#20



「なまえの個性は人の役に立つね」

「傷付いた人を治癒できるなんて凄い」


周りの大人たちにそう囃し立てられてヒーローを目指した。


でもいざヒーローになってみれば現実はそうも甘くなかった。



「みょうじって戦えないの?」

「体力テストや戦闘訓練はいつも最下位だったみたい」

心ない言葉を言う人もいた。


使えないって思われるのが嫌で筋トレもし始めた。


「治すのにキスしないといけないんだって」

「何それ、ただしたいだけなんじゃないの?」


でも結局私の個性は人を救うけど、戦闘向けではなく実戦には必要とされずヴィランの標的にもなりかねないと外された。


ヒーローにはなったけど私が本当にやりたかった事ってなんなんだろう。

ただ人を救って、それだけでよかったんだろうか。


『私だって、自分の手で守りたいよ』


未だにわからないでいる。









『ん…』


薄らと目を開けると見覚えのない天井が目に入った。

柔らかくて温かい、久々の感触。布団だ。


体を起こそうにも体が鉛のように重いし気怠い。


私は確か…ヒグマと闘った杉元くんを……


『!!杉元、くん…!』


周りを見渡したが彼の姿どころか明らかにあの空き家ではないし、アシリパちゃんや白石さん、キロランケさんも居ない。


「あら、目が覚めました?」


するとすぐ横から鈴の音のような可愛らしい声が聞こえそちらに目を向けた。



『……は』


「お久しぶりですね、なまえさんだったかしら」


そこには札幌で宿泊した札幌世界ホテルの女将さん、家永さんが同じく布団に横たわっていた。



『い、家永さん…?生きてたの…?』


「あら覚えて下さってたんですね。まだ万全ではありませんが、何とか生きながらえました」


家永さんは負傷しているようで頭や腕に包帯を巻いている。彼女…で良いのだろうか、彼女の話によるとあのあと牛山さんによって助け出されたようだ。

牛山さん生きてたんだ、アシリパちゃん悲しんでたから喜ぶな。

そこでハッとする。


『あの、私なんでここに…?連れと一緒に居たはずなんですが…、というかここは何処?』


「私も寝てましたから詳しくは分からないんです…。3日前にうちの用心棒さんが貴女のことを連れてきたんです。この家の前に1人で倒れていたそうよ?」


『みっ…』


3日前!?用心棒!?


情報処理が追いつかず寝転んだまま頭を抱えていると、部屋の襖が前触れもなく突然スッと引かれた。


「よぉ、サボり女。またおサボりか?」


『え…』


ノックも無しに入ってきたその人はズカズカと私の布団まで近付きドカッと傍に胡座をかいて座った。

座った拍子に顔に垂れてきた髪が邪魔なのかそれを掻き上げ後ろに撫で付けた。

サイドは所謂ツーブロックに刈り上げられていて両頬の縫合痕が痛々しい。


「以前とは立場が逆ですなぁ。なまえ先生?」


『お…尾形、さん?』


その人は私が探していた尾形さんだった。

驚愕する私の顔が面白いのか満足そうに笑っている。


『は…?ちょっと、意味わかんない、どういうこと?』


「あ?それはこっちが聞きてぇ。てめぇサボりにしては遠出し過ぎじゃねぇか?こんな所でなにやってんだ」


『サボりじゃない…、尾形さんだって急に抜け出して何やってるんですか。捜索隊出すって言ってましたよ…』


そう言うと尾形さんは「あぁ、遭遇した」と後頭部を掻きながら呟いた。

「俺は造反を企てて脱走した、二階堂浩平は軍に戻されたがな」

『!やっぱ浩平くんも一緒だったんだ、無事なんですか?』

「さぁな、知らん。次はお前だなまえ。サボりじゃないってどういう事だ、こんな所で何してる?」


しばしの沈黙。

家永さんはいつの間にか眠りについていて、彼女の寝息だけが聞こえる。


『尾形さんがいなくなったって聞いて、いても立ってもいられなくなって…軍を飛び出して来ました』

「は?」

尾形さんは一瞬驚いた表情を見せたけど、酷く面倒くさそうに「はぁ」とため息をついた。

「てめぇはバカか?」

『うっ…だって、尾形さんが完治する日を楽しみにしてたんですよ。それなのに急にいなくなるから…』

確かにそれだけの理由で軍を脱走するなんて馬鹿と言われても仕方がないと思う。

だけど過ぎたことはもうどうしようもないのだ。


「元から馬鹿だとは思っていたが…まぁいい。どうしてここが分かった?ここまでどうやって来た?」


『それが…分からなくて。私仲間と一緒に日高にいたんです。そこで個性を使って…そこからの記憶がなくて気付いたらここで寝てました。』

「仲間?」

「師団から誰か連れてきたのか?」と尾形さんに問われ、正直に言っていいのか迷う。

尾形さんは杉元くんを良くは思ってないだろうし。

『………えーっと、いいじゃないですか、尾形さんには関係ないことです』

「ほぉ?」

尾形さんは肩から銃を下ろし銃口を私の額に付けた。

『ひっ!』

「仲間って誰だ?言わねぇならこのまま頭ぶち抜くぞ」

『言います!言いますから!それ退けて!!』


銃口はあっさりと離され、フゥと息をつき尾形さんを見上げる。


『杉元くん…不死身の杉元くんです』

「!…なるほど、お前がアイヌの服を着ているのもそういう事か」

「杉元はアイヌの子供と一緒だったからな」と尾形さんは1人納得したように頷いていた。

「個性を使ったって事はあいつも事情を知っているのか。随分心を許しているんだな」

尾形さんはお得意の嫌味な笑みを浮かべている。

前髪を掻き上げるのは癖なのか、また髪を後ろに撫で付けている。

しかしまぁ元々顔は良いけど、包帯が取れるだけでこんなにも色気が増すものだろうか。そしてツーブロックが良く似合うこと。

痛々しい縫合痕ですら色っぽく見える。

口元を隠すように布団を引き上げ顔を観察していると「なんだ見惚れたか?」と尾形さんは楽しそうに笑っている。

くそ、なんか悔しい。


『心を許すというか、仲間だし…』


顔を布団から出してそう返すも尾形さんはさほど興味がないのかそれ以上は突っ込んではこなかった。


しかし何でまたあの状況からこんな所に来たんだろう。

私がこの時代にトリップした時みたいに時空を超えた?時空どころか場所も変わってるけど。

杉元くん達大丈夫かなぁ。今どこにいるんだろう。

あ、そう言えば。


『尾形さん、ちょっと顔貸してください』

「断る。何する気だ」

『大丈夫です。ちょっとビンタするだけですから』

「大丈夫じゃねぇ、やってみろ殺すぞ」

『私決めてたんです、第七師団を抜ける時尾形さんを見つけたらまずビンタしようって』

手を伸ばしたが寝転んだままで当然届くわけもなく「やめろ」と手首を掴まれた。

『だって酷いじゃないですか。何も言わずにいなくなるなんて』

「…お前には世話になったが、かと言って話す義理はねぇ」

『私言いましたよね、助けた人はそばで見守りたいって』

尾形さんは「そりゃお前の願望だろ、俺は他人に従うつもりはないね」と言って掴んでいた手を離し布団の上に戻した。

「どうしてもしたいならやってみろ。まぁできたらの話だがな」

「それと」と言って尾形さんは私の頭に手をやると髪をぐちゃぐちゃに撫ぜ回した。

『ちょ、何するんですか!』

「お前、以前俺に言っただろ。病人は安静にしてろ、だったか?その言葉そっくりそのまま返してやるよ」

『わ、私別に病人なんかじゃ…』

そう言い返すと尾形さんは「3日間も眠り続けてよく言うぜ」と鼻で笑った。

「言うこと聞けねぇなら、お前の好きな接吻を気絶するまでしてやっても良いんだが?」


『ひぇ』と声を漏らすと「ははぁ、冗談だ」と言って尾形さんは立ち上がった。


「自力で立ち上がれるようになったら俺と一緒に来てもらう。つべこべ言わず今は寝てろ」


そう言って尾形さんは部屋を出て行った。


来てもらうってどこに?そもそもここはどこ?家永さんは尾形さんを用心棒って言ってたけどどう言うこと?

アシリパちゃん大丈夫かな?


杉元くん達と再会するのは当分先になりそうだな。


疑問は山ほどあったけど、ひとまず言われた通り体を休めようと目を閉じた。






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漸く尾形さん登場。