#15
『日高?』
白石さんが情報収集で得てきた情報によると、日高という所にどうやら囚人がいるとの事だった。
その情報に確証はあるのか聞いたら「網走の計画だって上手くいくとは限らないんだからさ、道すがら囚人の情報があれば向かってみるべきだと思うんだよなあ」と白石さんは言った。
『白石さんも真面目なこと言うんだね。』
「ちょっとなまえちゃんそれどういう意味?!俺だって真面目なことくらいあるよ!」
ぷんぷん怒る白石さんに対して 「情報収集ってどうせススキノだろ、エロ坊主め」と言う杉元くん。
白石さんは 「でもそのススキノで情報掴んで来たんだからイイ思いもして情報も得れて一石二鳥だよ☆」と得意げに言っていた。
こうして日高に向けて出発した私達。
旅路は順調かと思いきや、白石さんがホテルでダメにしてしまった爆薬を買い直すため、途中途中で高く売れそうな動物を猟で捕まえ勇払という場所にある村にそれらを持ち込みお金を作っていた。
この時持ち込んだのはキツネにリスが数匹。自分達の食料として食べた物も混ざっていて、すでに皮だけになった物もあった。
アシリパちゃん曰くその時により皮の値段は変わるらしく、今年はキツネの皮1枚で1円だそうだ。
白石さんが「キツネ1匹で酒が6升か」と言っていたが「お前が爆薬を落とさなければ猟で金を作って買い足す事も無かったのに」と文句を言う杉元くんに白石さんは「てへぺろ☆」という表情をする。腹立つなあの表情。
しかもそのあとキロランケさんの暴露により札幌で競馬にお金を費やしていた事が分かった。
しかもアシリパちゃんに借りたお金で。
『いい年した大人が何やってんの白石さん』
「お前あの金博打に使ったのか」
「樽の底の油を乱めろ」
「やだぁ!!!」
アシリパちゃんはストゥという乱用禁止の禍々しい形の制裁棒を取り出し白石さんの膝を打ち、 杉元くんはキツネを捕まえた時の罠を取り出して白石さんの頭に被せた。あ、血が出ている。
「しばらく勇払に滞在するしかないな」
『何かお金を手に入れるいい方法がないかなぁ…あ!』
杉元くんを手招きして呼び寄せると「どうしたの?」とすぐにそばまで来てくれた。
ちなみに白石さんの制裁はキロランケさんとバトンタッチしたようだ。
『私の個性を活かして何か見世物的なことしたらお金集まらないかな?』
「個性を活かすってどうやって?」
『指を切ったと思ったらすぐに治しちゃうドッキリ〜!みたいな…』
そう提案すると杉元くんに 「絶対にダメ!」と全力で否定された。
なんでよと不満を申し立てると「確かに金は手に入るかもしれない。けど、 それって第七師団に私はココです!って言ってる様なもんだよ」と言われハッとした。
この時代の情報網は現代まで発展はしていないけど、正直鶴見中尉が何処まで根回ししているかも分からないし、 案外近くまで来ている可能性も高い。
「それに個性使うとなまえさんの体力も持っていかれちまうんだろ?女の子にそんな事させられないよ」
そう言って杉元くんはポンと頭に手を置いた。
しばらくポカンとしていると杉元くんは「あ!ご、ごめん」と瞬時に真っ赤になって手を離した。
慌てた彼の姿が面白くて『ううん、ありがとう。 そうだね目立つ行為には気を付けるよ』と笑うと「そうしてくれ」と杉元くんも笑った。
アシリパちゃんの案内で訪れた村にはフチさんの6人兄弟のうちの末の弟さんが住んでいるらしくそこに泊めて頂ける様だ。
『突然お邪魔してしまい申し訳ないです。よろしくお願いします』
アシリパちゃんが通訳になってくれるお陰で難なく会話をする事ができ、弟さんは「最近は思いがけない人が来るねぇ」と言った。
どうやらつい最近も不思議な女の人が村に居ついていて、 その人は占い師なのか未来や過去が見えるというものだから村の人たちが占い師の言う言葉に翻弄されおかしくなってしまっているようだ。
すると向こうの方から1人の女の人が歩いてきて弟さんは「丁度来た」と言った。
彼女が噂の占い師さんなんだろう。
「インカラマッという女だ」
その人は赤色のアットゥシがよく似合う美人なお姉さんだった
「シライシヨシタケです。 独身で彼女はいません」
インカラマッさんを見てすかさず動いたのがこの男。
本当にブレないのな白石さん。
白石さんの頭からは血が出ていて大方先ほどのキツネの罠による傷だろうけど。
「私、顔に傷のある男性に弱いんです。 そちらの方もとても男前ですね」
「…そりゃどうも」
褒められる杉元くんだったけど慣れてないのか恥ずかしそうに軍帽を引き下げた。
『照れてる?』
「て!照れてなんかないやい」
杉元くんの顔を現き込むとこれまた恥ずかしげに目を反らされてしまった。可愛らしいなあと二ヤニヤしていると、 インカラマッさんに「もしかしてあなたたちは小樽から来たんじゃないですか?」と言い当てられた。
何故ソレを…という私達に対して「私見えるんです。あなたたちは誰かを、あるいは何かを探している」とさらにあてる彼女に本当に占い師なんだと1人感心した。
私はあまりそういうのに興味は無いけれど高校の同僚がこういった手のものが大好きで何度か一緒に占いに行った事がある。見える人は本当に見えるっていうし。
しかしアシリパちゃんや杉元くんは信じている様子はなく「大叔父から小樽に親戚が多いと聞いていたんだろう」と杉元くんに耳打ちをする。杉元くんもそれに納得していた。
白石さんは信じやすいようで「凄い!!その通りです!!」と興奮している。
インカラマッさんはシラッキカムイというキツネの頭骨を使って占いをするらしい。
で、その占いで出た内容は神の意思として必ず従うんだとか…。
(じゃあ、死ねって出たらそれに従わないといけないわけ?)
馬鹿馬鹿しい…と思っているとふとインカラマッさんと目が合った。
「あなたは…とても不思議な空気をお持ちのようですね。あなたの過去や未来は全く見えません」
『え?』
「そうですね…しいて言うならここよりももっともっと遠くから来た。それにあなたも個人
的に探している人がいますね?」
きっと私の未来や過去が見えないのは私がこの時代の人間ではないからだろう。
ここよりももっと遠くから来たっていうのがそういうことだと思う。
そして探している人は、尾形さんのことだろう。
「とても興味深いです」
「もういいだろ、俺たちのことを占ってくれ」
自分のことを探られているようで黙っていると杉元くんが助け舟を出してくれて、インカラマッさんの興味をそらせてくれた。
あとでお礼言おう。
「いいでしょう。ではあなた達の探し物が見つかるかどうか占ってみましょう」
占いのやり方は、頭にキツネの下顎の骨を乗せ、それを頭から落とし地面に着地した向きや形で占うそうだ。
インカラマッさんが頭を下げると下顎の骨はスルリと地面に落ちていく。
たかが占いと思いながらもどきどきしながらそれを眺めた。
すると下顎の骨は歯を下に向けて地面に着地した。
「シラッキカムイの歯が下を向きました。希望は持てませんね」
そうインカラマッさんは表情を変えずに淡々と話しだした。
「不吉な兆候を感じます、予定は中止した方がいいでしょう」
『そんな…』
チラッと周りを見ると黙ったままの杉元くんに「マジかよ…」と信じた様子の白石さん、キロランケさんは胡散臭そうにキセルをふかしている。
『…占いなんてさ、信じるか信じないかはあなた次第ですってやつでしょう?私はあまり信じない方だからさ、占いで出たからって必ずしもそれに従いたくはないかなぁ』
毎朝見ていた二ュースの星座占いは当たった事がない。
なんならこの時代にトリップした日の朝に見た占いは1位だった。アナウンサーのお姉さんに「おめでとうざいまーす!」と言われたその日に明治時代にトリップして尾形さんを発見して鶴見中尉に捕まり月島さんに打たれたんだ。
現代では体験できない事が出来たという点で見ればある意味1位かもしれないけど、個人的には圧倒的に最下位の12位だ。
下手したら死んでいたのだから。
「みょうじの言うとおりだ。何にでもあてはまりそうな事を当てずっぽうで言っているだけだろう。私も占いなんかには従わない」
真っ直ぐな視線ではっきりと言うアシリパちゃんに『そうだそうだ』と頷くとインカラマッさんはクスッと笑い「そうですか、あくまで占いであり指示ではありませんから」とキツネの骨を懐にしまい立ち上がった。
そして「ところで…」という彼女に視線が集まる。
「探しているのはお父さんじゃありませんか?」
「「『!!!』」」
さすがのアシリパちゃんも動揺を隠せれず、それを見たインカラマッさんは「当てずっぽうですからお気になさらずに…」 とキツネの様な笑みを浮かべて去っていった。
『なにあの人、やな感じ…』
「イカッカラチロンヌプめ…」
『いか…何て?』
「イカッカラ·チロンヌプ。誑かすキッネという意味だ」
『誑かす…あの人にぴったりだね、キツネ顔だし、ていうかアシリパちゃん、 本当に色んな事に詳しいね』
「アチャ…父が色々な事を教えてくれたんだ」
そうアシリパちゃんが懐かしむように笑うから、心臓がきゅーんとなった私は思わずアシリパちゃんを抱きしめた。
「みょうじ?!どうしたんだ?」
『アシリパちゃん !絶対にお父さん見つけようね!私も出来ることはなんでも協力するから!』
「!ああ、ありがとう、みょうじ。頼りにしている」
そう笑みを浮かべるアシリパちゃんの表情は私なんかよりもずっと大人で女の子なのに男前で控えめに言って惚れそうだった。
その夜、弟さんのチセでお世話になり、お手洗いを借りて外に出たところで杉元くんに会った。彼もお手洗いだったようだ。
そこでふと昼間の事を思い出した。
『杉元くん』
「ん?どうしたんだいなまえさん」
『昼間にさ、話そらしてくれてありがとう』
杉元くんは思い当たる節が無かったのか首を傾げていたので『占いの時…』と言うと「あぁ」と思い出したように手を叩いた。
『正直、あの人に探られるの嫌だったし、個性の事もキロランケさんにはまだ話してないからさ、やっぱり打ち明けるなら自分の口から言いたいし』
「いや、もしかしたらそうかもって思ったけど、正解だったな。俺も占いなんかに従うつもりはないよ。だけど白石のやつが少し心配なんだよな…」
『え?白石さんが?』
「あいつめちゃくちゃ信じてそうだったし、なんか変な事考え付かなきゃいいんだけど…」
『そうかな〜?考えすぎなんじゃない?』
杉元くんの心配が現実になったのは次の日だった。
『え、白石さんがいなくなった?』
「ああ、白石の馬もどこにもいない」
まさか昨日の占いを信じて恐れをなしちゃったとか?網走監獄に入り込むには白石さんが必要不可欠なんじゃないの?
「白石の居場所が分かったぞ、あの女を連れて出かけたらしい」
村の人に聞いたらしくキロランケさんはそう言った。
『出かけたって、どこに?』
「苫小牧競馬場だ」
「ほらななまえさん、言っただろ」
『競馬場って……ギャンブルの予想に占いってこと…?』
白石さんそうきたかあと頭を抱えた。