#12



「え、なまえ先生?」

思いがけないところで思わぬ人と再会した。



キロランケさんのチセを出て網走に向かう途中、長旅になるからとアシリパちゃんの村に寄って行く事になった。

移動手段は馬だ。

馬に乗ったことの無い私はキロランケさんと同じ馬に乗せてもらいその背中にしがみついていた。

「ははは、なまえは馬が怖いのか?」

『こここ怖くなんか無いですよ!!ただ、思ったより揺れるから!!』

説得力が無かった所為かキロランケさんは可笑しそうに笑っていた。

道中山賊に出くわし出発早々散々だと思ったりもしたが、杉元くんとキロランケさんによって山賊はあっという間に拘束された。

白石さん曰く「戦争帰りは血の気が多くて嫌だぜ」だそうだ。

キロランケさんは戦地で即席の爆弾を作り敵地を爆破させたりする事が多かったそうだ。

彼らが味方で本当によかったと思った。

再び馬に乗り進むと村が見えてきて「あれが私の村だ」とアシリパちゃんは言った。

キロランケさんの手を借りて馬から降りお礼を言ってアシリパちゃんに手を引かれチセの中に入った。

チセの中からはビヨンビヨンと不思議な音がした。

中に入ると男性と女の子が楽器のようなもので演奏をしていて微笑ましいと思ったが、男性と目が合った瞬間お互いに驚愕した。


「え、なまえ先生?」

『た、谷垣くん?!』


そこに居たのは第七師団の谷垣源次郎くん。

アットゥシを着ていることに疑問を覚えたが、思わぬ人との再会に一瞬かまえた。

すると白石さんが「え、谷垣?どうしたのその格好」と声をかけその問いに谷垣くんも「軍服は目立つから着替えた。意外と着心地が良い」と普通に答えていた。


『え、知り合い?』

「まぁ前に一悶着あって、怪我したのをアシリパさんが助けたんだ。 なまえさんも谷垣と面識あったんだな」

『私は兵舎にいた時に何度か…』

「なまえ先生、なぜ杉元と行動を?」


谷垣くんの問いに『あー…』と思わず言葉を濁す。谷垣くんが脱走するとは考えにくいけど、何を思ってこの村に身を置いているのか明確では無い今、自分の身の上を話すのは賢明ではないと思った。

彼とは慎重に話そうと思った矢先「なまえさんはもう第七師団じゃねぇよ」と杉元くんに暴露され『杉元くん!』と声を荒げた。

「杉元、どういうことだ」

「そのまんまの意味だ。 なまえさんはもう第七師団の物じゃねぇ、俺たちの仲間だ」

「そうだろなまえさん」とまっすぐ言う杉元くんに頭を抱えたが、言ってしまったものは仕方ないし、いずれバレるかと思い『そうだね』と返し、 谷垣くんに全て打ち明けることにした。



「なまえ先生は尾形上等兵を追って出てきたんですか」

『うん、ただ私軍人じゃないし見つけられるわけも無く、その時杉元くんたちと出会って一緒に行動してるんだ』

谷垣くんと外に出て身の上を話した。

杉元くんは尾形さんのことよく思ってないだろうし彼の前で尾形さんの話をするのは気が引けた。

「鶴見中尉は貴女を探しています。 数日前捜索隊と遭遇しました」

『もう捜索隊が…でも谷垣くんは何も言われなかったの?』

そう問うと谷垣くんは少し言いずらそうに口を開いた。


「俺が直接会ったのは三島だけで、捜索隊のことは彼から聞きました。 でもその後、三島は殺されました」

『え?!誰に…』

「……尾形上等兵に頭を撃ち抜かれました」


谷垣くんの言葉に目を見開いた。

数日前に谷垣くんがお手伝いから戻るとチセの
中に尾形さんと浩平くんがいて、谷垣くんが以前一緒に行動していた兵士たちの死が発覚し、犯人は谷垣くんだと言って交戦になったそうだ。

その際に捜索で山に来ていた三島くんと遭遇して話を聞いていた矢先目の前で打たれた、と。

『そんな…』

三島くんは尾形さんの射撃を尊敬していて、また指導を受けたいと言っていたのに。

第七師団から出てきた自分に泣く筋合いは無いけど涙を我慢するため拳を握り締めた。


『そのあと尾形さんはどうなったの?』

「尾形上等兵は再び失踪、二階堂は師団に連れて帰られました。鶴見中尉は尾形上等兵の行動を知って泳がせていたようです」

尾形さんは何が目的なのだろうか…

谷垣くんは察したのか「尾形上等兵は死んだ兵士たちと造反を企てていました。本来の目的は分かりませんが、鶴見中尉に従うつもりは無かったんでしょう…」と苦虫を潰したような表情を浮かべた。

『谷垣くんはこれからどうするの?』

「オレはフチ…アシリパのおばあちゃんに恩返しをするためここに残ります。 なまえ先
生たちは網走に向かわれるんですよね?あと尾形上等兵をを探すのであれば尚更お気を付けて。あの人は共に戦った戦友をも簡単に殺す奴ですから」

「杉元と一緒なら問題は無いかもしれないが…」とチラリとチセを見た谷垣くんに私は『探すよ』と頷いた。

『彼の回復を楽しみにしていたからね、黙って出て行ったことを問い詰めて一発殴りたいと思ってる』

笑みを浮かべると谷垣くんも 「おっかないな」と笑った。

『うん、そっちの方がいいよ』

「え?」

『敬語、使わないで良いよ。その方が話しやすい。あと私はもう師団の先生じゃないからさ』

先生と呼ばれるのは元の世界の気分が味わえて好きだったけど。師団を抜けた今は少し居心地の悪さも感じていた。

「わかった、じゃあなまえさん」

『うん、谷垣くんも村の方々をよろしくね』





チセに戻るとチセで育てているという小熊が白石さんの頭に噛り付いていた。







「ここから網走への大体の中間地点の旭川に第七師団の本部がある」

囲炉裏の灰に図を描いて説明をしてくれる谷垣くん。

その図を覗き込むと網走は小樽から丁度反対側くらいの位置の地の果て。

北海道はでっかいどうっていうのは冗談じゃなかったらしい。

「え、じゃあその本部に鶴見中尉のことを密告すれば良いんじゃないか?」

白石さんはそう提案するけど相手は鶴見中尉だ、そう簡単に行くのかな。

案の定、谷垣くんは首を横に振った。

「本部には鶴見中尉の息のかかった人間もいる。聯隊長の淀川中佐だ」

「中佐より中尉の方が権力握ってんのかよ。どうなってんだ」

「二〇三高地の作戦で揉めてるからな。それ以来中尉に頭が上がらないようだ」


「本部の連中がなまえさんの事を把握しているかは分からないが、少なくとも刺青のことには敏感になっているはずだ。旭川に立ち寄る時は十分気を付けた方がいい」

谷垣くんの忠告に私たちは肝に銘じると領いた。