#11


『キロランケさんも一緒に行くの?』



話の輪の中に戻るとキロランケさんも旅に同行するという話になっていた。

私も刺青の話はまだ詳しくは知らないけれど、アイヌを虐殺して網走監獄に投獄され、囚人たちに金塊のありかを示した刺青を彫ったのはのっぺらぼうという男で、その人はアシリパちゃんのお父さんだとキロランケさんは言った。

『え、24人の囚人の出所って網走監獄だったの?』と杉元くんに問うと「言ってなかったっけ?」と首を傾げた。

まさかの網走監獄。あそこってたしか日本一厳重で現代でも有名な観光地だ。

『その、のっぺらぼうって人がアシリパちゃんのお父さんだって確証はあるの?』

「…私は、自分の父がアイヌを虐殺をして金塊を奪ったなんてこの目で確かめるまでは絶対に信じない。のっぺらぼうに会いに行く」

『そうだよね…確証が無いならなおさら…ていうか監獄って面会できるの?』

もちろん面会は出来るはずも無く、忍び込むという。
日本一厳重なのに?と思ったが、そこは自分を脱獄王だという白石さんが一役買うという。

『脱獄王って何?白石さんの役職は役立たずじゃなかったの?』

「なまえちゃんヒドイよ!!!しかも役職って何さ!!俺は全国の監獄や集治監を脱獄してきた脱獄王さ!網走監獄も脱獄してきたから構造はよく知っているし、俺の強力無しではのっぺらぼうには近付けないぜ☆」

そういってぴゅう☆と星を飛ばす白石さんに『そんなに前科あるの?悪い事したのに脱獄繰り返すって反省する気ぜロじゃん。白石さん控えめに言ってクズだよ』と言うと彼は「く〜ん」と鳴いた。
囚人であっても憎めない性格なのが白石さんの長所だと思う。

するとアシリパちゃんが「みょうじ」とそばまでやってきた。

「話した通りこれから私たちは網走監獄へ向かう。きっと今以上に危険な旅になるし、お前の人探しを邪魔したくはない。 だから…むぐッ」

アシリパちゃんのロ元に指をあて言葉を遮る。

『私は行くよ。だって仲間でしょ?まだまだ知り合って時間は浅いけど、ここまで話を聞いてやっぱり行かないなんて言わないよ』

「みょうじ…」

笑みを浮かべるとアシリパちゃんも「わかった」と同じように笑った。

『怪我したら私に任せてね!』

「なまえさん、心強いけどけして無理はするなよ」

『ありがとう、杉元くん。 気を付けるよ』

旅の方向性が決まりひとまず今晩はキロランケさんのお家にお邪魔する事になった。

キロランケさんのお家はもちろんアイヌ形式のチセというお家で、アシリパちゃんのチセも同じような感じだそうだ。

優しそうな奥さんとお子さんが2人、私達を歓迎してくれた。

すると奥さんが私の服装を見てキロランケさんに何か話しかけている。

「そういえばみょうじはずっとその服装なのか?まるで男だ」

「うちのかみさんもそれが気になったそうだ。 それにしてもその格好は軍人のものだろう?なぜなまえがそんな格好を?」

そういえばキロランケさんには第七師団にいた事を話してなかったな。
鶴見さんからのご好意でいくらか服を買わせてもらったが結局この格好が一番動きやすくて定番化していた。

『キロランケさんには話して無かったですね。私、杉元君たちと会う前は第七師団でお仕事をさせてもらってたんです。諸事情があって何も言わず抜け出しちゃったんですけど』

「それでその服装って訳か。しかし抜け出したってことは脱走扱いになるんじゃないのか?」

『やっぱりそうですよねぇ』

はあと項垂れるとキロランケさんは考え込む仕草をして奥さんに何かを伝えていた。

すると奥さんは領いて部屋の隅に置いていた寵から着物を取り出して戻ってきた。

「なまえは軍人では無いにしろ軍で働いていたとなると脱走の扱いになるだろうな。それに女でその格好は目立つ。 そこでよかったらこのアットゥシを着てくれないか?」

女房のお古で申し訳ないが、と差し出されたのはアイヌの文様が施された椅麗な藍色の着物だった。

『え!でもいいんですか?』

「ああ、もう着ることはないし着てやってくれないか?アシリパ、あっちで着方を教えてやってくれ」

「わかった!よかったな、みょうじ!」

『うん!嬉しい、アシリパちゃんとおそろいみたいだね』

アシリパちゃんとキャッキャとはしゃぎながら部屋の奥へ行き着方を教えてもらった。

途中白石さんが覗こうとしたのか悲鳴が聞こえたが知らないフリをした。

「みょうじ!よく似合っているぞ!」

『そうかな?ありがとう、思ったよりも動きやすいんだね〜模様もかわいい』

藍色の生地に白い幾何学模様がとても映えていた。

アシリパちゃんと共に男性陣の前に戻ると「おぉ」 と声が上がった。

「よく似合っているじゃないか。そっちの方が可愛いな」

『あ、ありがとうございます』

可愛いなどと言われたのは久しぶりで思わず顔が熱くなる。キロランケさん顔も男前だけど言う事もカッコイイんだな。

「なまえちゃん軍人の格好よりそっちの方が断然いいよ〜」

「ああ、それにそうやってアシリパさんと並ぶとまるで姉妹みたいだな」

『姉妹かあ〜ならだいぶ年の離れた姉妹になるね』

アシリパちゃんは見た感じ十代前半だし下手したら母親でも可笑しくないかもしれない。

「え、なまえさんって何歳?というか聞いても大丈夫かい?」

『私は今年30歳になるよ』

そう言った瞬間、全員が一斉に「え?!」と言った。 え?

「せいぜい二十歳くらいかと思ってた…年上だったのか」と驚く杉元くんに『ありがとう』と返し「なまえちゃん結構年くってたんだね」と言った白石さんの顔面をガッと掴んでアイアンクローをおみまいした。

「イダダダダダダ!!!!す、 すごい力だ!!」

『白石さん、女性にそんなこと言う人はモテませんよ』

後にアシリパちゃんに聞いた話だけど、その時の私の表情はキサラリよりも怖かったと教えてもらった。キサラリって何?





時間はあっという間に過ぎ賑やかだったチセの中も各々眠りに付き静寂に包まれる。

寝息やいびきが交互に聞こえまるで会話をしているようで思わず笑った。

体は疲れているはずなのに何故か目が冴えていて極力音を立てないように立ち上がりチセの外に出る。

辺りは街灯があるわけでもなくもちろん真っ暗で空を見上げると少しの月明りとプラネタリウムの様な星空が広がっていた。

人工的ではないその光景に感嘆する。

冷たい空気に吐き出された息は白くなって大気中に消えていった。

すると背後から地面を踏む音が聞こえ振り返るとそこには杉元くんがいた。

『あ、ごめんなさい、起こしちゃったかな?』

「いや厠に行ってたから…ただ村とはいえ1人で夜中に出るのは危険だよ」

『ありがとう、なんだか眠れなくで…出てきちゃった』

「じゃあ少し話しでもするかい?」

『いいの?』と聞くと杉元くんはすでにその場に座っていて「ほらなまえさんも座りなよ」と言ってポンポンと自分の横を叩いた。

杉元くんのそういう所本当に優しいと思う。
モテるんだろうなあ。

お言葉に甘えて彼の横に座ると杉元くんは満足そうに笑った。

『杉元くん彼女いないの?』

「彼女?」

『うん、恋人』

そう言うと杉元くんは咳き込んだ。これは何かあるな。

「こ、恋人というか…助けたい人はいるかな」

『助けたい人?』と問うと杉元くんは頷いて「戦死した親友の嫁さんだよ」と言った。

その人は目が悪くて、治療してもらうにはお金が必要だから北海道まで砂金を取りに来ていた所にアシリパちゃんと出会って現在に至る、と説明してくれた。

『そうだったんだ。なら早く金塊を見つけて助けてあげないとだね』


『杉元くんはそのご夫婦のヒーローだね』と言うと杉元くんは「ひぃろぉ?」と首を傾げた。

『ヒーロー、和訳すると英雄とか勇者って意味になるかな。親友さんとの約束のために北海道まで来てお嫁さんを救おうとしている杉元くんはそのご夫婦にとってのヒーローだよ』

「英雄か…そんな綺麗なものじゃないよ。俺は」

そう言って軍帽の鍔を引き下ろし顔を隠す杉元くんの片方の頬っぺたをむぎゅっと指で摘んだ。

「いたた、なまえさんどうしたの?」

『少なくとも杉元くんは私のヒーローだよ』

「なまえさんの?」

うん、と頷いてもう片方の頬も摘みこちらを向かせた。

『現に今も杉元くんも疲れているはずなのに、夜は危ないからって一緒にいてくれてるでしょう?私はそれで救われてるよ』

その言葉に杉元くんは呆気に取られたような顔をしてから、 「ははっ」と笑った。

「なまえさんがそれでいいなら良い気がしてきた。年上の話は聞くべきだな」

『え、何、君もそれをネタに弄るの?』

「イタタタタ!!ほ、頬っぺた取れちゃうってば!!」

そろそろ体も冷えきってきたしチセに戻ろうと杉元くんの頬から手を離し立ち上がり、ブルッと体を震わせた。

「やっぱ4月とはいえ夜は冷え込むな」

『杉元くんありがとうね。お礼に温めてあげようか?』

「え?」とこちらを向く杉元くんに近付き、少し背伸びをしその唇にロ付け個性を使う。

いくらか熱を送り唇を離せば、杉元くんは目を開けたまま固まっていて、思わずギョッとした。

『あの、杉元くん?』

顔の前でヒラヒラと手を振るも何も反応が無く、もう一度名前を呼んだ所で杉元くんがそのまま後に倒れ驚愕した私は、白石さんを叩き起こし一緒に杉元さんをチセまで運んだのだった。

事の成り行きを聞いた白石さんにしばらく個性使用禁止を言い渡されたのはまた別の話。






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ヒロインさんキスに
躊躇いはありません。
お仕事だと思ってます。
杉元寄りでした。