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「あれ?琥珀くんどっか行くの?」

「うん。奈落に指示されたから行くんだ。」

「えっまた!?」

「ちなみになまえさんもって言われてるんだけど」

「やだって感情しか湧かない。」


黒巫女の件以降ひたすら奈落の軽いお遣いと言いながらもこれはパシリばかりさせられる日々を送っていた。
辛気臭い城内をぺたりぺたりと歩くと遠くの方から人影が見えたと思ったらそれはあの日以来会う事が無かった琥珀くんで奈落に操られている感じではない、スッキリした表情をしていたがこれからなんと奈落から与えられたお仕事をしに行くらしく、私を探していたそう。
琥珀くんともう一度会えて嬉しいけど、この理由で探されてたのはとても嬉しくない。

こっちですよ。そう私の横を通り過ぎ、まるで後をついてこいと言っているような背中に遣る瀬無さを感じた。
文句を琥珀くんに言ったところでどうにもならないから大人しくついて行くとひたすら山道を登って行くではないか、絶対楽しくないハイキングだわこれ。


「ここ山寺?」

「なまえさんはここに居てもらうので。」

「え、琥珀くんは違うの?」

「俺はちょっと出て来るんで。ある子が来たら、俺が戻って来るまで見張ってて。」

「ちょ、え、どこ行っちゃうのー!」


叫び虚しく背を向けて歩き出す彼を見送るほか今の私には選択肢がない故に渋々床に正座して琥珀くんが言っていた『ある子』が来るまで待つが、なんて暇なんだろう。
それに廃寺になってるからか少し埃っぽい。
少しの間しか居ないにしてもこんなところに居たら病気になってしまうではないか。

だとしても掃除道具なんてあるわけ無いから部屋を出てまだマシな玄関先の段差に腰を下ろす。

早く帰ってこないかな、こんな山奥に一人取り残されては心細いことこの上ない。もしここで妖怪と鉢合わせてしまったらどうしよう、全力で山を下れば奈落の城に戻れるから何とかなるとは思うがとにかく寂しい。


「あ?なまえ何してんだよ。」

「神楽ァ〜!!寂しかったよぉー!!」

「汚い顔して近寄んなよ。琥珀はどうしたんだよ。」

「ねぇ酷くない?琥珀くんなら多分もうすぐ戻ってくる筈なんだけど。」

「ふぅん。ほらよ。コイツの見張りしてな。」

「えっ女の子?誘拐してきたの?もう本当勘弁してー!」


床にポイと捨てられたスヤスヤと寝息を立てて眠っている女の子の顔を覗き見ると一つデジャヴが頭の中に落ちてきた。
何処かで会ったことがあるような、ないような。
戦国時代に来てから色んな事があり過ぎて日々思い出という記憶が塗り重ねられて行く為に出会って居たとしてもなかなか思い出せない。

神楽にどうかしたかと聞かれたが思い出せない為「何でもない」とだけ告げて女の子を抱き抱えて寝かせ直す。


「お待たせしました。」

「あ、琥珀くんおかえり。」

「なまえさん交代します、あなたは別件を頼みます。」

「絶対やだ。」

「神楽、頼んだ。」

「任せな。」

「誰も私の話を聞かないのどうかと思うよ。」


パンッと扇子を手で叩きこちらに向く神楽に私はもう諦めた。了解の意味を込めて一つ頷くと彼女は髪飾りの羽根を一枚もぎった。



***



見渡す限り荒野の様な景色しか見えないこの地に私はただ一人でポツンと立っている。
此処へ連れて来られる最中神楽には説明を受けたが、またしても私は人探しならぬ場所探しをさせられるらしい。捜索隊どころか何でも屋だと勘違いしていませんか?


「やだ…もう本当やだ…」


両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
今何時だと思ってんの、夜だよ。夜どこにも寝泊まり出来るところが見当たらないって事は野宿だよ。
何にもない荒野みたいなところだから人だって居ないんだろうけど野盗とか野犬が出たらどうしてくれるのか。今回何故かあの虫だって付けられていない。これは自由になれるチャンスではないだろうか、そう思うが多分無理なんだろうな。

はぁ、とため息ついて一夜をやり過ごせる場所を探しながら神楽とのやり取りを思い出す。


『七人塚?何それお墓?』

『まあそんなもんだな。奈落が七人塚を探してんだよ、だから一番暇人なアンタに探してもらおうって事さ。』

『私そんな暇人じゃないんだけど。お城の白骨を供養しながら埋めてるんだよ?まだ残ってる人も居るし暇じゃないの分かってる?』

『ただの骨だろ?別にほっとけよ。んな事より奈落の命令が最優先なんだからよ。』

『妖怪って冷たいよね。誰にも弔ってもらえないなんて悲しいもんだよ。』

『そうかよ。アタイには興味ないね。ほら、着いたぜ。この辺探せば塚の一つや二つ見つかるだろ。』

『奈落って本当アバウト過ぎて腹立つんだけど。』

『じゃあな。きちんと仕事しろよ。』


ぷちりと再び羽根の髪飾りを千切り風を起こし去って行ったのを悲しい気持ちで眺めていた。

野宿なんてした事ないしどうするのが良いのかも分からないからとりあえず見える範囲で落ち葉を木の根元に集めてベッドを作る。今がまだ微妙に暖かくて良かったと思う。これが完全なる冬だったら私は今夜が命日になってしまう所だった。けど、かごめちゃんの着ていた長袖の制服がTシャツの私にとっては羨ましいと思ってしまった。

月明かりを頼りに作った落ち葉ベッドに潜り込む。
上も下も葉っぱで包まれ眠るのは意外にも心地よく疲れた体はゆっくりと視野を狭めて、明日は良い日になりますように。そう思いながら夢に落ちていった。