#13
『ここが札幌…』
キロランケさんは小樽から札幌はあっという間だと言っていた。
網走でのっぺらぼうに会うための作戦が少し荒っぽぬなるかもしれないと、札幌で武器調達をするらしい。
小樽で済ませば?と考えていると杉元くんも同じ考えだったらしくキロランケさんに聞いていたが、どうやら札幌には顔の聞くお店があるらしく少しでも安く調達するためらしい。
銃の値段とか火薬の値段とかに疎い私にはよくわからなかったけど、店からしたら所謂お得意様なんだろう。
札幌に向けて出発したはいいけど、途中何度も白石さんが行方不明になり探すのに時間をかけてしまい札幌への到着が大分遅くなってしまった。
後から理由を聞くと、馬の上で睡魔に襲われそのまま崖から滑り落ちたそうだ。
しかも白石さんは最後尾を歩いていたから余計気付くのが遅くなってしまった。
『白石さん眠いの?言ってよね、いくらでも頬打ってあげるからさ』
「やだ〜、なまえちゃんってば乱暴」
キロランケさんはお店の店主さんに泊まれる宿が無いか聞いていて、普段なら割と開いているようだけど丁度博覧会が重なっていて宿を使う客が多くどこもかしこも満室なんだとか。
『今日も野宿か〜』 と覚悟したところで店主さんが「近所に女将さんが1人で営んでいる洋風のホテルがあるんだわ」と教えてくれた。
なんでも昔は老夫婦が営んでいたけど、いつの間にか経営者が変わっていてその女将さんが何とも色っぽくて近所で噂になっているんだとか。
いち早く反応した白石さんに呆れつつも、教えてもらい行ってみるとそこは【札幌世界ホテル】という看板を掲げた綺麗なホテルだった。
馬を外に繋げホテルに入ると中は静かで「すみませーん!!誰かいますかー?」と杉元さんが声を上げるとしばらくして2階から1人の女性が降りてきた。
「お待たせいたしました、女将の家永です」
『うわ、椅麗…』と思わず零してしてしまい、あっとロ元に手をあて『すみません』と言うと家永さんは「お気になさらず、ありがとうございます」と可愛らしく微笑んだ。肌も締麗でうらやましい…。
そう思っていると黙っていた白石さんがすっと前に出て家永さんに手を差し出した。
「はじめまして白石由竹です。 独身で彼女はいません、付き合ったら一途で情熱的です」
またやってるよと白ける私達とは反対に家永さんは握手に応える。 接客業の鑑だ。
「お部屋にご案内致しますね。こちらへどうぞ」
家永さんに案内されホテルの中を進むと入り組んだ構造になっていた。
「ずいぶんと入り組んだ造りのホテルだな」
「元が古かったので私が引き継いでから改築に改築を重ねて今の形になりました」
入り組んでいるけど廊下の壁には絵画が所々に飾ってありお酒落でレトロな感じが現代でもウケそうだ。
「ではごゆっくりどうぞ」
案内された部屋は3部屋で杉元くんとアシリパちゃん、 キロランケさんと白石さん、私で別れることになった。
部屋にはベッドが2つあり第七師団の兵舎にあったものよりもフカフカで靴を脱ぎベッドに飛び込んだ。
『は〜やっぱりお布団最強だわ〜』
馬に乗っていたとはいえ長旅だったし乗り慣れていないから体のあちこちがバキバキだった。
『やばい眠くなってきた…』
何かあれば杉元くんあたりが起こしてくれるだろう。そう思い私はそのまま眠りに落ちた。
「…さん…なまえさん」
体を揺すられ意識が浮上する。
『んん…なに』
「なまえさん、起こしてごめん。ホテルで知り合った人が飯に連れてってくれるってさ、行ける?」
目を開けるとそこには杉元くんがいて「飯」と聞いてお腹が鳴った。何時だってお腹は正直だ。
『行く〜お腹すいた〜』
靴を履いて杉元くんについてホテルの外に出るとそこには体格の良い男の人がいた。この時代の方ってなんでこうも筋肉付きが良い人ばかりなんだろう。目の保養だ。
「なんだもう1人ねえちゃんがいたのか。今夜は良い酒が飲めそうだ。俺は牛山だよろしくな」
『牛山さんはじめまして、なまえです』
どういう経緯で知り合ったのか杉元くんに聞くと男同士心が通じ合ったのさと教えてくれた。どういうこと?と思ったが詳しくは聞かなかった。熱い話になりそうだったから。
連れてきてもらったのは水風亭という洋食レストランだった。
つい和食をイメージしてたけど、札幌も小樽ほどではないが発展していてこのようなお店も少なくはないらしい。
「エゾシカ肉のライスカレーだ」
店員さんによって運ばれてきたのはカレーライス。久々に馴染みのあるビジュアルを見て思わず涙が出そうになった。しかもとても良い匂い
。
隣に座るアシリパちゃんを見ると、カレーに目を落としながら絶句している。嫌いなのかな?
小さい声で「オソマ…」と聞こえたけど。
『アシリパちゃん、 カレー苦手なの?』
「!みょうじは食べた事あるのか?!これはオソマだ!」
「アシリパさん、これは食べても良いオソマだから」
杉元くんはオソマの意味を知っているようでアシリパちゃんにスプーンを渡している。
『前も思ったけどオソマってなに?』
そう聞くと杉元くんは「えーっと…」と言葉を濁していて、そんな杉元くんをスルーしたアシリパちゃんは 「ウンコだ!」と言った。なるほど…最悪だ。
するとアシリパちゃんの口からとんでもない言葉が飛び出した。
「杉元のオソマはヒンナだが、このオソマは…」
『は?』
杉元くんを見ると必死に弁解された。
「なまえさん!!誤解しないで!!コレは…」
『あの 安心して人の性癖に口出しするつもりないからさ…はは』
「ドン引きしてるじゃん!!!女の子がそんな事言うんじゃありません!!違うから!!!」
キロランケさんが教えてくれた話、杉元くんが常に携帯している味噌をアシリパちゃんがオソマと勘違いしてそれから味噌=杉元のオソマという認識になっているらしい。
その後アシリパちゃんは恐る恐るカレーを口へと運び、その美味しさに机に伏せていた。「ヒンナすぎるオソマ…」と震えるアシリパちゃんに 「ヒンナって神聖な言葉じゃねぇのかよ」と誰かが呟いた。
すると、いきなりドンと目の前にビールのビンを置かれビクッと肩を揺らす。
犯人は牛山さんで、すでに出来上がっているようでビール瓶をラッパ飲みしていた。しまいには 「サッポロビールのみ比べだ!じゃんじゃん持ってい!」と店員さんに次々とビールを持ってこさせていた。
「なまえ!お前も遠慮せずに飲めよ!」
『ありがとうごさざいます!いただきます!!』
そういえば兵舎で紹介してもらった男前九州男児の鯉登少尉さんと晩酌しようって約束してたのに結局出来なかったな。でも男前だし飲む相手は手に余るだろうし、きっと私のことも忘れているだろう。
なんだかんだこの世界に来てはじめての飲酒がサッポロビールとは、ありがたく頂こう。普段飲むのは安い発泡酒だけど、たまに飲むのはサッポロラガービール、 まさにこれだグラスに注いでもらい『乾杯』とそばにいた杉元くんのグラスに自分のグラスを軽くあててぐびっと煽る。
久々のアルコールは体に染みる。
「良い飲みっぶりじゃねぇか!気に入った!」
『あぁ〜やっぱり美味しい〜…』
「やだ〜なまえさん親父くさい」
「ははは、なまえは酒が好きだったか」
キロランケさんがグラスに継ぎ足してくれてお礼を言い再び口を付ける。
普段は1人で晩酌をする事が多かったしこうやって数人で飲むのは久々だった。
すると良い気分になった牛山さんがビールについてのうんちくを語りだした。
「知ってるか?札幌のビール工場を作ったお侍さんは函館戦争で土方歳三と戦った新政府軍の軍監だった。土方の野郎戦争に負けたのは悔しいがやつの作ったビールは美味いってよ」
『土方歳三?って新撰組鬼の副長って言われてた……』
すると牛山さんは一拍置いて「もし生きてたらそう言うだろうなってな…がはは」と笑った。
少しの違和感を感じたが、ま、良いかとグラスに残ったビールを飲み干した。
『そういえば白石さんは?』
「なまえさん気付くの遅いな。アイツは女将が気になるらしくホテルに残ってるよ」
白石さんは本当に恋多き人だな。私がドライすぎるのかも知れないけど…。
そりゃいつかはそういう良い人が現れれば嬉しいけど…。 その時、尾形さんの顔がふっと浮かんで自分でも『え』と驚いた。
確かにこの世界にきて一番交流があったのは尾形さん、 それは間違いないけれど、そういう対象で見ていたわけではない。
第一尾形さんもこんな異世界からきた謎の女相手にするわけないし…ってなんか頭の中尾形さんのことばかりじゃない?!
違う違う!!いや違わないけど!!!
「どうしたなまえさん、そんな百面相して…」
『……酒が足りないかも…おかわり』
「がはは、いいぞ!じゃんじゃん飲め!」
牛山さんからビールを注いでもらい、ぐっと煽る。
すると牛山さんはアシリパちゃんを見下ろし「嬢ちゃん」と声をかけた。
いつの間に飲んだのかアシリパちゃんも顔が真っ赤で良い気分になっていた。
「いい女になりな。男を選ぶ時はちんぽだ」
『牛山さん下ネタぶち込みますね〜続けてどうぞ』
「ちんぽは海で見たけど……なんか…ふふ」
海で見たというアシリパちゃんにすぐさま杉元くんが反応する。
「男は伸び縮みするんだよ?!」ってそれこそ男子高校生が好きそうな下ネタだ。
『なるほど杉元くんは短小か』
「なまえさんもおやめなさいってば!」
すると牛山さんはチッチッチッと指を振った。
「大きさの話じゃないぜ〜?その男のちんぼが【紳士】であるか抱かせて見極めろって話しよ」
牛山さんに続いてキロランケさんも「そのと一り」と頷いている。
抱かせてみて紳士かどうか見極めろ…か。
私は経験が無いから何がどうだったら紳士なのかさっぱりだけど…。
(尾形さんは紳士なのかな…)
って違う違う違う!!!!!
ハッとしてブンブンと頭を横に振ったところで牛山さんが「よし!!ちんぽ講座終わり!女将が俺を待っている」と背広の襟を直して食事会はお開きとなった。
小樽から40キロ東に位置する港町・茨戸
「ぐしゅっ…」
外套を被り銃を背負った男はくしゃみをひとつしてスンと鼻を啜った。
「はは……噂でもされてるのかねぇ…まぁ十中八九良い噂ではなさそうだが…」
男は額に垂れてきた髪を後に撫で付けるように掻き揚げて縫合痕の目立つロ元に笑みを浮かべた。
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お酒は20歳になってから
適量を楽しみましょう。