これの1ヶ月後




今日はとても散々な一日だった。そう言わざるを得ない。
朝の占いではお姉さんが私の運勢は最高だと言っていたのになぜこんな事になったのだろうか。1ヶ月前に誰かからは分からないが(買った記憶もないが多分ginと言う人から)貰ったお気に入り中のお気に入りであるヒールが折れたパンプスを片手に夜の静かな街をトボトボと歩く。


「出勤したら入館パス忘れてるし、今日締め切りのデータが途中フリーズから飛んじゃったし、お茶汲み係の子とぶつかってお茶ぶっかかったし、今日高校の時の友達と飲み会だったのに残業でドタキャン。そんでもってパンプスのヒールが折れた。はぁ…かっこ悪いのオンパーレド。縁切り神社行った意味…」


ヒールが折れてすぐにコンビニには寄って接着剤を買いくっ付けてはみたものの、ダメだった。
貰った物でもあるし、すごくお気に入りだったのに。次の休みに修理に出してダメだったら捨てよう。形あるものはいずれ壊れる、仕方ない。おばあちゃんがよく言っていた言葉を思い出し前向きに考えるようにするけれど、でも壊れるの早すぎじゃないだろうか。私の体重がいけなかったのか。悲しい。
大通りまではちょっと履きづらいが何とか歩き、路地に入った途端に面倒臭さが勝ち両足のパンプスを脱ぎ手に持つ事にした。ちゃんと舗装はしてあるといってもそこら中に小石が転がっている為回避できずにブスリと足に刺さる。痛い。


「やっぱストッキング破れるよねえ〜」


伝線してるストッキングを見てまたため息。


「ねえ、大丈夫?」

「え?」


家に向かい再び歩き出そうとした時、1つ先にある街灯に照らされてこちらをみる少年に声をかけられた。
街灯がついてるのでそこそこいい時間な気がして腕時計見るとやはりいい時間。こんな時間にこの子は一体何をしてるのだろうか。


「靴、壊れちゃったの…」

「そうなの?大丈夫?」


見せて、そう私の手からヒールの折れたパンプスを受け取りその小さなでクルクルと回して様子を見るが小さな子に修理は出来ないだろうし、なによりもこの少年をお家に帰さなければこれはお巡りさんのお世話になりそうな予感。
なのに、子供ってなんでこんなに可愛いのかなあ、と一つ一つの行動が可愛くてつい小さく笑ってしまう。


「コナンくん、どうしたんですか?」

「あ、昴さん。」

「そちらの方は?」

「えっあ、こんばんは、みょうじと言います。すいません、お子さんを足止めしてしまって…」

「沖矢です、ちなみにこの子は僕の子ではありませんよ。コナンくんどうしたんですか?」

「んーお姉さんの靴壊れちゃったみたいなんだよね。ほら。」


折れたヒールを沖矢と名乗る人に手渡し、そしてこちらを見遣る。


「こんな時間にこれは危ないよ?」

「そう?」

「うん。だって誰かに襲われたら裸足じゃ走れないよ」

「…たしかに。」


案外走れるのでは、と一瞬思ったがそういえばさっき小石踏んで痛い思いしたばかりだったのを思い出した。
少年とお話をしていたら沖矢さんが、これは直らないかもしれませんね。と眉を下げてパンプスを手渡して来た。え、まじ?これ直らないの?
何度も言うけどこのパンプス1ヶ月前に頂いたものです。


「…はあ。」

「お姉さん元気出して?」

「だめだ、もう今日ついてなさ過ぎて泣きそうになる。」

「人生そんな時もありますよ。」

「あああああ…」


小さな手が私の頭を撫でる。なんて愛らしいのか。
近くに沖矢さんの住んでいるお家があるらしく、そこに代わりの靴があるからと少年に手を引かれ沖矢さんのお家に向かうが、それ絶対彼女さんとかの靴でしょ。それ絶対あかんやつやん!沖矢さんは有無を言わさないよう半強制的に私を背負い少しだけ我慢してくださいねとニコリとした。イケメンずるいね。


***


結局彼のお家まで来てしまったがここは何なの、お家とは言えない城が住宅地にあった。聞けばあの有名な工藤優作と藤峰有希子のご自宅だとか。そんなバナナ。うそ、ごめん。動揺が隠せない。有名人のお宅訪問とか生まれてこのかた初めてで今の今までどうやって呼吸してたかとかどうやって歩いていたかとかもう全部吹っ飛んで緊張のあまり気持ち悪くなって来た。
玄関先で唸っている私をよそに少年はグイグイ手を引っ張って来る。まって本当まだこころの準備が!


「みょうじさんいい加減早く上がってよ。」

「待って、なんでそんな急に冷たくなるの?」

「このパンプスどうしますか?」

「あ、えっと、一応直してもらえるか修理にも出してみます。」

「分かりました捨てておきますね。」

「話聞いてくださいってば!って、あっ!」


いつの間にパンプスを手にしていたのか沖矢さんは私の返答を聞きにこやかにゴミ箱に投げ入れた。貰い物だから分からないけど多分結構いい値段するパンプスだと思うんですけど。
唖然としていると少年が、早く。とまた手を引いて来たので渋々お邪魔しますとだけ言って彼らについてリビングのソファーに座る。どこを見ても住んでいる世界が違い過ぎて言葉を失う。

目の前には沖矢さん、隣には少年。私の手は少年と繋がれている。




「みょうじなまえ、話を聞かせてもらおうか。」

「えっ、え、あ、名前、なんで知って…え?」



この人に会ってから名字は名乗った記憶はあるのだが名前まで名乗った記憶がなく私もしかしてヤバイかもしれないと一人でパニックになり冷や汗が溢れる。
私1ヶ月前に縁切り行ってきたはずなのにヤバイ人にしか会わないのはなんでなの。私呪われたな。

混乱していると隣に座っていた少年がジッとこちらを見てくる。なんでそんな緊張感漂わせてるのかちっとも分からない。


「ねえ、なまえさん、貴女は…」

「みょうじなまえ、お前は一般市民のはず、先ほど捨てた靴には発信機と盗聴器が付けられていた。ヒールが折れた事により壊れたようだが…お前は、何者だ。」

「え、あの、え?みょうじなまえ、です…て、え?発信機?盗聴器…?え?なんで、?」


情報がポンポン出てきて私の頭の中はキャパオーバーでパンクしそう。発信機と盗聴器だ、と見せられた物を見て正直それらが本物なのかは分からないけど、実際本物だと言うのなら本物なのだろう。そう判断してからゾッとして鳥肌がたった。「ただ、私宛に宅配ボックスに入ってたから…」だから遠慮なく使っていた。そう伝えると二人は呆れたようにため息をついて沖矢さんは目を覆うように手を当てている。

相当呆れているようです。

でもそんなまさか発信機とか盗聴器が仕掛けられてるだなんて誰が考えますか。それより二人はどうして私に接触して来たのだろうか、もしかしてこの二人はよくテレビで見かける『盗聴器を見つけます!』みたいな番組の仕掛け人だろうか。だとしてもこんな小さな少年をこんな時間まで拘束するだろうか、そしてカメラもない。


「…もらった人間に心当たりは?」

「な、ないですよ!当たり前じゃないですか。」

「じゃあどんな感じに包まれてたの?」

「真っ黒な包みだったような…あっ、そうそうginって書いてあるカードがあったかなあ。」

「ジンだって!?」

「あ、これジンって読むの?ギンかと思ってた…あっそんな目で見ないでください…!私、学ないんですよ!」

「これではっきりした。お前はこれから保護観察対象とみなす。悪いが拒否権はない。」





いいな、と今まで目を閉じていた目を開けギロリと睨まれ本当に私の日常が消えて無くなった。

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