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小さな獣の鳴き声が聞こえた。
周りは真っ暗で手を伸ばして見ても、空虚を掠めるだけ。
此処はどこだろう。なんで私は此処に居るんだろう。

歩みを進めても進む先には何も無い。
ああ、またこの夢か。

終わりの見えないこの空間にただ一人ぽつりと居るのは心細く、ついいつも以上の弱音を吐いてしまいそうになる。

遠くで一つ、また獣の鳴き声が聞こえた。

聞き覚えのあるその鳴き声に引っ張られるように歩みを進める。今まで何も無かったのにその声の方へ進めば進むほど足元に草が生い茂る獣道が出来始める。

ようやく獣道を抜けた。
先にいたのは、綺麗な毛艶をした大きな狐だった。


「なまえ、おかえり。」

「ただ、いま…」


狐は私の言葉を聞くと嬉しそうに目を細め煙のように消えてしまった。


「なまえ、ようやく会えた、はやく。早く起きて。なまえ。」


瞬間的に聞こえたその声と共に体が浮遊感に襲われる。
あ、落ちる。



***



「…、ゆ、ゆめ…?」


目を覚まし体を起こすと葉っぱがガサリと音を立てる。
葉っぱベッドと言っても野宿、体のあちこちが痛くて歳を感じてしまう。

辺りを見渡すと日の出がちょうど出る頃で、光が差し込むのが分かる。
ああ、今日も一日始まったのだ。奈落の言う七人塚を探しに行かねばならない。完全に木の葉の布団から出るとあまりの寒さに身震いが出た。


「さっむ!やだもう寒すぎて厚手の上着が欲しい…」


文句を言っても現状は変わらないので木の葉から這い出て少しその場で足踏みをして体を温めることに専念する。
吐く息は仄かに白く、冬の季節がやって来ているのだと再度認識させられる。寒い。

これから暫くこの寒さの中一人で七人塚を探さなければならないのは正直辛いかもしれない。
最後にラジオ体操してから歩き始める。夜は暗くて見えなかったが少し遠くの方に村があるのを確認して走り始める。

あの村で七人塚の話を聞こう、この辺探せば見つかると言うことはそう言うことだろう。村人に聞けばあっという間に見つけちゃうじゃない、これは今日中に見つけたら奈落からご褒美貰えるのでは?ルンタタッタ、足が軽快に進んで仕方がない。


「え?もっと北?え??この辺りじゃないんですか?」

「ええ、七人塚はもっと北の寒村の方にありますよ」

「ちなみにその村ってどう行けばいいですか?」

「この山を一つ越えれば塚がありますが、一体なにをなされに…?」

「えっや、あの、知り合いが、その近くに住んでいまして…あはは、は…」


全然この辺じゃなかった。
もしかして神楽は適当に降ろしたのだろうか、これはスマホが無いと地理が全く分からない現代人に対するイジメでしかないと受け取ります。

指をさされた先を見ると小さくはない山がそびえ立ち愕然としてしまう。
あの山を越えなければ奈落にまた怒られてしまう、つい先程までご褒美貰えちゃうやったねー!と喜んでいた自分を殴り倒したい。村人にお礼を伝え意気揚々と山に挑み進んで行く。山で迷いませんように、それが私の直近の目標だ。
けれどこんな事を言ってると決まって迷うのが世の常というものだろう。


「あああああああああああまじむりまじむりまじむりだからああああああああああ!!!!!!!!」

「ぐへへへへへへへっ!久々の人間じゃあああああ!!!!!!」

「兄者ァ!オレ足が欲しいぃ!」

「むりむりむりむりむりぃいいいいい!!!!!助けてええええ誰かッ誰かたすけてえええあああああああ!!!!!!」


フラグ回収という言葉を以前会社の後輩が話しているのを聞いたことがある。その時は「ふーーん。」と聞いていたがこれがまさにフラグ回収というものだろう。そしてフラグ回収プラスアルファを引き付けてしまうのはもう私のテンプレートのようだ。

山道、獣道という道と言える道を、時たま道とも言えない草の生い茂る中を全力疾走しているのはもうお判りかと思いますが山に入って間もなく兄弟の妖怪に追いかけ回されています。しかも片方は足早いし片方は鼻が効く為どれだけ逃げても巻き切る事が出来ない。
こちらに来てから体力がついたと言っても限界はある。息も絶え絶えになり脳に酸素が回らなくなってきて足元がふらついた。すぐ後ろに迫りつつある妖怪に冷や汗が止まらない。

だめだ、やられる。
怖い、助けて。

咄嗟に前に出した自分の右腕が音を立てて変形してあろう事か、目の前まで迫っていた妖怪二匹を丸呑みしてしまった。


「……え」


何が起きたのかわからない。
分からないなりに整理してみたけど、右腕が変形して妖怪丸呑みしたって事実をどんなに整理しても分からない。
暫く放心状態だったがいつまでもここに居たらまた新たな妖怪に見つかって食べられてしまうのでこの山を越えるために足早にその場を離れた。

そんな私をあの虫が遠巻きに見ていたなんて知らなかった。