#19



「こいつは入れ墨の囚人かもしれないんだ!!」


そう叫んだ杉元くんは従業員さんを家の中に引き戻し苦しむ彼を気に留めず服を剥ぎ取った。


上半身を確認する杉元くんは「違ったか…」と血に塗れた手を離した。


「ここに銃はないのか?」

「無いみたいだ」


アシリパちゃんの弓矢も先程森の中での戦闘で使い物にならなくなり毒矢も落として来てしまったらしい。


「みょうじ、大丈夫か?気分が悪いなら奥で休ませてもらうといい」

『アシリパちゃんありがとう…でも危険なのは外だけじゃ無いかも…』

「え?」と首を傾げる杉元くんとアシリパちゃんにキロランケさんは先ほどの生首を見せた。

「どうしたその生首…」


杉元くんはギラついた目でおじさん2人を睨みつけた。








「仲沢達弥と申します」

「若山輝一郎」

背の高い後から入って来た人が仲沢さん、背の低い元からいた人が若山さんと自己紹介をした。

つられて自己紹介をしようとすると「言わなくていいよ」とそばにいてくれている白石さんに止められた。

キロランケさんから話を聞いた杉元くんは何を言っても言い訳をする彼らに嫌気がさしたのか「もういい面倒だ、2人とも脱げ」と、そう吐き捨てた。


「キロランケを追って来たヤクザならくりからもんもんが入ってるだろ。そいつに弾薬盒取りに行かせようぜ」


杉元くんがそう言った瞬間、若山さんが刀を抜き杉元くんに襲い掛かった。


『杉元くん!!!』

叫ぶと同時に杉元くんも銃剣で斬りつける。

ビリッと布が破れる音がして目を向けると若山さんの肩にはいかにもなヤクザの入れ墨が刻んであった。

「テメェらが連れてきたヒグマだろうが!!テメェらでケツ拭けねぇなら切り刻んでヒグマの餌にしてやろうか!!」


「それに!アイヌの色男」と若山さんはキロランケさんを呼び「テメェのせいで俺は競馬で大損こいたんだ!それの落とし前にまずはお前が弾薬盒拾ってこいや」と吐き捨てた。

そして何故かこちらに目を向けられる。

「もしくはそこで怯えてるねぇちゃんに取りに行かせるでもいいな!何も出来ないなら楽しませるくらい出来るだろ」

「?!テメェ!なまえさんに近付くんじゃねぇ!!ぶっ殺すぞ!!」

「上等だ!こちとら商売敵を切りまくってヤクザの親分にまで上り詰めたんだ。銃を持たない兵隊さんがどこまでやれるか試してみるか?」


『ちょっと皆…』

オロオロしているとアシリパちゃんが「お前らいい加減にしろ!!」と声を荒げる。ここから無事に脱出するのが最優先だと言う彼女の言葉にその場は鎮められ一時休戦となった。

本当アシリパちゃんの言葉は影響力がある、と1人感動していると、若山さんは「話し合いじゃ埒があかねぇ」と懐からサイコロを取り出した。


「俺はヤクザのばくち打ちだ。誰が弾薬盒を取りに行くか、賭博できめよう」

若山さんはキロランケさんを指名して勝負させろと申し込んできた。

反則ができないよう壺振りという役目を仲沢さんにお願いし勝負は始まった。









のだけど、










「親分が浮気するからだ!!」




そう叫ぶ仲沢さんの話に私の脳はまだ情報処理が追いついていないようだ。


結果から言うと仲沢さんと若山さんはグルで、サイコロを振る用の壺にも細工を施し必ずこちらが負けるように仕組んであった。

しかし出たのはキロランケさんが張った【半】。若山さんたちが負けたのだ。

白石さんは「イカサマしたくせに失敗しやがった!」と笑ったが、この手のイカサマが出来る仲沢さんがそんな失敗するはずがないと、わざとだと若山さんは声を荒げた。

「なんたって俺を困らすことばかりしやがるんだお前は!この状況で生首置きやがって計画がめちゃくちゃだ!」

そう問い詰められた仲沢さんが発した言葉が先ほどの言葉だ。

え、何そう言う関係なの。

「あれは金で買った男だと言っただろう!まだ根に持ってんのか!」

「さっきだってそこの坊主頭のケツを物欲しそうに見ていたくせに!!」

「見てない!!!」

とんでもない痴話喧嘩の展開に私たちはまるでお芝居でも見るかのように若山さんと仲沢さんの顔を交互に見る。

そして巻き込まれた白石さんに至っては遠い目をしている。不憫だ。

たしかに白石さん色白いし監獄にいた時とかそういう対象に見られてもおかしくなさそう…。それに鯉登少尉さんも鶴見中尉を見て興奮してたし、やっぱりこの時代珍しくないんだろう。

『うんうん、そういう関係私は偏見ないからいいと思うよ。いや〜いい話だった2人ともお幸せに』

「ちょっとなまえちゃん!現実逃避しないで!終わってもないから!!!」

パチパチ拍手していると白石さんによって現実に引き戻された。

痴話喧嘩をやめない2人を杉元くんが止めに入り「約束は約束だ」と若山さんが弾薬盒を取りに行くことになった。その間も仲沢さんは「ヒグマにちんぽ食われちまえばいいんだ!」と喚いている。

若山さんは階段にあった生首を2つとも持ってくるとそれをヒグマの方にぶん投げてヒグマたちが気をとられている間に外に出て弾薬盒の元へと走った。

しかし時間を稼げるのも一瞬で、一頭のヒグマが若山さんに気付き近付いていく。

「親分!」

仲沢さんの声に若山さんは自身のベルトを外しヒグマに向かって投げつける。

その瞬間はらりと落ちたのは若山さんのズボン。その足には金塊の暗号の入れ墨が刻まれていた。


「「「入れ墨の囚人?!!」」」


上半身には元々入れ墨があったから下半身に彫ったんだ!

若山さんは弾を杉元くんに向けて投げ飛ばすとそのまま森の中に消えていった。

「やばい!暗号が逃げちまう!!」

『でも、もうヒグマが…!!』

扉の方からバキバキと音がしてヒグマが室内に入ってきた。

「なまえさん下がってろ」

『う、うん…』

杉元くんが後ろ手に庇ってくれながら銃に弾を装填する。

何度かヒグマに弾を打ち込み「俺は不死身の杉元だ!」と自身を鼓舞しながらヒグマに突っ込みとどめを刺した。しかしヒグマもただでは死なず、杉元くんの顔面に引っ掻き傷を作り息絶えた。


『杉元くん!!!!!』


どさっと尻餅を付く杉元くんに駆け寄りその顔を覗き込めば酷い傷だった。
出血も酷く杉元くんのトレードマークである黄色に赤チェックの可愛らしいマフラーが血の色で染まっている。


「ちょっ、なまえさん!」

止めようとする杉元くんの手を振り払い傷に触らないように唇に口付けた。

そのまま個性を使い体力がじわじわ無くなっていくのを感じたがそんなこと言っている場合ではない。

「なまえちゃん!?」

「みょうじ!やめろ、そんなことしたらお前が倒れるぞ!」

「なまえ!?おい、どういうことだコレは…」


杉元くんが「んん〜!!!!」と暴れ出し私の両肩を掴んで押しのける。


ちゅっとリップ音が鳴って唇が離れ杉元くんの顔を見下ろすと顔は真っ赤だけど出血は止まったようだった。



『杉元くん、無茶しすぎだ…よ…』


「え!なまえさん?!」


私の意識はそこで遠くなりそのまま杉元くんの方へと倒れ込んだ。



遠のく意識の中で私の名前を呼ぶ声が何度も聞こえた。