#14
ーー貴女の肉を食べればーー
(やめて…)
ーー私にもその個性が使えるかしらーー
(たすけて…)
声も発せず振りかざされたナイフを見つめることしか出来なかった。
火薬のような匂いにハッと意識が浮上した。
(夢…最悪な夢だった…)
体はじっとりと汗ばんでいて最悪な気分だ。
汗を拭おうにも何故か体が思うように動かない。遠くの方で騒がしい声が聞こえた。
昨日夕食を食べ終わってからの記憶が曖昧というかほとんど無い。
ホテルに帰ってからそのまま各自部屋に帰り早々とベッドに横になったのは覚えている。
私はそこまで酔っ払ってはいなかったはずだけど、ベッドに横になってからの記憶がキレイさっぱりとない。
すると突然廊下の方からバタバタと足音と共に自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「なまえさーん!!!!」 と呼ぶ声に杉元くんの声だと思いながらも体は動かない。
扉がバン!!と開いて杉元くんとキロランケさんが部屋に入ってきた。
杉元くんの腕にはアシリパちゃんが抱えられている。
『す、ぎもとくん…ゴホッ』
喉が張り付いて声を絞り出すと共に咳き込むとキロランケさんが「なまえ、大丈夫か?」とそばに来てくれた。
「女将の家永と不敗の牛山、あいつ等2人とも刺青の囚人だったんだ!ホテルもめちゃくちゃでもう崩れる!なまえさん動けるかい?」
『2人とも…?!早く逃げなきゃ…!でも、体が思うように動かなくて…』
「アシリパさんと同じようなもんか、それは家永の撒いたガスのせいだ。キロランケはなまえさんを抱えてくれ、地下は火の海だ!早く脱出するぞ!」
キロランケさんは私を抱えて立ち上がり、そばに置いていた鞄も肩にかけた。
お礼を伝えると「若いねえちゃんを抱えられるなんて光栄だよ」と笑った。やっぱ色男は言う事も違うようだ。
早足で廊下を進み階段を降りるところで突然後方から「爆弾用の爆薬を袋ごと火の海に落としちまった!!!」と声がした。
キロランケさんに遮られて顔は見えなかったけど、声からして白石さんだ。
ガタッ
「「『えっ』」」
全員の声が重なったその瞬間、階段が収納され滑り台のようになりそのまま滑り落ちた。
「「『うわぁあぁ!!!』」」
私の体もキロランケさんの腕から転げ落ち尻餅をついた。
白石さんだけがそのまま壁にぶつかり天井からは何故かタライが落ちてきた。
「なまえ、すまない大丈夫か?」
『大丈夫、キロランケさんも大丈夫?』
「俺は平気だ」
何コレ?!まるで新喜劇じゃん!!
「うっ…」
「!アシリパさん目が覚めたか?」
今の衝撃でアシリパちゃんは目を覚ましたらしく安堵した。
私も自力で立ち上がれるようになりキロランケさんから鞄を受け取ってお礼を伝え皆でホテルの外に出た。
出た瞬間ホテルが爆発して間一髪。
少し巻き込まれた私達も煤だらけの姿となった。
白石さんといえばどうやったらそうなるのか謎だけど、ズボンの裾がフリンジになっていた。
その後アシリパちゃんがちんぽ先生もとい牛山さんがいない事に気付き「ちーんぽせーんせーい!!!!」 と大声で叫ぶもんだから『おやめなさい』とアシリパちゃんのロ元を手で押さえる。
野次馬も多いし、こんなに可愛い子がそんな卑猥な言葉を叫んでいたら悦ぶ輩もいるかもしれない。
そのあとアシリパちゃんははんぺんを拾ってそれを牛山さんの額だと勘違いして泣いていた。
杉元くんは横で「それはんぺんだから捨てなさいね」って言ってるし。
そもそも何故こんな所にはんペんが落ちているのかも不明だしもう何処から突っ込めばいいのか分からずとりあえず『ははは』と笑っておいた。
「警察や野次馬も集まってきている。面倒事になる前にひとまずずらかろう」
キロランケさんの言葉に頷いて気付かれる前にその場を退散した。
何故ホテルが爆発したのか後から聞いた話、家永さんは実は女装したお爺さんで医者なんだとか。
調子の悪い場所があるのならその場所と同じ部位を食べれば治る【同物同治】という考えを信じているようで、今回火の海になった地下室には拷問器具や人の遺体が沢山転がっていたそうだ。
そこで今日見た夢の内容によく似ていてゾッとした。でも家永さんが私の個性を知るわけないしただの夢だと、頭を振り忘れることにした。
それにしても女装のテクニックが高すぎやしないか?
女性としての自信をなくしそうだ。
「しかし不敗の牛山と家永、2人とも吹っ飛んじまってたら刺青の暗号は2枚足りなくなる。あの瓦礫の中を探す手もあるが、しばらくは近付けないだろうな」
『そう簡単に吹っ飛びそうな体でもなかったけど、 無事なのかな…』
杉元くんと話していると聞き込みに言っていたキロランケさんが戻ってきた。
「野次馬に話を聞いたんだが、瓦礫の中から死傷者は見つけられなかったそうだ。地下の遺体も吹っ飛んだか瓦礫に埋もれちまったか、2人の死体があるとしたら地下室かもな」
「いや、白石の話では吹き飛ぶ前2人とも俺たちと同じ2階にいたと言っていたから埋もれたとは考えられん」
『じゃあ2人とも抜け出した可能性が高いんだね』
敵と言っていいのか微妙だけど、人が死ぬという事には慣れない。というか今後も慣れたくは無い。上手く抜け出せたのだろうと安堵の息を漏らした。
アシリパちゃんも同じく牛山さんの身を案じていて末だに持っていたはんぺんを切ない表情で見下ろしていた。
「そのはんぺんさっさと捨てなさいよ?」
杉元くんは真顔でそう咳いた。