05
なんて体力のある一行だろうか、山道を普通に登っていく彼らを息も絶え絶え状態で見遣る。運動してなくても生きていけるとか思ってた社会人になったばかりの時の私に言ってやりたい、せめて持久力はつけとけと。
ゼェハァ言いながらも彼らと共に行動させてもらうのだから意地でもついていかなければ私の命が危うい。頑張らなければ。
追いかけている対象の虫はとあるお城に他の大量の虫と共に入って行くのが確認された為この目の前にそびえ立つお城こそが奈落の城だと確定された。待ってー。という事は中にはあの恐ろしい奈落が待ち構えてるという事だ。何にも考えずに付いて来たがあの奈落のアジトに乗り込むのに丸腰ってどうよ。せめて木の枝でも見繕っとけば良かった。無いよりはマシだろうし。
ああでもない、こうでもないとする私の心の中での言い争いを余所に彼らはお城の中にすんなりと入ってしまう。勝手に入ってしまっていいのか、不法侵入にならないのか、守衛さんに声をかけた方がいいのではないか。キョロキョロと周りを見回すが守衛さんらしき人は見当たらない。お城には守衛さんというか、門番さんがいるのだと勝手に思っていたが実際は違うのだろうか。小さく「おじゃまします。」と呟いて門を潜ると中にはおびただしい量の死体と血に思わず目を背けた。
「狼…!?」
「それじゃ、こいつら妖狼族の…?」
「……ッ!!!!!!」
「なまえさん大丈夫かい?しっかりするんだ。」
妖狼族、という事は鋼牙さんの仲間なんだろうあまりの惨さに声を失ってしまう。鉄臭いにおいが鼻孔を刺激し、目を瞑っても脳裏に焼きついた情景が流れつい嘔吐しそうになるのを両手で口をしっかり塞ぎ必死に抑えるのを珊瑚ちゃんとかごめちゃんが背中をさすってくれる。私も奈落に会うとこうなるんだ。血の海に沈められて二度と家族や友人に会う事も、かごめちゃんたちに恩返しする事も出来なくなるんだ。死ぬ覚悟は出来たと散々言ってきたがいざ、死体を前にするとそんな覚悟なんてちり紙に包んでポイしてしまう。結局死ぬ覚悟なんて私には出来ないのだと場違いながらセンチメンタルに浸っていると死んでいたはずの彼らが再び動き出した。
「ひぃっ、」
「いっ、生きてるー!?」
待ってこれ祟りじゃない!?あの虫たちの祟りじゃない!?呪い通り越して祟りにまで発展してるじゃん、私のせいで犬夜叉たちがこんなホラーな目に遭うだなんて本当みんなごめんね!!!!好きで祟られたわけじゃない、あの鋼牙が虫を殺したんだよ!?近くにいた私までもが祟られちゃっただけだもん。南無三と唱えている間に妖狼族のゾンビたちに囲まれてしまいそれを犬夜叉が必死で助けてくれる。私のせいでみんなに迷惑をかけてしまっている…私が虫を見殺しにしたからだ…片っ端から犬夜叉が叩きのめしてる姿を見て心が痛む。ゾンビというのはやられてもやられても向かってくるからタチが悪い。犬夜叉がどんなに頑張っても襲ってくるゾンビに私は正直ちびりそうになっている。震える私の体を支えてくれるのはかごめちゃん。なんて心強いの…
しばらくそんな戦いが続いた時だった。あんなにもやられても向かって来たゾンビたちが急にピタリと動きを止めたかと思ったら次々に倒れていったのだ。
何がどうなってゾンビたちが地に伏しているのか訳も分からずみんなの顔を見るがみんなもその理由が分かっていないようで困惑の表情をしていた。運が悪い事に、それと同時に現れる鋼牙さんは勢いよく城壁を飛び越えやって来てしまったのだ。
「てめえ…なんてひでえことを…」
震える声が空虚な空間に響いた。言い訳をするが犬夜叉の衣には彼らの血がべっとりとついていてどんなに声を上げてもそんな事鋼牙は信じやしない。それは鋼牙でなくとも過程を知らない者からしたら誰もが犯人は犬夜叉だと決め付けてしまうだろう。だが証人だっているのだ、そこは鋼牙には信じていただきたいのだけど彼は凄い剣幕で突っ込んできてしまった。
間一髪避けた鋼牙の拳は地を割りその破片が私の額にクリーンヒットする。妖怪ってこんな怪力なの?忍者の漫画でしかこんなの見た事ないよ??かごめちゃんと共に物陰に隠れる時「鋼牙くんの腕に何かが埋め込まれてる…!」と顔が青ざめていた為これはきっとただ事ではないのだと馬鹿な私も悟る。何かとは何?みんなが四魂のかけらではないかと言うがかごめちゃん曰くどうやら違うらしい。そしてこれは罠なのではと全員の思考が一致。ではあの腕に仕込まれたかけらは?考える間に犬夜叉がどんどん押されダメージが募っていく。
「こ、鋼牙!違う!これは罠だよーっ!」
「そうよ!あなたの仲間を殺したのはほかの誰か…」
「うるせえっ」
両手をブンブン振って違うよー!とアピールするが頭に血が上った彼は断固として話は聞き入れてもらえず犬夜叉を攻撃するのはやめてはもらえなかった。
腕に仕込んだ何かのせいか力を倍以上に出して犬夜叉を追い詰め、犬夜叉はと言えばとうとう刀を弾き飛ばされ為す術もなく一方的にやられていき鋼牙の拳と犬夜叉の爪が交わる。だがそれは犬夜叉にとっては最悪の選択だったようで右腕はブランと垂れ下がり動かなくなってしまった。
しめたとばかりに隙も与えず鋼牙は連続して攻撃していき一発の蹴りが犬夜叉の左頬に入りよろめいた犬夜叉に対し勢いよく拳が犬夜叉の腹部に綺麗に入り地面に叩き付ける。
ズルリと腕を引き抜く鋼牙の拳には犬夜叉の血が滴り落ちた。
「かかかかかごめちゃん…犬夜叉が…!」
かごめちゃんと共に駆け寄るが所々に傷を作り腕は折れ、腹に穴が空いて息も絶え絶えな犬夜叉の姿がそこにあった。背後には鋼牙。鋼牙の殺気に冷や汗が垂れる。これもあの時のように冗談だって言うんだよね、そうだよね。だってあの時犬夜叉たちと仲よさそうだったじゃん、大成功って書かれたプラカードとか持ってドッキリだったよ!ってまた、言ってくれるんだよね?そうじゃないと、こんなのはあんまりだ。
意を決して振り返り鋼牙と対面する。振り向かなきゃよかったと思うほど鬼の形相をした鋼牙がそこを退けと言いたげに私を睨む。
「ど、退いたら犬夜叉を殺すんでしょ!」
「同胞を殺されたんだ当たり前だろっ」
「鋼牙違うんだよ、誤解なんだって!」
「何が誤解だ!?同胞の血ィ浴びといて言い逃れ出来るとでも思ってんのか!?」
「あの、だからこれは「おーおー、お二人さん元気だねえ。」
退け、退かない、退けの攻防を繰り返しているといつのまに現れたのか扇を持った綺麗な女の人が私たちの会話をぶった切って目の前にやって来た。
「あんたもこれで思い残すことないだろ。あたしは神楽。あんたには最期の舞を舞わせてあげるよ。」
ニヤリと不敵に笑う女の人が扇を開くと周りに倒れる死体たちがまた1人、また1人と動き出した。これはまたホラーフラグが立ち上がりましたね!?やめてよー!本当アメリカンホラーは苦手なんだよー!!!
動き出した死体は鋼牙めがけてタックルをし、私は再び動き出したゾンビに恐怖に慄き弾みで二歩、三歩と後退してしまった。鋼牙の安否を確認しようと視線をずらすと彼は腕に仕込んだ何か分からないかけらが脈打ち、急に苦しみ出し動けなくなり蹲ってしまった。
「風刃の舞。」
字の如く風の刃が鋼牙に牙を剥き容赦なくその体を切り刻む。一瞬で血塗れになる鋼牙に更なる危機が迫る。
「あんたの本物のかけらもらおうか。両脚ぶった斬ってさ…」
身動きの取れない鋼牙は悔しそうに唇を噛み締める。
咄嗟に助けようと前に出るがそれを阻止するようにゾンビが私の進路を阻み先へは進ませてくれない。どうしよう、どうしたらいいの、このままじゃ鋼牙が死んでしまう。何の力も持たない一般市民なんてこんなものだ。でも見殺しにするくらいなら少しでも何か出来ることがあるはずだ。ゾンビの波を越えて行ってやるぜ!と意気込んだその時だ、神楽と名乗る女の顔を何が掠っていった。
「動かないでっ。次は当てるわよっ。」
犬夜叉の側で弓を構え勇ましく立つかごめちゃんに鋼牙を見殺しにする事が無くなりそうな予感がして安堵。だが神楽はそれを見てニヤリと笑うと扇を広げを矢を放つのを促す。
「逃げろかごめっ」
「風刃の舞。」
「かごめちゃん!」
慌ててかごめちゃんの体を思い切り引いて岩陰に隠そうとするが間に合わない。
「なまえさんっ」
目の前まで迫る風に頭が真っ白になる。私こっちに来て散々だったけど、かごめちゃん助けて死ねるなら本望かも知れない!強く瞼を閉じた。
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