#22
場所は夕張。
たしかに協力するとは言った。
だけど…
建物の影からひょこっと顔を出して様子を伺う。
そこには軍服の兵隊さん達。その肩章番号は【27】番。
『第七師団の、しかも鶴見さんの所の隊だ…』
夜が明けて夕張に向けて出発した私たち。
尾形さんと牛山さんも一緒にいたけど夕張に着くなり「でかい図体は目立つ」と早々に尾形さんの単独行動に巻き込まれ、さらにそのあと尾形さんともはぐれてしまった。
『全部尾形さんのせいだ…』
そして夕張に来た理由、それはこの町に有名な剥製職人がいるらしくそこが少しキナ臭いとのこと。
キナ臭いって言っても憶測に過ぎないみたいだけど、いくつかの目撃情報があげられているらしい。
それは夜な夜な墓場で彷徨く剥製職人の噂。
夜中の墓場でなにをしているんだろう、運動会?罰当たりにも程がある。
で、そんな有名人ならば町の人に聞けば家の場所くらいわかるだろうと思い聞き込みをしようと思ったら第七師団を見かけ、今に至る。
『どうしよう…名前知らないけどあの人見たことある…』
ひとまずここは危険すぎるか…。とりあえず尾形さんか牛山さんを探そう…。
そう思って振り向いた瞬間、白熊が横を通り過ぎて行った。うんうん、天気も良いし白熊も走りたくなるよね〜。
『は?』
白熊?が走り去った方を見るももうその姿はない。
「おいなまえ!こんなところでなにしてやがる!」
『尾形さん!』
すると白熊が走ってきたのと同じ方向から尾形さんが走ってきた。
『さっき白熊が…!』
「やはりこっちに来たか、あの中身は人間だ。剥製職人、やはり鶴見中尉と繋がってやがった、おうぞ」
『人間!?』と聞き返すも尾形さんは「詳しくはあとだ、急ぐぞ」とだけ言って走り出し私もそれについていく。
途中目撃情報を聞きながらたどり着いたのは炭鉱場。トロッコの線路のそばに白熊がいた。
尾形さんは肩から拳銃を下ろし構えながら彼に近付いた。
「江渡貝くーん」
その声に江渡貝と呼ばれた白熊はこちらに振り返った。よく見ると白熊の頭はなくなり人間の頭が覗いている。あれは剥製だったんだ。
江渡貝くんは想像と違って割とイケメンな青年だった。職人っていうからもっとおじさんかと思っていた。
「鶴見中尉という死神に関わったのが運の尽きだったな」
「っ…」
江渡貝くんは銃を向ける尾形さんに覚悟を決めたような表情を浮かべたけど、突如聞こえたゴォォォという音と共にトロッコが走ってきて、あろう事か江渡貝くんをトロッコに引っ張り上げそのまま逃走した。
トロッコが走り去る瞬間、引っ張り上げた人物と目が合い、お互いに目を見開いた。
『つ、月島さん…!?』
「なまえさん!?」
トロッコはそのまま走り去ってしまった。
「なまえ、ぼさっとするな。俺たちもあとを追うぞ」
『えっ…ぁ、はい!』
私たちも急いでトロッコに乗り込みあとを追った。
すると前方に月島さん達ではないトロッコがもう一台走っているのが見えた。それは見覚えのある後ろ姿で…。
『杉元くんと白石さん…!?ングッ?!』
そう叫んだ瞬間尾形さんの手により口元を塞がれ「坑道の中は声が響く、ここで杉元に存在を気付かれるのも面倒だから黙っとけ」と言われこくこくと頷いた。
「江渡貝くんは腕のある剥製職人だ。お前とはぐれた後工房に行ったが、動物だけでなく人間の剥製も沢山あった。恐らく鶴見中尉は入れ墨の偽物を彼に作らせてこの金塊争奪戦に大混乱を齎そうとしている」
『人間の剥製って…趣味悪すぎません?』
偽物なんてそう簡単に作れるものだろうか?と疑問も浮かんだけれど江渡貝くんは腕のある剥製職人。偽物を作ることなんて朝飯前だろう。
尾形さんによると偽物の刺青人皮が入っているであろう鞄を江渡貝くんが抱えているのを見たという。
このまま鶴見さんの手にその偽物が渡って仕舞えば全て鶴見さんの思い通りだ。
奪い返さないと…と前方に目を向ける。
前方からはトロッコがぶつかり合う音や叫び声が聞こえるあたり杉元くんたちと月島さんたちがやりあっているんだろう。
すると突如坑道が二股に別れ杉元くんたちと月島さんたちは別々の道に入っていくのが見えた。
尾形さんは線路の分岐器のレバーに照準を合わせて発砲した。弾は見事レバーにあたり線路が切り替えられる。
『おぉ〜』と拍手をすると、「これくらいできて当然だ」と前髪をかき上げたけどその表情は満更でもない表情を浮かべていた。
トロッコは月島さんたちの後を追って坑道を進んでいく。
前方の月島さんたちはこちらに気付いて何かを言っていたけど車輪の音でよく聞こえない。
すると坑道の脇で作業をしていた炭坑夫さんが大声で叫んだ。
「止まれ!マイトに火を着けた!発破に巻き込まれるぞ!!」
「『!?』」
『マイトってまさかダイナマイト!?』
「いかん!」
尾形さんは銃の床尾を車輪とレールの間に当てトロッコの速度を落とす。
トロッコの車輪はギャギャギャ!!とひどい音を上げ減速した。
『くっ…重…っ』
トロッコから降りて2人でトロッコを押すも中々動かず苦戦した。
すると嫌な匂いが鼻をついた。尾形さんも気付いたようで鼻をクンクンと動かしている。
『なにこの匂い…金属が焼ける匂い』
すると突然坑道の奥から突風が吹き荒れ同時に匂いもキツくなる。炭坑夫さんが何か叫んだ瞬間、ものすごい轟音と共に坑道が爆発した。
『っっ!!?』
物凄い爆風に簡単に体は吹き飛ばされ地面に転がった。
『ゴホッ…いったぁ…』
「なまえ!無事か!」
『私はなんとか…尾形さんは』
「こっちも問題は無い」
尾形さんは私の手を掴むと離れないように自分の方に引き寄せた。
すると次の瞬間、坑道の中に突風が吹き荒れた。
『きゃぁああ!』
「なんだ、この風は…!」
炭坑夫さんが「もどし」だと叫んでいる。さらにでかい爆発が来るかもしれないから早く逃げろと言った。
『っ…苦しい…』
酸素が薄く呼吸が荒くなる。尾形さんも同じで呼吸を荒らしながら炭坑内を進んでいく。
「出口がわからん…まずいぞ」
「おおい!兄ちゃんと姉ちゃん!出口はそっちじゃねえ!通風口がこっちにあるからついて来い!」
炭坑内を彷徨っていると炭坑夫さんが通風口まで案内してくれてなんとか外に出ることができた。
出た瞬間新鮮な空気を取り込むために思い切り深呼吸を繰り返す。
『し、死ぬかとおもった…尾形さん、大丈夫ですか?』
「あぁ…」
問題ないと言いながらも尾形さんは座り込んだまま荒い呼吸を繰り返している。
私は尾形さんのそばに寄ると煤で汚れた頬に左手を添えて唇にキスをした。
尾形さんは驚きもせず大人しく目を閉じた。
個性を使い唇を離せば荒かった呼吸も落ち着いていた。
「…お前またぶっ倒れるぞ」
『問題ないですよ。それと手、ずっと握ってくれててありがとうございます』
私の右手は痛いくらいに尾形さんに握られたままだった。
尾形さんは無意識だったのか手を見下ろすと「別に」と言ってその手をパッと離し爆発で乱れた髪を整えている。
その様子が面白くて思わず噴き出せば「なに笑ってんだ阿婆擦れ」と毒を吐かれた。