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「おいババアさっさと来いよ。」

「まだババアじゃないから!」

「行き遅れのババアのくせにうるせえよ」

「私の世界ではまだお姉さんって言われる歳だから!」

「現代って所ではだろ?ここではババアだぜ?」

「悔しい!」


奈落の指示で蛮骨と名乗るこの青年と暫く行動する事になってしまいもう心がバキバキに折られてる。
こんなだったら奈落と一緒にいた方がマシだ。

四魂のかけらで蘇った彼は聞けばまだ17歳と言うではないか。だが一つ言わせていただくが、17歳の姿という事はその歳に亡くなったという事だろう。お亡くなりになってから数年は経ってる筈なのだから御察しの通りこの男も20代であることは明白である。
そんな男にババアだの言われるだなんて心外である。

心外で!ある!

いつかこの男にやり返すことを心に誓い、彼の三歩後ろをついていく。
どこに向かっているかは知らないが聞いたところで答えてはくれないだろうから黙ってついていくが話し相手が居ないととてもつまらなく感じてしまう。


「ねえ蛮骨、」

「勝手に呼び捨てにすんじゃねえよババア」

「ババアじゃないってば!お姉さん!」

「ババアの癖にキャンキャンうるせえよ」

「酷くない?人の心持ってるの?」

「けっ。どうせならもっと若くて美人な女と行動したかったぜ。」

「私だってまだ奈落と一緒にいた方がマシだったんだけども!」


若くなくて、美人でもなくて悪かったな。好きでこんな顔に生まれたわけじゃないけどとりあえず見たこともない私の両親に謝ってくれ。
尚もズンズン先を進む青年にため息しか出てこない。

目の前を歩く彼が不意に立ち止まったところは小高い山で、そこからはあるお城が見える。
真剣な眼差しでそのお城を見つめるその顔は、顔が整っている為とてもイケメンに見えてしまい少しだけドキッとしたが目が合った瞬間「何見てんだババア」と言われて一気に冷めた。


「ババアは字書けるのか?」

「もしかして馬鹿にされてる?」

「書けるのか?」

「書けるに決まってるじゃん」


何処から出したのか紙と筆と墨を私に押し付けてきたという事は書けという事なのだろう。
これは見返すチャンスだと筆を持ち蛮骨の言われるままに書いていくが徐々に彼から発せられる言葉が少なくなり、どうしたのかと思い彼に視線を向けると「信じられねぇ…」と小さく呟いた。そうか、そんなにも驚いたか。これでも書道で金賞を獲った事だってあるんだからこの完璧であり綺麗な字に語彙力が無くなるほど驚くとはね。
書道教室に通わせてくれた両親に感謝せねばならない。
今、ここでしか感謝を言えないのがもどかしいが、心の中でジンワリと彼を驚かせる事が出来た、きっとこれはもう彼を見返す事が出来たと喜びをかみしめていた。


「俺以上に字書けねえとかババアどうかしてるぜ。」

「え?は?金賞の字ですけど?バカにしてるの?」

「これはひでぇ。こんな字初めて見たぜ」

「私が字汚かったら金賞の次の銀賞銅賞の人たちどうなるの?カスじゃん?え、何カスって言いたいの?口喧嘩なら買えるよ!」

「こりゃ煉骨来るの待つしかねぇな。」


人の話もろくすっぽ聞かずに頭を無造作に掻き毟る。その結い整えられた髪が乱れないのは何なの、それも彼が喉元に埋め込まれた四魂のかけらのおかげなの?
そんな便利なことになるなら私も一つかけら埋め込んでくれないかな。凄く楽して生きたい人生。

それにしても何故、金賞を獲った程のこの字が汚いと言われなければならないのか。どういう事だ説明してもらえないだろうか、そりゃあ金賞獲ったのだって高校生の時だし少し年月は経っているがそこまで字は変化したとは思えない。


「あっ!そういうことか!」

「ババアうるせえよ」

「戦国時代の文字ってミミズの走った字だから現代の字読めないのか!」


だからうるせえ、とジロリと睨む彼を無視して一人で納得。
そりゃ私の字が読めなくて当たり前である。折角、彼を見返すチャンスだったのにそれが出来なくて残念な事この上ない。

不意に今日寝泊まりする宿が無い事に気づき、尚もお城を眺め続ける彼に声を掛けようと思うが先程の手紙の内容を聞いてしまってとても複雑な気持ちである。
でもまた野宿するのは勘弁なので「ねえ。」と声を掛けると少しムクれた顔をした彼が「なんだよ。」そう言ってこちらを向いた。蛮竜という自分の武器が取り戻すのが少し伸びたのが気に入らないらしい。別に手紙を書かなくてもそのまま突っ込んで行けばいいのにと言うが、それではつまらないらしい。宣戦布告して全滅させるのが楽しいとか言っていたが私には微塵も楽しいとは思えないし、返してもらうだけだし別に全滅させなくても良いのでは?
でも手紙の内容的に自分達を討った相手だし怨み抱いててもおかしくはない。私だったら悪霊になって呪い殺すと思う。

だが今はそんな話はどうでもいい。

今夜の寝床が私にとっては重大な問題なのだ。
「寝床どうするの?」と聞くと「当てはある。」そうそっぽを向いてしまう彼に寝床が得られる安心感と、彼の発言という不安感が私の中で入り混じる。
少し日も傾いてき始めた為にようやく彼がその場を動く。
当てがあるとは言ってもこの近くなのだろうか?無言で先行く彼を追ってまた森の中に足を踏み入れた。



***



「なんだよシケてんな。酒が一滴もありゃしねえや」

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

「おいババア何唱えてんだよ。飯が不味くなるだろ今すぐやめろ」

「この状況で呑気にご飯食べてるとか神経疑うし、やな予感はあの時してた!」

「勝手について来て何様だっつの。やなら外で寝ろよ。今夜は狼どもが元気だろうな」

「もしかして四魂のかけらのせいで性格の悪さ三割増しになってる?」

「おら、飯食えよ。腹減ってんだろ。」


ドン、と目の前に置かれたのはお櫃。
そのお櫃の至る所に赤い染みが見えるのは気のせいではないし、目の前の男の着物が真っ赤なのは皆様お察しの通り、山に住んでた老夫婦のお家を襲撃しました。
神様仏様、もし本当にいるのならば今ここで私を助けてください。無理やり犯罪一味にさせられた挙句パシリにされてるこの状況私結構キています。

斬り伏せられてそのままな老夫婦の体をせめて弔わなければ。小屋にあった踏み鋤を片手に出てすぐのところの土を掘り起こしていく。奈落の城で何度も行った作業だが、亡くなって間もない、しかも斬り殺されたソレを埋葬するのは初めてで手が震える。


「どうせ狼に掘り起こされて貪られるだけだぜ?そのままにしとけよ」

「だとしても人として生きたんだから、ちゃんと人として弔うのが当たり前でしょ。しかも私たちが押し入ったせいで死んじゃったんだから尚更じゃない?」

「はっ!これから俺と行動を共にするのに一々んな事してたら切りがねえぜ?」

「でも、」

「でももくそもねえ。てめぇの時代ではそれが当たり前でもここは違う。死んだら終わりだ。死んだ後は烏に食われようが野犬に食われようが仕方のねえ事だ。」

「蛮骨だって弔ってもらってたじゃん。塚も建ててもらってさ」

「祟りが怖くて塚建てたが雑なモンだ。てめぇが掘り起こしたんだろ?見ただろ?俺たちへの弔いはあんなモンだ。」


ほんの少し眉間にシワを寄せた彼に、少しだけ同情してしまいそうになる。人として生まれ、傭兵としてしか生きられなかった彼らにだって弔われる権利くらいはあるはずなのに、あんな穴の中に無造作に放り込まれ形だけの弔いは、今までの功績には比例しない。
まあ、草の根一本すら残らないほど虐殺する彼らが圧倒的に悪いと思うがそれでも彼らだって喜怒哀楽のある人間だったのだ。

そんな日が来るとは思いたくないが、もし蛮骨が死んでしまったら私だけでもしっかり供養して来世で楽しい人生が送れるように祈ろう。


「あ、あと俺の事は呼び捨てすんな。蛮骨様って呼びな。」


絶対呼ばないと心に誓った。