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蛮骨の元に戻ってもいい許可を貰ったのは次の日の夜更けだった。いつも思ってたんだけども、こんな時間帯にほっぽり出すとか奈落一派って常識ないの?善良な一般市民はこんな夜更けにほっぽり出されたら悪い人たちの餌食になるの分かってないと思う。せめて私にも移動手段ください。

真っ暗な山道を提灯の灯りを頼りに先導する最猛勝の後を必死になって追いかける。
一体何処へ向かっているかと言うと、皆さま察しているかと思いますが蛮骨の元へ全力で向かっております。どうやら朝日が昇るまでに私は彼の元に戻されるらしい。


「はぁ、はぁ…ちょっと休憩、したい…!」


提灯の火がゆらりと揺らめき羽音を鳴らせこちらを振り返る最猛勝は私のペットのキャサリン。そう、キャサリン。名前をつけたのを忘れる程呼び慣れないその名前を呟くと「仕方ないわね。」とでも言うかのようにそっと私の肩に乗り休憩を許可してくれた。


「ねえ、蛮骨怒ってると思う?すぐ帰してくれるって言ってたのに結局一日半も拘束されてたし、何より私いなくても全然大丈夫だったと思うんだよね。みんなは蛮骨に怒られないからいいけど、私は怒られるのに…どう言い訳すれば良いのか分かんないや。ねえ、キャサリンは何か良い案ない?蛮骨に怒られない言い訳。」


ンなもん無ぇよ。とでも言うかのように肩に止まったキャサリンは何も答えてはくれない。
仕方ないので一人で考えるが何もいい案は浮かばない。だが不意にポッとある一つの疑問が浮かんだ。


「ここからは私の独り言なんだけど、もし蛮骨が犬夜叉たちを倒したとして奈落はそのまま蛮骨たちに四魂のかけらを渡すと思う?…私は思えない。四魂の玉の完成を心待ちにしているのは他でもない奈落なんだから。正直なんでみんなそこまでして四魂の玉が欲しいのかな、そんな物なくたって幸せにだってなれるのに。」

「四魂の玉ってやつに頼らなきゃ生きていけねえ奴もいるんだよ。」

「えっ、あっ!?蛮骨!?なんでここに…」

「てめえがいつまで経っても帰ってこねえから迎えに来てやったんじゃねえかよ。」

「た、頼んでない…」


蛮骨になんて言い訳をしようか考えてたのに突如背後から現れたのは蛮骨本人で、彼の手は私の頭をがっちりとホールドして離さない。すごい力でまたしても頭蓋骨が悲鳴をあげ始めるのが分かる。
どうしてここがわかったのかと訊ねると無言で私の後ろを指差した。そちらを見るとリボンを付けたキャサリンとは別の最猛勝が羽を精一杯鳴らしていた。


「そいつが案内してくれたんだよ」

「朝日昇る頃には会えたのに何故…」

「あ?理由が必要なのかよ」

「いや要らないけど、言い訳考える時間が欲しかった…」

「なんだよ。言い訳考える為に道草食ってたのかよ。だったらさっさと帰ってこいよババア」

「必死に山道走って来たのにそれでもババア扱い…!そろそろババアは辞めてほしい」


ババアでこれだけ走り切ったらなかなかのモノだと思わない?そう伝えるがいつものように「あっそ。」と冷たく言い放たれ腰を下ろしていた私の隣に彼も腰を下ろした。

暫くお互い何も話さず沈黙が続いた。ひたすら走りっぱなしだった足は徐々に回復もしてきてそろそろ休憩も切り上げようと声を掛けようと蛮骨の方を見るとゆらゆらと揺れる提灯の火を真剣に見つめていた。
不覚にもその表情がかっこいいと思ってしまった。
けれど相手は10代の青年である。かっこいいと思うだけなら現代では良いが手を出したら終わりだ。終わりなのに、なんでそんな苦しそうな顔をするの。


「…んだよ。」

「…他意はなかったのだけど、ごめんね。」


気付いた時には蛮骨をそっと抱きしめて頭を撫でていた自分に対して脳裏に近所のお巡りさんの顔が浮かんだ。
ババアの腕の中なんて、と怒るかと思ったがそのまま彼は目を閉じて私にもたれかかる様に体を預けて来たのでまた心臓が一つ大きく鳴った気がした。

彼の体から伝わるはずの体温や鼓動はない。何もない。
墓土と骨で出来たこの体にかけらによって魂を入れられただけ。そんな彼からかけらを取られたらと思うとゾッとする。途端に骨に戻ってしまう、かけらという細い細い糸で現世に繋ぎとめられた彼との別れは、奈落が存在する限り薄れることはなく色濃く終焉を主張している。


「四魂のかけらを手に入れたその時から逃げれば良かったのに」

「…かけらが報酬なら仕事をしねぇと傭兵の名が廃るだろ?」

「奈落はかけらを渡す気なんて更々ないよ、きっと殺される」

「だったら奈落だって殺しゃあいい話だろ?」

「蛮骨は奈落の怖さを知らないからそんなこと、言えるんだよ」


頭を撫でる私の手を取りそのまま優しくギュッと握りこちらを見つめる蛮骨。
何かを言いたいのか口を開いては閉じてを数回繰り返し、小さく舌打ちをして私の手を乱暴に投げる。「どうしたの」「なんでもねえ」「何か言いたいことあるんでしょ」「んなもんねぇよ。」この問答を何度も繰り返し、最後に彼は眉間に小さくシワを作り何も話さなくなってしまった。ただ、提灯に照らされる私の目を真剣な、そして悲しそうな顔で見つめている。


「…なぁ、犬夜叉たちを倒して四魂のかけらも手に入れたら、一緒について来てくれねえか」

「んー。考えとくね。」

「本気だぞ」

「それも楽しそうだけど、犬夜叉たちが死ぬのはやだなぁ…」

「ついてこねぇのかよ。」

「行っていいの?」


ようやく口を開いたかと思ったら現代でも言われたことのない事を言われてしまいうまく頭が働かない。それよりも、私がついて行ってもきっと足手纏いにしかならない気しかしないのだがそれを分かっているのか。

良いに決まってんだろ。

そう言って笑った蛮骨になんだかじんわりと涙が出てしまった。