#23
「この騒ぎで牛山たちもそばに来ているかもしれん、いくぞ」
『そうだ牛山さんたちとはぐれたままでしたね。というかそもそも尾形さんが勝手に単独行動するからですよ、勝手にいなくならないでください』
「あ?そっくりそのまま返してやるよ、まさかなまえ先生が迷子になるとは思いませんでしたからなぁ」
『バカにしてるでしょ』
「よくわかったな、褒めてやるよ」
尾形さんと言い合いをしながら人だかりの方へ行くと「おーい」とこちらに手をあげる人物が目に入った。牛山さんだ。
『牛山さん!』
「なまえまでこの爆発に巻き込まれてたのか、大丈夫か?」
『はい、何とか脱出しました。』
牛山さんはよかったよかったと私の頭にポンポンと手を乗せる。なんだろうお父さんみたいだ。
「えっ?!なまえちゃん!?」
『え?』
呼ばれた方に目を向ければそこには杉元くんと白石さん、そしてキロランケさんにアシリパちゃんがいた。全員目を見開いている。
「みょうじ!」
『アシリパちゃん!』
走ってきたアシリパちゃんを抱きとめる。煤がついて汚れるかもしれないなんて考える暇はなかった。
「お前、どこに行ってたんだ!心配したんだぞ!」
『ご、ごめんなさい…私にもよくわからなくて…』
アシリパちゃんの顔を覗き込むと涙目になっている。泣かせてしまったという罪悪感と再会できた感動に再び抱きしめていると「なまえさん」と杉元くんが近付いてきた。
『杉元くん…』
見上げたその表情は怒っているような安堵したような複雑な表情だった。
『杉元くん、顔の傷治ったんだね。さすが不死身…』
「なまえさん俺怒ってるからね」
ヒグマに引っ掻かれたはずの顔面は元々付いていた傷だけになっていてうっすらと瘡蓋のような物ができている程度にまで回復していた。
その顔に触れようと手を伸ばしたところで杉元くんにその手を握られる。
「なまえちゃん、杉元に力使った後そのまま意識失っちゃって、そしたら突然消えちゃったんだよね」
『消えた?』
「そう、跡形もなく。だから俺たちなまえちゃんが元の場所に帰っちゃったのかと思ってたんだ」
『元々力を使い過ぎると気絶しちゃうのはわかってたんだけど、杉元くんの姿見て焦って力使いすぎちゃったんだ、心配かけてごめんね』
とたん杉元くんは泣きそうな顔になって私に抱きついたままのアシリパちゃんもろとも抱きしめてきた。
「もう二度とあんな無茶な力の使い方しないでくれ!」
「そうだよ!それになまえちゃんいないと寂しいからね〜」
「事情は杉元達から聞いた。大変だったなぁなまえ」
白石さんとキロランケさんもそばに寄ってきてまるで犬にするかのように頭をわしゃわしゃと撫で回される。
『うん、ありがとう、みんな』
鼻の奥がツンとしてズズッと鼻を啜った。
「で、なまえさんはどこにいたんだ?」
いまだに私を抱きしめたままの杉元くんはそういえばとこちらに顔を向ける。
『実は私も気が付いたら保護されてて、杉元くんに個性を使ってから目覚めるまでの記憶がないんですよねぇ』
「保護って誰に?牛山?」と聞いてくる杉元くんに言っても良いものなのだろうかと悩んでいると、突然後ろから服の首根っこを掴まれそのまま引っ張られた。
『ぐぇっ』
「ははぁ、色気もクソもねぇ声だなぁ」
引っ張った犯人は尾形さん。
それを見た杉元くん達は驚いている。
「お前…たしか鶴見中尉のとこの…生きてたのか、なんで牛山やなまえさんと…」
尾形さんは杉元の方を見ると「はぁ」と息をついて「しょうがねぇ、牛山そいつら連れてついて来い」と言い歩き始めた。
再び尾形さんに手を握られ『もうはぐれませんよ?杉元くん達もいるし…』と言うと尾形さんはチラッとこっちに目を向けて「うるせぇ」と言って握る手に力を込めた。
えぇ…と困惑しながらも、大人しく尾形さんについて行くとそこは町の外れに位置する一件の家だった。玄関前の柱には【江渡貝剥製場】と表札がかかっている。どうやらここが噂の剥製工場のようだ。
『ひっ』
中に入りリビングのような部屋に入るとそこには上半身の皮を剥がれた人間の剥製が6体座っていた。
その異様な光景に思わず声を引きつらせた。
「偽物の刺青人皮はおそらくこの6体の剥製を利用して作られた」
尾形さんは剥製のそばに行くと手を広げてそう話した。
「なんてこった…気色の悪い」
『あ!その…江渡貝くんと月島さんは、どうなったんですか?』
そう言えば彼らも爆発に巻き込まれているはずだ。でも家主であるはずの彼は家にいない。
「剥製家の坊やは死んでいるのを確認した。なまえも一緒にいる時だったが瓦礫の下敷きになっていた。月島軍曹は屈強な兵士だ、坑道からヤツの死体が出なければ偽物が出回るのを想定しなければなるまい」
そうだったんだ…あの時酸素が薄くてただ逃げることしか考えていなかったから気付かなかった。
月島さん、今は敵になるけど、お世話になったのは事実だから無事でいて欲しいけど、偽物が出回るのは宜しくない。
「牛山、ジジイは呼んだか」
「もう来る」
「待たせたな」
『あ…』
声と共に頭に手を置かれ顔を上げるとそこには
「なまえ、煤だらけだなあとで銭湯に行ってくると良い」
『土方さん!』
そこには土方さんがいた。その手には刺青人皮。
「贋作か本物か、この忘れ物がどちらなのか判別する方法を探さなくては」
その手に持った刺青人皮は本物なのか偽物なのかわからない程成功に作られていた。何故か服のようになっているのがちょっと怖い。
「爺さんどこかで会ったか?見覚えがあるな」
杉元くんは土方さんにそう尋ねる。すると白石さんが咄嗟に間に入る、その表情は焦っている。
「会ったことあるわけないだろ、こいつは土方歳三だぞ」
『歳三…』
土方さんのしたのなまえはじめて聞いたんだけど、土方歳三ってあの新撰組の土方歳三!?
この時代にまだ生きてたの…?じゃあもしかして永倉さんってあの永倉新八?
「久しぶりだな白石由竹。お友達を紹介してくれんのか?」
どうやら白石さんや杉元くんは以前土方さんに会ったことがあるようだ。さらに土方さんはのっぺらぼうと関わりがあったそうでのっぺらぼうも土方さんにだけ伝えた情報があるようだ。
土方さんはアシリパちゃんの和名を知っていて、その名前はアシリパちゃんの家族しか知らないものらしい。
やはりのっぺらぼうってアシリパちゃんのお父さんでアシリパちゃんのことを土方さんに話したんだろうか…
「アンタとのっぺらぼうはある程度目的が一致しているのか、アイヌの埋蔵金を手に入れてもう一度蝦夷共和国でも作ろうってのか?土方歳三さん」
杉元くんは土方さんを睨みつける。杉元くんに落ち着いてと声をかけようとするも「大人しく下がってろ」と尾形さんに止められた。
「っ…私の父は…!!」
それまで黙っていたアシリパちゃんがそう発言した途端、土方さんはそれを遮るように腰に携えた刀を抜こうと構えた。
「手を組むか、ここで殺し合うか…選べ」
「ギュルルルルル」
「刺青人皮を持っているなら我々が買い取ろう。刺青を売った金で故郷に帰り嫁さんをもらって静かに暮らす道もあるが若いものには退屈に聞こえるかね?」
土方さんの背後から現れたのは永倉さん。その提案に杉元くんは黙っている。
杉元くんの目的は東京にいる親友さんの奥さんの目を治すこと。そのためにはそれ以上の多額のお金が必要だ。
それに…今は他にも目的がある。
「ゴロロ…ギュルルルル」
「のっぺらぼうに会いに行って確かめたいことがある。それまでは金塊が見つかってもらっちゃ困る」
杉元くんはアシリパちゃんを見下ろし「そうだろ?」と笑った。
アシリパちゃんは杉元くんを見上げ「グギュルルルルルル」
『ねぇさっきからなんの音?!』
アシリパちゃんを見るとお腹を押さえている。お腹が痛いのかと思ったけれど、どうやらそうではなくお腹が空いたようだ。
『アシリパちゃん…かわいい!好き!!ご飯食べよう!!』
「みょうじ!お前も腹が減ったのか?」
思わずアシリパちゃんを抱きしめた。
話を端折ってしまったところにひょこっと扉から顔を覗かせた人が1人。家永さんだ。
「お話の続きは食事をしながらどうですか?私が作ります」
家永さんはすっかり元気になって元の美しさを取り戻していた。杉元くん達は「家永生きてた!」と家永さんが生きていた事に驚いている。
『私も手伝いますよ家永さん』
「なまえさん?!全身煤だらけじゃないですか!貴女はまずその格好をどうにかしてきなさい」
「家永の言う通りだなまえ。これで銭湯に行ってきなさい、用心棒にほかの煤だらけの男どもも連れていくといい」
私と家永さんの話を聞いていた土方さんは懐からお金を出して私の手に握らせた。
『えっ…でも…』
「遠慮するな帰ってくる頃に食事もできているだろう」
そう言って土方さんは頭にポンと手を置いた。なんというかおじいちゃんに甘やかされているような感じだ。
まぁでも確かに食事をするのにこの格好は少し失礼かもしない。お言葉に甘えることにした。