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あれから十日が過ぎた。私は相変わらず琥珀くんと共に老夫婦と暮らし手伝いをしていて、奈落との生活がまるで嘘だったようにも感じ始めた。きっとこれが本来あるべき生活なんだ、いやだが私は現代に戻りたい。
お昼回った頃、ザッと家の中を掃除をしたり傷んだ床などを慣れない手つきで何とか修復し琥珀くんたちがいるであろう玄関先に向かえば小気味の良い音が聞こえてきた。戸から顔を出すと鎖鎌と呼ばれる物だろうか、それを琥珀くんが片手に持ちもう片手には薪を持っている。
カコン、カコンと音を鳴らし手にしていた薪を投げては鎖鎌で割っていき小気味の良い音の正体が判明した。空中でバカバカ薪を割るそんな技に私を含め三人は拍手をするしかなかった。



***



「どうだ、なんか思い出したか?」

「うーん。わかんねえ。」


お昼の琥珀くんの大道芸並の妙技を観覧し私も何か特技を見つけようかなって思い始めました。
そんなことはどうでも良いのだけれど、ここでの私の役割は主に薪拾いと家事全般だ。長い間一人だと軽々こなせる様にも見えるが残念、ここは戦国時代で便利な道具なんて何もない、炊飯器やガスコンロ、洗濯機などなどとても恋しく思う。昔の人はこんなにも大変だったのかと身を持って知ることになった。

夕暮れ時、囲炉裏を囲み四人は琥珀の話になる。
どうやら彼は奈落の暗示がよく効いているようで自分の名前以外は何もわからないらしい。
記憶を取り戻す手助けをしたいと思うが、城で見た琥珀くんの仲間のお墓を思い出してしまい、ギュッと口を噤んでしまう。仲間の死を知ったらどう思うのだろうか、でも唯一の肉親である珊瑚ちゃんは生きている事を知れば記憶が戻った時生きやすくはなるだろうか。
彼らの過去など知りもしない私は安易な考えを示してしまう。


「あんたもしや…お城の近くに住んでたんじゃないかい?」

「城?」

「十日ほど前に、人見様のお城が神隠しみたいに消えちまったんだよ。あんたが行き倒れてたのが、その翌日だからね。なにかよほどこわいめにあって…それでいろんなこと忘れちまったのかもしれないねえ。」

「なまえは、おれの事他には知らないの…?」

「名前しか知らないの、ごめんね…」


そっか、と寂しそうに顔を伏せる琥珀に胸が痛んだ。
神楽の側から離れて琥珀くんに会えたのに結局何もできない。口だけの人間みたいなもんだ。
私じゃ琥珀くんを助けることはできない。
分かりきっていたはずなのに、


「琥珀くん、大丈夫だよ。きっとすぐ思い出せるよ」


気休めにもならない言葉しか私にはかけられないようだった。



***



夜お爺さんたちが寝静まった頃、ボーっと家から見える城跡を見つめる琥珀くんが私の見つめる先にいた。何かをするわけでもなく延々その城跡を眺めているのだ。

琥珀くんに声をかけようとした時、月明かりに出来た無数の影に気が付き血の気が引く。妖怪だ。
それは琥珀くんも気付いたらしくすぐさま家へと戻り、再び飛び出してきた。


「琥珀くん!」

「なまえさんっ!早く中にっ!」

「待って、琥珀くん一人ではこの量は無理だよ!」

「だからと言ってここの人たちを危険に晒すのは違う、」

「で、でも!琥珀くんが…!」


この妖怪たちはきっと琥珀くんを狙ってる。
何故か分からないが瞬時にそう感じ、彼の腕を掴み走り出す。
覚悟して琥珀くんと逃げることを選んだにしても彼のように身軽に動ける身体能力も、鎖鎌を自在に操る戦闘能力もない。奈落はきっとこんな私を笑うだろう。

行くあてもなくひたすら走る私の琥珀くんを掴む腕は恐怖に震え汗をしっとりとかいている。

こわい、こわい。

背後や上空から琥珀くんの名を叫ぶ妖怪たち。
捕まったら一貫の終わりである。いい大人が泣くのをこらえ走り回っているのはさぞかし滑稽だろう。だがそんな事は関係ない、何としてでも琥珀くんと共に逃げ切らなければ。

その思いから自分を奮い立たせて必死に走るが暫くして地がいきなりの地割れで体制を崩してしまった。

べしゃり、と音を立てて二人とも転んだ状態で上を見上げる。するとその地割れからはまるでカマキリのような妖怪が現れており私達を見下ろしていた。
だめだ、もう腰が抜けて立てない。
カマキリ型の妖怪に縁があるのだろうか、以前の影郎丸を脳裏をよぎる。大きく振り被る目の前の鎌。助けてくれ、誰か。だれかたすけて、


「ならく、」


結局最後は奈落に助けを求めてしまうあたり甘い人間なんだと思う。恐怖に動けずにいた私を守るように琥珀くんが間に入りこもうとするが寸でのところで私はカマキリに叩き飛ばされてしまった。


「なまえさん!」

「死ね琥珀!」


茂みに叩きつけられて意外と大きなダメージを負った私は琥珀くんへと身を近付けるために体を起こし茂みから出ようとする。だがいきなり背後から口を塞がれ体も羽交い締めにされ身動きが取れなくなってしまった。

まって、わたしころされる。

大量の妖怪たちを見たばかりなせいか頭の中が真っ白になる。


「ったく。どこにいるのかと思いきや、こんな所にいたのかい。」

「か、神楽…」

「琥珀助けようとしてんじゃないよ。アイツには役割があんだからね」

「かごめちゃんを殺すんでしょ」

「ご名答。だからわざわざ奈落の野郎が琥珀の記憶を消したんだぜ?」

「記憶…?暗示をかけてただけじゃ…」

「暗示も暗示だが、あいつには忘れたい記憶があるんだよ。」

「忘れたい記憶?」


フッと神楽は私を笑い視線をいつのまに来てしまったのか、犬夜叉と琥珀に向けた。



「あいつは仲間を殺したんだぜ?」