に気付きました。気付きたくない真実。」

「でしたら僕と行きませんか?」

「沖矢さんの彼女さんに刺される可能性しかないので、お断りします。」

「勘違いされているようですが僕には彼女はいませんよ。」

「え?なんでこんなにイケメンなのになんで居ないんですか?永遠に解けない謎ですね!?」

「別に解いて頂かなくても構わない謎ですね。どうです?僕と行きませんか?」

「えっえっホントに良いんですか!?私ショーメインで回るタイプなんですけど沖矢さん辛くないですか?」

「僕はこのテーマパークに行くのは初めてなのでなまえさんについて回りたいのですが良いですか?」

「ありがとうございますー!じゃあ沖矢さんいつお暇ですか?いつ行きましょう!」


ペンケースからシャーペンを出しカチカチと芯を出す。
チケットを無駄にしなくて済む喜びとイケメンとテーマパークに行ける喜びにきっと目を輝かせてるだろう。
テーブルに手帳を広げて日にちを確認していると隣に移動してきた沖矢さんが手帳を覗き見、「意外と日にち埋まってるんですね」と苦笑いしていた。「バイト先でお友達いっぱいできたんですよ」と笑うと小さく笑って手帳とペンを取られ、手元に戻って来たその手帳には翌月の休日に丸が付けられていた。






(その日は絶対予定空けといてくださいね)(え、あ、はい。)(楽しみですね)

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