ガタンゴトンと電車に揺られ車窓からは暖かい陽の光が差し込んでいる。あんな事がなければ、そして隣に誰かが居なければきっと今頃私は夢の中だ。

あんな事とは、5年間お付き合いしていた彼氏とさようならをした。正直振られるなんて思ってもなかった。だって別れを切り出されるその直前まで私たちは円満だったのだから誰がそんな別れようだなんて言われると思うのさ。理由を聞けば在り来たりに「お前以上に好きな奴が出来た」だそうで。ちなみにその方とは結婚を前提に付き合いたいとも言っていたような気がする。あまりの衝撃にあまり覚えてないけど私の5年間は一体なんだったのだろうか。もうこれはきっと結婚だろう、だからその日呼び出された時の真剣な声にドキドキしていたと言うのに。そうか、彼はもう私なんて要らなかったんだ。恋愛下手な私なりに結構頑張ったはずなんだけど、結局ダメだったのだ。



「…で、なんで俺がてめぇと旅行行かなきゃなんねぇんだよ。」

「傷心中の私を睨みつけるのはやめてほしい、出来るなら優しさを投げて寄越して。」


振られて一月経ちました。
よく女は別れてから徐々に回復して精神的にもヤッフー!ってなるって聞いてたのにちょっと私の場合はそう簡単に回復してくれなかったようで私の唯一の理解者であり友人のリヴァイを無理やり傷心旅行に引き連れてきた。そのせいで彼は会社を休む羽目になり、私の横で大事な商談が、とか納期が、とか保険会社本社で事務員やってる私にはちっとも分からない事だけどため息をずっとついていて心の中ではごめんね。とため息を聞くたびに呟いている。

今年で30歳になったのにも関わらず私には女友達が居ない事に辛さを感じざるを得ない。女友達さえ居れば色んな相談とか次の恋の応援とか励ましてくれたりするんだろうな。


「大体振られたくらいで傷つくタマか?」

「振られた後に年齢と、彼に捧げた5年間を思ったら傷つかずにはいられない…」

「たかが5年じゃねぇか。」

「私にとってはすごい長い時間なんだよ。5年もお付き合い出来たらこれは結婚なのでは?とか思っちゃうじゃん」

「てめぇも結婚には興味はあるんだな。」


失礼だね。眉間に皺を寄せてジトリと見ればリヴァイは気持ちを切り替えたのかスマホでこれから行く先の観光スポットを探していた。


「有給だって溜まりに溜まってんだ。消化にはいいだろう。」

「社畜さんだもんね。」

「仕事以外する事ねぇんだよ。」

「自分で言ってて寂しくないの?」

「全く。」


スイスイ指でスマホをスワイプして居たリヴァイが胸ポケットにスマホを入れこちらを見遣ったと思ったらポスン、と頭を私の肩に預け目を瞑った。
彼とは確かに友人、否親友と言っても過言では無い程の絆を築いてきたがこんな彼を見た事があっただろうか。過去を振り返ってもこんな事は記憶にはない。何故ならば彼は潔癖が過ぎる潔癖だし、何もよりも誰かにこうして寄りかかるなんて多分プライド的なものが許さないのでないか。あ、でもリヴァイは彼女出来たことあるのかな。聞いたことないや。(余談だが大学生の時に何となく「好きな人はいないの?」の問いに対して「ずっと好きな奴はいる。」とは聞いたことはある)きっと彼女の前ではこうした甘えとかはしてるんだろうなー。っていやいやいや。私彼女じゃない。


「駅着いたら起こせ」

「うん。わかった。」


ガタンゴトンと音が鳴る。
車窓からは見える景色はとても綺麗な海。そんな海が光を反射して車窓から陽の光とともに私たちを照らす。
一ヶ月間ずっと自分の心が荒んでいたためこんな事ですら心が穏やかになってしまう。だからきっと口が滑ってしまったんだろう。

「リヴァイが彼氏だったら私の心はずっと穏やかなんだろうな。」

ただの願望だ。だってリヴァイは何だかんだ文句は言うけれど最終的には私の事を優先してくれる事がほとんどで面倒くさい女ナンバーワンであろう私にはこうした心広い彼が必要なのではないか。
とことん自分勝手な意見である。
でも、もし、リヴァイが彼氏になったらきっと私は世界で一番幸せな女になると思う。ずっと好きな人の期間がどれほどかは分からないけれどずっとと言うことはずっとな訳で、今もその人が好きだとしたら凄くない?一途だよね。私はそんな人と出会いたい…。出会えなかった結果がこれな訳だが。


***


次の駅のアナウンスが車内に響く。
車窓から溢れる陽は夕陽に変わり橙が照らす。


「リヴァイ、次だよ。起きなよ。」

「、ん?ああ。着いたか」

「よく寝たね。やっぱり疲れ溜まってたんだね」

「電車でこんなに寝たのは初めてだ」

「駅出たらシャトルバスあるからそれ乗ってホテル行こうね」

「ああ。」


電車が止まり扉が開き、私たちは荷物を持ってその場を後にする。
二泊三日の女の旅行は荷物が大きくなって困る。とてもという訳ではないけれど中々に重くなる訳で、少し歩く速度が遅れてしまい先を行くリヴァイの後を慌てて追いかける。
肩掛けだと肩が痛く、キャリーにすれば良かったなぁ。とか小さな後悔をしながらもリヴァイの隣にまで追い付くと差し出される手に頭の上にハテナが飛ぶ。
何に対してなのか分からず出された手に対してソッと手を出してそのまま握り手を繋ぐ形になった。リヴァイの顔を見れば何してんだお前みたいな顔して此方を見てくる。なんだ、違ったのか。


「あ、ごめん!」

「……」

「いたたたたたたたた!」

「ふざけんじゃねぇぞ」

「ごめんって謝ったのに…いたい…」


凄い怒らせてしまったようだ。手を握ったまま力を思い切り入れられクッキリとリヴァイの手の跡がついて若干の涙目にもなる私に対して彼は小さく舌打ちをし「さっさと行くぞ」と私のカバンを奪い取り早足で駅を後にする。
そんなリヴァイの耳が真っ赤になってるを私は見てしまった。


その時から私の心臓が騒がしくなってしまったのはまた別のお話。

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