05


日用品から衣類関係までザッと揃えてフロアマップの前で立ち止まる。忘れていたが今私はオガタの着ていた軍服が入った紙袋を手にしている。下着やら靴下くらいなら私の家でも洗えるが軍服となると流石に型崩れが怖いし二度と着れなくなる事もありそうでビビってしまい、これはもうクリーニングに出す方が早い。そう思いモールに持ってきたのだ。


「滅多にクリーニング屋さんには行かないからどこにあるのか探すのに時間かかるや。…あ!あった!」


いかんせんなかなか見つからないクリーニング屋さんの文字に現代人である私はイラッとしてしまい匙を投げてしまいそうになるが、その瞬間に限って見つかるのが人間だ。
一階のどの辺りにあるかをしっかりと確認して歩き出す。
全てではないが重たい荷物をオガタに持たせているのには気が引けてしまうが早くクリーニング屋さんに辿り着きたくて少し早足になる。後ろを歩いているだろう彼に話しかけようと振り向くがいつのまにこんなにも距離が出来たのだろうかと言うほど凄い遠くの方でゆっくりと歩いているのが見える。え、遠目から見たら輩にしか見えない。私あんな人と歩いてたの?怖くない?着替えさせれば良かった気がする。

「んも〜〜」と項垂れながらも今歩いて来た道を戻り辺りを物珍しそうに見遣っているオガタの腕を掴む。


「迷子になっちゃうよ」

「…」

「呼び出ししても絶対場所わからないでしょ、私もゆっくり歩かなくてごめんね。はぐれないように一緒に歩こ」

「…」

「今からクリーニング屋さんでオガタの軍服お願いするから、それ終わったら食材買って帰ろう」

「…」

「何食べたい?」


彼の顔を覗き込むと口を真一文字に閉じ切りジットリとした視線で此方を睨みつけてきており、その視線に思わずたじろぐ。
腕を掴んだ瞬間にピタリと足を止められてしまい、そこから何をしてもSNSでよく見かける散歩を終えたくない芝犬のように、少しも動かなくなってしまった。
流石は軍人とでも言えばいいのか、本当にいくら引っ張っても微動だにしないオガタにキョトンとしてしまう。


「オガタ〜、どうしたの?私何か気に触ることした?」


急に自分の意思表示すらしなくなったオガタ。
こんな真顔で見られると嫌な意味で心臓がドキドキして汗が出てきてしまう。彼の顔の前に手をヒラヒラさせてみるが1ミリも瞳すらも動かない。


「そんな目で見ないでよ〜!怖いよ!」

「…」

「ここ、人いっぱい通るからせめて端っこ行こうよ。」

「…」

「オガタは何に怒ってるの?言ってくれないと私は馬鹿だから分かんないよ」

「……この目はきらいだ」

「そうだったの?何も知らないとは言え傷付けてごめんね、オガタの目が凄く特徴的で好きだったからつい。」


再びごめん、と謝罪をすると今まで気付かなかったが薄っすらと眉間に皺が寄っていたようで、その皺がゆっくりと伸びて消えていく。
掴み続けていた腕を引いて歩き出すと一緒になって彼も歩き出す。

ようやく辿り着いたクリーニング屋さんにオガタの軍服を渡すと「コスプレ…?」と店員さんの顔がそう訪ねてきていた気がしたが出来上がりの日にちだけを聞いて店を後にする。
専門店に任せればきっとあの軍服にこびりついた色んなニオイも取れると信じてる。畳んで紙袋に入れる時臭かった。何をどうしたらあんなニオイになるのかわからないし、どれだけ洗ってなかったんだろう。
意外と早く出来上がるようなので良かったね、と言いながら食材コーナーに足を運び始めると途中にある数々のお店に目を奪われ度々足を止めて猫の目になり品々を凝視する。
「時間いっぱいあるし、見てく?」「いやいい。」「そう?」「…」「このマグカップかわいい〜!ちょっとこのお店見てっていい?」このくだりを何度した事か。
オガタなりの気遣いなんだろうけど遠慮せず見ればいいのに変なところで気を遣われるとこちらも少し困ってしまう。

今はフレグランスの香りに惹かれてそのお店にいるがオガタはショーケースに入った香水をジッと見つめている。


「これテスターだから嗅いでみたら?」

「?」

「この小瓶に入ってる綿に匂いついてるんだよ。あ、この色のチップが男の人用で、こっちが女の人用っぽいね!」

「この色だとなんだ?」

「ん〜、あっ、この色だと男女兼用だって!」


これいい匂いだね〜!とオガタに振り向くと思った以上に近いところに顔があって一時停止してしまう。


「…なんだよ」

「オガタって顔いいよね」

「…またそれか」

「いやホントだって!整った顔してるし坊主頭も似合ってるしガタイだっていいし、モテモテだったんじゃない?」

「んなわけねえだろ」

「階級も上とか?階級よく分かんないけど」

「俺は上等兵だ。下から数えた方が早い」

「上等ってつくし結構上じゃないの?」

「その上は伍長、軍曹、軍長とある。更に上に行くと少尉、中尉、大尉になる。」

「一番上は?」

「大将だ」

「お山の大将のイメージしか出てこないや」

「ふん。馬鹿っぽそうだとは思っていたがこんな事も知らんとはな。」

「そのドヤ顔どうかと思う」


最終的にいつものようにドヤ顔してくるオガタにイラッとして香水瓶が並ぶショーケースに視線を戻す。
そういえば私の使ってる香水が1/4を切っていた事を思い出し自分の使っている香水のチップを手に取る。


「買うのか?」

「うん、もうないから」

「どんな匂いなんだ?」

「これだよ。じゃあ私買ってくるからここで待っててくれる?」


小瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぎ続けながらも頷いた事を確認してなるべく早くオガタの元に戻れるようにレジに走る。


「…え、まだ嗅いでたの?」


お会計が終わりショーケースの前に戻ると猫の目でずっと小瓶の香りを嗅ぎ続けてるオガタの姿に少しだけ引いた。
その匂いの香水をつけてる私が言うのは違うかもしれないが、そんな嗅ぎ続けるほどいい匂いなのだろうか。流石にそんなに嗅ぎ続けると飽きない?

ほら、行くよ。

小瓶をオガタから取り上げ元の場所に戻す、この一連の流れを視線だけで追いかけてくるのは無視するしかない。


「…その猫ちゃんみたいな目、やっぱりかわいいよ」


瞬間、ご機嫌だったオガタの表情が死んだのを見て学習しない私の頭を呪った。

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