#17
「最終レーーーーーース!!!!!!」
そう男の人が叫ぶとワッと歓声が上がった。
最終レースの3番の馬。それがキロランケさんだ。
どういう経緯で代走する事になったのか詳しくは聞いていないけど、仲間が走るのだから見ないわけにもいかない。
アシリパちゃんとも合流して皆で観戦スペースに移動した。
インカラマッさんの行方を聞くと、彼女はすでに馬券を買っており「また会いましょう」と言って姿を眩ませてしまったらしい。
『最後までよくわからん人だったな』
コースに目をやるとキロランケさんが見え手を振るもこちらに気付くわけもなくスタート位置についた。
「6番頼んだぞぉ!!!!負けたら桜鍋にしてやる!!!!!」
白石さんが全額6番にかけたもんだからキロランケさんの3番が勝ったら今度こそスッカラカンになるわけで、でも応援ぐらいはしたい。
内心6番が勝ちますようにと願いながら、もしも負けたら今度こそ【瞬時に傷が治るドッキリショー】で身を売ろうと覚悟を決めた。自分も旅に同行するのだから何か役に立ちたい。
レースが始まり一気に観戦席が熱気に包まれる。
するとキロランケさんの横を走っていた馬の騎手がキロランケさんの顔面に向けて鞭を打った。
『あ!!』
それによりキロランケさんは遅れを取る。
『ちょ!あれ反則なんじゃないの?!』
「キロランケが出遅れちまった!!!」
「そらやっぱりな!!6番いけぇ!!!」
するとキロランケさんを追い抜いた馬の騎手同士も殴り合いを始め落馬したりとやりたい放題だった。
キロランケさんはその乱闘を馬で飛び越え先頭集団に追いつくよう馬を走らせる。
「キロランケが早い!!追い抜くぞ!!」
「!みょうじ、見てくれ、これだけ…」
『あ!1枚だけ3番が賭けてある!』
アシリパちゃんが見せてくれた馬券は全部6番だったけど、1枚だけ3番が賭けてあった。
『インカラマッさん1枚だけ3番にしてくれてたんだ…!!』
レースに目を向けると最終コーナー。歓声が一気に倍になり私も叫んだ。
『キロランケさん!!いけぇええええ!!!!』
キロランケさんは一気に先頭に躍り出てそのまま駆け抜けた。
誰も想像していなかった逆転レースにしばらく歓声は鳴り止まなかった。
『杉元くん!勝ったね!!キロランケさんすごいよ!!』
「あぁまさかあそこで逆転するとは思わなかった」
杉元くんと先程のレースを振り返りワイワイ盛り上がっていると「おーい」とすでに着替え終わったキロランケさんが戻ってきた。
綺麗に剃られた顎髭はすでに生えて来ていてジョリジョリになっていた。杉元くんは「うわもう髭生えてる」と驚いていた。
『キロランケさん凄かった!!おつかれさま!!』
「ありがとうなまえ。さぁ杉元さっさとずらかるぜ、今頃大損したヤクザの親分が俺の事を探してる」
『え、どいうこと?』
キロランケさんに話を聞いたところ、最終レースは馬主に八百長を指示されていたらしい。
馬主はヤクザで、6番の馬を勝たせないと自分たちが殺されるから元々乗る予定だった騎手と背格好が似ているキロランケさんに声をかけたそうだ。
「そのヤクザは6番に大金をかけていたそうでな、今頃大損で怒り狂ってるだろうな」
『そ、そんな悠長な…!早く退散しましょう!白石さんはどこ行ったの!?』
「あそこでぶっ壊れている」と杉元くんが指さす先には踊っている白石さん。
よく見るとお金ではなく葉っぱをたくさん持って喜び狂っている。きっと彼にはあれが大金に見えるんだろうな。完璧にキツネに化かされている。
『どうする?』
「ほっとけば勝手にコタンに戻ってくるだろう。私たちは帰ろう」
残って連れて帰ろうかと迷ったけど、インカラマッさんももう居ないし問題はないだろうと言われアシリパちゃんの言う通り先に村に帰ることにした。
日も落ちて来た頃、コタンのそばに川がある事を教えてもらい、私はその川まで来ていた。
杉元くんが「ついて行こうか?」と言ってくれたけど「体拭きに行くんだけど…」と言うと途端に真っ赤になってごめんと謝って来た。
それが面白くて「杉元くんも体拭く?洗ってあげようか?」と言うと、程々にしてやれとキロランケさんに軽く窘められた。そう言う本人も面白がっていたけど。
川に到着して鞄から手拭いを出し水に浸し固く搾って体を拭いていく。
暑い季節になったら川に入ってもいいかもしれない。今でも入りたいけどさすがに風邪を引くだろう。
『街に出たらお風呂入りたい…』
第七師団にいた頃はお風呂には困らなかったし、なんならお風呂が好きな月島さんに教えてもらった銭湯にも何度か足を運んでいた。
だけど今はそんな我儘を言っている場合では無い。
『体が拭けるだけでもありがたいと思わなきゃね〜』
体を拭くために着崩していたアットゥシを整えて再び濡らした手拭いで髪を拭いていると、背後から地面を踏む音がして、バッと後ろに振り向いた。
『え?白石さん?』
そこには白石さんが立っていた。
「あ〜あ、気付かれちゃった。なまえちゃんのこと驚かそうと思ったのにぃ」
『ふふ、残念でした』
白石さんは残念そうにヘラヘラ笑いながら私の横にどかっと座り、何を言うわけでもなく胸の前で両手を合わせ、指を遊ばせている。
何か言いたげな雰囲気に『どうしたの?白石さん』と声をかけると、白石さんはびくりと肩を震わせた。
「あー…えっとね。ごめん!」
『え?!』
白石さんは頭を下げて謝罪をしてきた。
「俺、役立たずだし、せっかく買った爆薬ダメにしちゃうし、インカラマッちゃんの力があれば大金が手に入ると思ったんだよね…なまえちゃんも怒ったよね?」
くぅ〜んと効果音が付きそうな程に落ち込んでいる白石さんに自分が提案したロシアンルーレットのことを思い出して、私も大人気なかったかもと反省をした。
『もういいよ。よくわかんないけどインカラマッさんも1枚だけキロランケさんに賭けてくれてたし、私も物騒なこと言ってごめんね?』
『これに懲りて賭け事は程々にしてね?』と言うと白石さんは「もうしばらくいいや〜」と遠くを見つめていた。
『まぁでもインカラマッさんが1枚賭けてくれてたお陰で私も身を売らなくて良くなったし、最後までよくわかんない人だったけどそこは感謝かなぁ』
「え!?なまえちゃん身売り考えてたの?!」
『身売りって白石さんが考えてるような助平な事じゃなくて、私の個性の方ね?傷をすぐさま治す女って売れそうじゃない?』
「助平ってなにさ!!」と白石さんはぷんぷんしていたけどすぐに表情を戻して「絶対にだめ」と言われた。
『白石さんなら話にのってくるかと思ってた』
「ひどいよ!確かに俺お金は好きだけどさ、その個性ってなまえちゃんの体力奪うんでしょ?そんな事女の子にさせられないよ」
白石さんの表情は真剣で、この人真面目にしてれば普通にモテそうなのになぁ…残念だと考えていると「今すごい失礼な事考えてたでしょ」と言い当てられ適当に誤魔化した。
『ありがとう。白石さんがそんな事言うのビックリしたけど、今後も頼りにしてるよ、えっと…脱糞王?』
「やっぱり失礼な事考えてるじゃん!しかも脱獄王だからね!!!」
『嘘嘘、わかってるよ脱獄王。ちょっとからかっただけ』
『ごめんね』と笑うと白石さんは「なまえちゃんの意地悪〜」と言いながらも笑っていた。
皆の所に戻ろうと立ち上がると、暗くなってきて足元が危ないからと、白石さんは手を握ってくれた。
あら、紳士。と思いながら『エスコートお願いしようかな』と笑うと白石さんは「えすこーと?」と首を傾げていた。
この後白石さんが「あ!」と何かを思い出したように声を上げたから何事か尋ねると、握った方の手を見て、
「さっきこっちの手でちんこ触ったの忘れてた」
と爆弾を投下したので思い切りビンタして白石さんを置いて先にチセに戻った。