02
時計の針の音がカチ、カチ、とリビングに大きく響く。
ソファには先ほどの暴君が我が物顔で座り、家主である私はフローリングに敷いたカーペットの上に正座している。
どうしてこうなった。
「で、返事は?」
「間に合ってます…」
「…」
「間に合ってます」
無言の圧力ってかなり怖い。
拾うって何、この人が勝手に私の家に上がり込んでただけじゃん、拾うって何!!
「返事は?」
「だから、」
「返事は?」
「拾いたいなあ…」
卑怯だと思う。
今まで肩に下げてただけの猟銃を私の額に押し付けてにこやかにしているのだ。これは卑怯すぎる。
首を縦に振るか、はいと答える以外の選択肢がない。
私の答えに満足した男は「尾形だ」とだけ伝え髪をまた撫で付ける。
「みょうじです。」
「名前はなんだ。」
「なまえです。」
「ははぁ。みょうじか。」
名前を聞いた意味が果たしてあるのか。
どこまでも自由な暴漢に苛立ちが募るが、私もなんで受け入れてるのか謎である。こういう時は警察に電話した方が早いに決まっている。
実際襲われたし銃刀法違反でこのオガタという暴漢は捕まるに違いない。ポケットに入っていたスマホを気付かれないように操作し警察に電話しようとした時だった。
「何をしているんだ?ん?」
喉の奥から聞いたことない「ひゅん」って音が漏れた気がした。
今度は懐から出した短銃を私の額に押し当て絶えずその違和感だらけの笑みを向けてくるオガタという男に冷や汗が流れる。
「で、話は戻るがここはどこだ?」
「…私の家だけど、」
警察に通報するのも諦めて座り直して男と向き合う。が、襲われた時は何も思わなかったがよくよく男を見ると軍服の様なものを身に纏っているように見える。なんだこの人。
「…ねえ、コスプレ強盗?」
「は?なんだ?」
「貴方が来てるの多分軍服でしょ?コスプレ?」
「……確かに俺が着てるのは軍服で俺は軍人だ、よく分からん言葉では無い事は確かだ。」
「軍人が居直り強盗とか一番やっちゃダメじゃん…最近確かに公務員たちのそういう事件いっぱいあるけど強盗は初耳だよ…」
「俺は強盗じゃねえよ。何も盗っちゃいねぇ。」
「いや、確かにそうだけど、帰ったら知らない人居るとか恐怖の以外無いよ。っていうか本当は出てってほしい」
「…まだくだらん事を言うのか?」
「年号も変わったって言うのに初っ端からこんな厄介ごとに巻き込まれるなんて…」
「年号が変わった?」
「今は年号も平成から変わって令和。なんで知らないの…あんなにニュースでも取りざたされてたじゃん。あともう通報もしないでおくから今日は帰りなよ…って言うか帰って欲しいです。」
「へいせい、れいわ、年号…」と呟き、何かを考えるように整えられた顎髭に手を置き、真っ黒な瞳がローテーブルに置いてあるテレビのリモコンを捉える。
何を考えているか分からない目をしている。
沈黙がリビングを包み、家主である私はとても居心地が悪い。頼むから帰ってくれないかな〜、もう0時回っちゃうし私はもう眠りたい。
「ふぁ、」
不意に出てしまった欠伸にオガタはビクリ、と体を跳ね此方を見遣る。
「え、その目どうなってるの?猫?」
「俺は大日本帝国陸軍第七師団だ。」
「会話しよ?」
「俺たちの生きている時代は明治だ、へいせいなんて年号はしらねぇ。」
「明治とか昔じゃ…どういう事…」
「ここは未来ってことか?」
「で、電波だぁ…」
此方を見たオガタの瞳は猫の様にキュッと瞳孔が縦長になっていてこんな人初めて見たのも相まって正直怖い。
そのままの瞳で淡々と私に語ってくるが何を言ってるのか全く分からないし、第日本帝国とか昔の日本の呼び方じゃないか。これは危ない人かもしれない、早々に帰って頂き縁を切らせていただこう。
「お帰りはあちらですので、」そう伝えようとしたがオガタは立ち上がり窓に向かって歩き出す。
シャッとカーテンを開け、お世辞にも綺麗とは言えない夜景をジッと見つめ、此方に向き直ると坊主頭を撫で付け息を吐く。
「どうやら俺は未来に来たって事だな」
「待って付いていけない怖い。」
「お前は俺を拾ったんだ、最後まで面倒くらいみろよ?」
目の前が真っ白になるってこの事を言うんだ。
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