#21



「なまえだったか、もう体は平気なのか」


『あ!牛山さんお久しぶりです!もうだいぶよくなりました』



尾形さんと感動のと言って良いのか微妙だが再会を果たしてから数日。


さすがにずっと寝ているわけにもいかないし、尾形さんはここの用心棒だと言っていたから家主がいるはずだ。


身を置いてもらっておきながら挨拶をしないのはよろしくない。


そう思って布団をたたみ部屋の隅に片付けてから部屋を出たところで牛山さんと遭遇した。


牛山さんは以前にあった時のようなスーツではなく柔道着を着ていた。


うん、こっちの服装の方が似合ってる。


「この家の前に倒れてるのを尾形が拾ってきたときは驚いた。ここに来る前の記憶が無いんだってな」


どうやらここに来た経緯は部分的な記憶喪失ということでまとまっているみたいだ。尾形さんがそう説明したんだろう。私自身なぜここに来てしまったのかわからなかったから間違いじゃないし、その方がありがたい。


『ご心配おかけしました、何日間も寝たままで申し訳ないです。ここは牛山さんのお家なんですか?』


「いや、俺のじゃねぇ。あのジイさん、なまえが動けるようになるまで待つと言っていたからこれから会いに行くか」


『はい、ぜひ』






牛山さんに案内された部屋に『失礼します』と入ると、まず目に入ったのは畳の上で足を広げて座る尾形さん。

尾形さんはこちらに顔を上げると「漸く起きたかなまえ先生」と、寝てろと言ったのは自分のくせに馬鹿にするような笑みを浮かべた。

するとあとから入ってきた牛山さんが「こら尾形、なまえを拾ってきた時一番焦ってたのお前だろ。バラすぞ」と言い、尾形さんは「チッ」と舌打ちをして「牛山、余計なこと言ってんじゃねぇよ。バラす前にもう言ってんだろうが」と悪態をついた。

「お前らヤメロ。お嬢さんが困ってるだろ」

尾形さんの意外すぎる一面を見た気がして内心ニヤついていると、尾形さんのそばに座っていたご年配のお爺さんがお茶を啜りながら呟いた。


そのお爺さんの奥では私が寝ていた部屋に一緒にいた家永さんが布団に座っている。


ふと尾形さんの背後に目を向けると縁側がありそこで椅子に座りながら新聞を読むこれまたご年配のお爺さん。


牛山さんはジイさんと言っていたからどちらかのお爺さんがここの家主なんだろう。


『あの、長い事お部屋をお借りさせて頂き本当にありがとうございます。私はみょうじなまえと申します』


頭を下げると奥の縁側の方から「顔を上げなさい」と声が聞こえ、顔を上げると立派な髭をしたイケオジがこちらを見ていた。


「だいたいのことは尾形から聞いている。私は土方、そこにいるのが永倉だ」


土方さんと永倉さんってなんだか聞いたことのある名前だなと思ったけど、珍しい苗字でもないかとそれ以上気にしなかった。


「土方さん、永倉さんよろしくお願いします。あの何かお礼をしたいんですが…」


一宿どころじゃないけど恩義は返さなくてはと、恐らく家主であろう土方さんに問った所「気にするな…と言いたいところだが」とこちらを見据えた。


何か力を持つようなその目に見つめられると強い迫力を感じていると気付いたのかそうでもないのか、尾形さんに「突っ立ってないで座れ」と手を引かれ彼の隣に座らされた。


「尾形や牛山の話によると君も入れ墨や金塊についての知識があるようだが、あっているか?」


『…はい、あまり詳しくはないですけど…』

いきなり入れ墨のことを言われ内心どきりとしたがここで嘘を言っても尾形さんも牛山さんも私が杉元くん達と行動いていたのを知っているし正直に頷いた。

第七師団にいた頃、尾形さんに入れ墨について聞いた時彼はよく知らないと言っていた。

他の方に聞いた時もはぐらかされたりしてしまいには鶴見中尉に危険視されると脅された。

第七師団、というか鶴見中尉も金塊を探していたんだ。


「そうか、では話が早い。我々も刺青人皮を探しているのだ、力を貸してもらおうか」


「何やら不思議な力を使うと尾形から聞いている」と土方さんに言われ、喋ったなと尾形さんを見ると顔を逸らされた。


『…わかりました。私も共に行動している者達がいましたが、今どこにいるのか何故ここにたどり着いたのか断片的に記憶が抜けているので1人で動きようがありません。出来ることは協力します』


「では尾形と共に行動すると良い」


『え、尾形さんとですか?』と尾形さんを見ると「なんだ不服か、そこはよろしくお願いしますだろうが」と尾形さんに凄まれた。もうただのチンピラだ。


しかしこの中では気を許せる尾形さんと一緒で少し安心したのは事実で『不服じゃないですよ。よろしくお願いします』と笑うと尾形さんは一拍置いてフンと鼻を鳴らし前髪を後ろに撫で付けた。









「なまえ」


ありがたいことにこの家にはお風呂があり久々に温かいお湯で全身温まり部屋に戻って少ない荷物の整理をしていると突然襖が開いてそこには尾形さんが立っていた。


『びっくりした、尾形さん入る時くらいノックしてくださいよ、着替え中だったらどうするんですか』

「あ?テメェの裸見たところでなんとも思わねぇよ阿婆擦れ」

『え?ひどくない?』

尾形さんは私の言葉をスルーして部屋に入ると私の目の前に座りじっ…とこちらを見つめてきた。


『え…何、怖いんですけど…』

「お前…個性を使ってから記憶が無いと言っていたが、その力を使う度に気を失うのか?」

『え、そんなことはないですよ。ただ自分の体力を削って治癒するので使いすぎるとぶっ倒れます』

ちなみに尾形さんを助けた時は体温を分け与えただけだったから気絶はしなかった。

杉元くんの場合は血を止めたからなぁ…そりゃ貧血で倒れるよねと、やりすぎはやめようと反省した。


『気絶する前に杉元くんの治癒をしたんですよ、ヒグマに顔面引っ掻かれて血だらけで…それで私も焦ってしまって慌てて治癒したらこの様です』


「……」


『無傷な私が気絶するなんてまさかのですよね〜』


「……」


『ほんと、足引っ張って……』


「………」








待って、なんでこの人何も言わないの?


でも視線はバッチリこっちに向いている。怖ァ…


「おい」


『ひぇ』


「杉元にも口付けたのか?」


『えっ?』


何を聞かれるかと思えばそんなことか。


『しましたよ。あと他の仲間にも…』


「治癒に関しては役に立てて良かったです」そう言った所でふっと前に影がかかり顔を上げるとすぐ目の前に尾形さんの顔があった。



同時に唇に柔らかいけど少しカサついた感触……





??!!





唇は直ぐに離され尾形さんは何事もなかったかのように自分の前髪を撫で付けた。


『何、どうしたんですか?』


「……もうちょっと色気のある事言えねぇのかテメェは」



尾形さんは「俺と行動を共にするって事はお前は俺の駒だ、いつでもその力使えるように体力温存しておけ」と言って立ち上がり部屋を出ていった。



『お前の力は俺の物ってこと?ジャ○アンじゃん』


駒って言い方に少しだけチクリとしたけど、尾形さんに逆らって頭を撃ち抜かれるのもゴメンだ。


にしても話の流れからして、恐らく私が杉元くん達に個性を使ったのがお気に召さなかったのか、そんな風にも見えた。



『意外と可愛らしい所あるんじゃん、百之助ちゃん』


本人に聞かれたら確実に殺されそうだから心の中だけに留めておくことにした。