#18



「なまえ!あぶないから扉に近付くな!」

『で、でも塞がないと入って来ちゃう!』

「なまえちゃんは危ないから下がってて!」



なんで?!なんでこんなことになったの!!??





遡る事数時間前。


アシリパちゃんのフチさんのお姉さんが住むと言うコタンにお邪魔した際に、代々受け継がれて来た大切な服を賭博癖のある義理の息子がその服をたったの30円で人に売って逃げたと言う話を聞いた。


その服は上質なアザラシの皮を何枚も使った高価なものらしく、お姉さんは涙を流してしまった。


『その服を売った相手はわからないの?何とかして返してもらえないのかな?』

「その服はフチの家に代々伝わる大切なものだ。私も取り返したい。売り飛ばした相手は、この近くで牧場を営むエディー・ダンというアメリカ人らしい」


それを聞いて早速その牧場に足を運びエディーさんに交渉を持ちかけたが、30円で返す条件にモンスターの討伐をお願いされた。


近頃エディーさんの牧場の馬が立て続けに襲われていて、牧場の従業員もソレを恐れて解決できずに困っているようだ。

どうするんだろうと杉元くんの表情を伺うとアレは確実にキレている。なんなら交渉なんて無視して力付くで奪い返してやろうかなんて思ってそうだ。

すると突然外から従業員さんらしき人が部屋に飛び込んで来て「エディーさん!また奴が出ました!馬の悲鳴が!」と叫んだ。


外に出ると地面には不自然な足跡。アシリパちゃんがソレを調べていると「あそこに何かいるぞっ」と声を上げた。


白石さんが指さす方に目を向けるとそこには不気味なシルエット。


『なに、あれ…』


それは馬を背負って歩くヒグマの姿だった。





そこから条件を飲むと言ったアシリパちゃんと杉元くん、キロランケさんと白石さんそして私のチームに別れて行動する事になったのだけど…。





「一体この周りには何頭ヒグマがいるんだ!」

「言ってる場合か!こっちも塞ぐから手伝え白石!」

誰も使ってない農家があるから待機するのに使えばいいと言われたのでそこに向かう途中ヒグマに遭遇し急いで家に飛び込んだ。

しかも…

「なんなんだあんたらは…」

誰も使ってないって聞いたのに何故か中には人が居た。

でも今はそれどころではない、扉を挟んだ向こうにはヒグマがいる。

この世界に来て初めて目にする野生のヒグマは想像以上に大きくて怖かった。


「扉は全部塞いだからひとまずは大丈夫だろう、なまえ平気か?」

『はぁ…良かった2人ともありがとう、私は大丈夫』


アシリパちゃんと杉元くんは大丈夫だろうか。あの2人は武器も持ってるし杉元くんは不死身だし問題は無さそうだけど。


「あの、なにをやってるんですか?」

「「『?!!』」」


私たち3人+知らないおじさんで身を潜めていると家の奥からもう1人知らないおじさんが出てきた。

『び、びっくりした、どこから入って来たんですか?』

「どこって裏の勝手口ですけど…」

「やべぇそっちも塞がないと!」と白石さんは勝手口の方へ走って行った。

『あの、外にはヒグマがいたんですが大丈夫でしたか?』

裏から入って来たという男性にそう聞くと「え!ヒグマが?!」と驚いた表情を浮かべた。

そんなに気付かないものだろうか…

「ここはアンタの家かい?」とキロランケさんが聞くと「えぇ、まぁ」とおじさんは答えた。あれ、だったら最初にいたおじさんは何者…。


ふと部屋の奥に目をやると2階に行く階段があり2階の方が安全だろうとキロランケさんに声をかけて階段に近付きすぐに私の足は止まった。

今、誰かと目が合っーー…


『きゃぁあああ』

「なまえちゃん!?」

「どうした!!」

『あっ…あそこ、に…ひ、人の、首が…』

階段には2つの生首が置いてあった。2つとも額には【六】と刻んである。

初めて見るそれに吐き気が込み上げ『うっ』と口元を手で押さえた。

「なまえちゃん大丈夫!?」と白石さんが背中を摩りながらその場から遠ざけてくれて少し落ち着いたけど気分が悪いのは変わらない。

初めからいたおじさんも「えっそれは…」と驚いていたけど、キロランケさんは「とぼけるんじゃねぇ」と睨みつけた。確かに私たちよりも先にこの家にいたのに生首に気付かないなんて可笑しい。

「それにこの家は牧場の人が空き家だと言っていたけど、本当にアンタの家か?」そう問う白石さんに後から入って来たおじさんはビクリとして顔色を変えた。

しかもキロランケさんの話によると、その生首の2人は苫小牧競馬場で代走を頼んで来た2人だそうだ。

『八百長を指示され勝たせろって言われてた馬って、たしか6番…』

生首の額の数字も六。

これは偶然なんかじゃない。

「なまえのいう通りだ。さぁて…どっちが俺を殺しに苫小牧から追って来た男だ?」


おじさんは2人とも黙り込む。緊張が漂う中、突然扉を叩く音と「白石いるか!?扉を開けろ!!」と杉元くんの声が聞こえた。


『杉元くんだ!』

外にはヒグマがいるはず。白石さんは唯一開けてあった窓から杉元くんたちを呼び寄せ部屋の中に入れた。

『杉元くん!アシリパちゃん!』

「みょうじ!怪我はないか?」
「なまえさん!大丈夫か?!」

家の中に入ってくるなり同時に私に駆け寄ってきた杉元くんとアシリパちゃん。2人とも怪我はなさそうで、安心して『うん、キロランケさんと白石さんがいたから私は大丈夫』と笑った。


「危機一髪だったな」

「家の周りには3頭もいやがる。ヒグマを足止めする為に弾薬盒をつけた帯革を外に投げて来ちまった」

ヒグマは蛇が苦手とかでベルトを投げると勘違いして怯むらしい。この家に逃げ込む前にキロランケさんが教えてくれた。


杉元くんたちを案内していた従業員さんも中に入り外の様子を伺っている。

すると突然窓の外からヒグマの手が伸びて来てそれと同時に従業員さんの悲鳴が上がった。

ヒグマによって引き摺り出されたんだ!



「ぎゃぁあああああ」

『ひっ…』



「手をかせ!」と杉元くんは従業員さんの足を持ちこちらに引き戻そうとするもヒグマも引っ張るから断末魔のような悲鳴が上がり思わずギュッと目を閉じ手で耳を塞いだ。



断末魔の合間に「こいつは入れ墨の囚人かもしれないんだ!」と叫ぶ杉元くんの声が聞こえた。