16
「良いかい?これからは勝手な行動はするんじゃないよ。」
「…はい。」
パン、と扇子を叩いて神楽はどっかに行ってしまった。私を森の中に残して。
彼女なりの優しさなのかあの妖怪がうじゃうじゃいる場所からは少し離れた場所での待機命令に先ほどの事も含めただただ従うしかなかった。
***
「はぁ…」
何て暇なんだろう。神楽に置いて行かれてかなりの時間がたった。夜だったのが気付けばもう日は上がっていてとてもやるせない気持ちになってしまう。
うとうとと睡魔に襲われながらも、ここで寝てしまったらもしかしたら妖怪に襲われるかもしれないと思うとおちおち寝ていられない。けれど瞼がとても重くそれどころではない気がしてきてる。つまり一睡もしていない為もはや限界だ。
多分寝てると本当に神楽に置いてもいかれそう。
渋々近くにある木に体を預け眠気も飛ぶような面白い事を考えながらやり過ごす覚悟をしてから暫くすると琥珀くんを呼ぶかごめちゃんと琥珀くんが私の目の前に現れた。(と言ってもわたしは茂みに隠れている。)
出て行こうと思ったがもしかしたら犬夜叉に攻撃されるかもしれないと思うと出て行く勇気が出てこなく、暫く様子を見ることに徹する。
けれどよく見るとかごめちゃんは怪我をしているようで右腕からかなりの血が流れていた。
「琥珀くん!ばか!何してんの!」
頭がカッとして茂みから飛び出して鎖鎌をかごめちゃんに構える琥珀くんにタックルをかます。
私と別れるまでの琥珀くんなら痛いよ、と言うだろうが今の彼はただジッとこちらを見据えるだけで何も言葉を発しなかった。
再び鎖鎌を構える琥珀くんを後ろから取り押さえ武器を取り上げる。
「かごめちゃん逃げて!」
「で、でもなまえさん…!」
「早く逃げてよ!」
死にたいのか。どんなに私が年上だといっても筋力の差は琥珀くんに旗が上がる為、取り押さえたところで時間稼ぎにしかならない。だから今逃げてくれないと私はこの空っぽの琥珀くんに押し負けてしまう。
徐々に力が負け始め「あ、むりかも」と思った矢先に琥珀くんがぐるりと体制を変え肩を思い切り蹴飛ばされかごめちゃんにぶつかる。
「琥珀くん!だめだって!琥珀くんは優しい子じゃん!」
琥珀くんが鎖鎌を構える。
私ごと殺す気なんだ。かごめちゃんだけでも逃がしたい、琥珀くんが鎖鎌を投げたのを見計らってかごめちゃんの背中を押して再び逃げろと叫ぶと少し離れたところから誰かが飛び出してきた。
「かごめちゃん、琥珀…!」
「珊瑚ちゃん…!」
もしかして神楽かと思い冷や汗をかいたけれど現れたのが珊瑚ちゃんだとわかるとホッとした。よかった、これでかごめちゃんは大丈夫だ。
「あっ、琥珀!」
珊瑚ちゃんが現れた事により琥珀くんは言うの間にかごめちゃんから落ちたのか四魂のかけらを手に走り出した。その彼を追い掛け走る。
かなりの速さで前を走る琥珀くんと息が絶え絶えの私。本当体力の無さが死活問題になりつつある私の頭の中の隅っこで本当運動したくないけどこれはしないと生き残れないからした方がいいよって心の中の小さな私が呟くのを見た気がした。
そろそろ息も上がり限界が見えてきた。
追いかけるのを諦めようと動かす足を緩めると背後からバキバキと木々をなぎ倒す音と共に私たちの目の前に飛来骨が突き刺さった。
「琥珀…」
「琥珀くんだめだよ!」
切なさげにこちらにやってくる珊瑚ちゃんに対し敵意を出す琥珀くんは私の制止など聞かずに珊瑚ちゃんに襲いかかりあっと言う間に押し倒されてしまった。
「やっ、やめて!」
刀を琥珀くんに向ける珊瑚ちゃんに体当たりをして彼の体からどかし逃げろ、と叫ぶ。
ドサリと地面に転ぶ珊瑚ちゃんに何度もごめんと呟き体制を立て直そうと琥珀くんに視線をやったその先にいつのまに現れたのか犬夜叉がこちらを凄い勢いで睨みつけていた。
「だめ!例え命の恩人である犬夜叉たちであろうが琥珀くんを傷付ける事だけはゆるさな「いい加減目え覚ませ!」いぃぃえぇ…」
「おいなまえ!テメエもだ!いつまで奈落の足下にぶらついてる気だ!嫌なら奈落から離れろ!行く宛がねえなら俺たちが何とかする!だからこれ以上かごめを悲しませるんじゃねえよ!!」
「い、犬夜叉…」
待って。こっちに来て初めて感動した…涙が出そうなくらい感動したしむしろ今泣いてると思う。だって頬に生暖かいものがハラハラと伝っているから。
「琥珀!思い出しちまえ!」
「やめて!琥珀くんの心を壊さないで!」
「あらいざらい思い出しちまいな!生き延びたかったらな!」
琥珀くんを殴り付けた犬夜叉は彼の胸元を引っ掴んで叫ぶ。だが琥珀くんは眉ひとつ動かさずにただただ黙って犬夜叉を見つめていた。
犬夜叉が言うように、奈落からだったら私は逃げ出せるかもしれない。神楽曰く奈落の仲間の中で唯一自由に動き回れる存在らしいから。
嫌だったら私はこの人たちについていけばいい。
ついていけばいいのに、それが出来なくなってしまったのだ。
「ひでえこと言うなあ犬夜叉!」
突如空からの攻撃に犬夜叉はギリギリかわす。それと同時に強い風が吹き琥珀くんを連れた神楽が上空にいた。え、私は?
「自分がなにやったか思い出したらこのガキ…本当にぶっ壊れちまうぜ。」
フンと笑う神楽がまだ地上にいる私に向けて続けて叫ぶ。
「なまえ!オメェは何度言ったら言う事聞くんだよ!奈落からの命令だ!その虫と行動を共にしな!」
「え゛っ!」
「じゃあな!」
「やーだー!」
しょぼん。漫画で描かれるとしたら私の背景はどんよりとした、いかにも気分急降下中ですって感じの重々しいものになるだろう。
一人うなだれていると一匹の虫が私の前に現れた。
周りを見ろとでも言うように視線を上げればこちらを睨む一匹の犬。早くこの場から逃げなければならないのにこの脱力感に負け未だにこの地にいるのだ。
おい、と声をかけられたかと思ったら「琥珀を助けてくれてありがとう」と言われた。
「さっきの事だけど、」
「あ?」
「奈落が嫌なら犬夜叉たちとって話」
「ああ、あれか。なまえはどうしたいんだよ」
「…正直有難いと思ってる、けど、数日前の私ならきっと犬夜叉たちについてたと思う。でも琥珀くんに出会っちゃったから、琥珀くんを精一杯守ってあげたい。だから、ごめんね。あっでも別に犬夜叉たちに危害を与えようとは、」
「分かってる。獣郎丸と影郎丸の時見て分かったし、かごめにも言われた。だからなまえを信じる。奈落を倒してお前も琥珀も取り戻してみせる。」
果たしてそんな日はやって来るのか。
奈落の強さが如何程か私は知らないが素知らぬ顔でひどい事をする男だ、不安が勝る。
いつのまに勢ぞろいしたのか犬夜叉一行が私を見る。
彼らは本当にいつのまにか集団である。
「ありがとう、」
笑えているのか自信がない笑顔で私はその場を後にした。
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