#25
※モブ兵士が出てきます。
※ほんのちょっと暴力的シーンあり。
尾形さんにデコピンされた後を触ると微かに熱を持っていた。
軍人のデコピンとか笑えないんですけど!!
「片付け終わったなら手掛かり探すからお前も手伝え」
『はい、誰かさんがちょっかい出して来なければもう少し早く終わってましたけどね』
嫌味を含めて言うと「俺は指先の力を使ったけどな」と前髪を掻き上げながら笑われた。誰もデコピンしてくれって頼んでませんけど!?
反論しようとしたところで土方さんに呼ばれる声が聞こえて渋々そっちに向かう事にした。よくわからないけど尾形さんは満足したような顔をしている。
クソ、いつかキャンって言わせてやる。
「牛山たちはまだ戻らないが、コチラはコチラで手掛かりを探す。人間剥製に残された皮と贋物の刺青人皮には共通点があるはずだ」
土方さんに案内された部屋に入ると、ここに来たときに最初に尾形さんが見せてきた贋物に使われた人間の剥製達と動物の剥製たち。
人間の剥製だけを見るとただの変人だけど、動物の剥製はどれも現代の博物館に展示されていても可笑しくないような剥製ばかりで、その腕は確かなんだろうと改めて思った。
炭坑で江渡貝くんと会ったとき、尾形さんが「鶴見中尉という死神」と言っていたけど、もし彼が鶴見さんに見つかることなくずっと生き続けたら、歴史に名を刻む人になってたのかもしれない。
ふと誰かに見られている気がして顔を上げるとそこには不気味な剥製人形。額には…これはお茶碗?目元は火傷の後のように爛れている。物凄い既視感。だけど目がギョロっとしていてなんとも気持ち悪い。そのモデルが鶴見さんだと気付いて、やはり彼は変人だとそう思った。それにしてもお茶碗ってひどいな。
ガシャン!!!!!
『!?何…?』
剥製を見ていると突然ガラスが割れる音がして、それと同時に尾形さんが「あ?!クソッやられた…!」と声を上げた。投げ込まれたのは火炎瓶で剥製達は一気に火の海に包まれた。
『な、何事…!?』
「わ、わたし表の様子を見てきます!」
『えっ?!危ないですよ!?』
そう言って玄関に向かおうとする家永さんを止めると「家永ッ外に出るな!撃たれるぞ!なまえも扉から離れろ!」と尾形さんが声を荒げた。
尾形さんは肩から銃を下ろすといつでも撃てるように準備をする。
「いま外にチラッと軍服が見えた。数名に囲まれている可能性が高い」
軍服と聞いてドキッとする。このタイミングで襲撃してくるなんて第七師団に違いない。
「贋物製造に繋がる証拠を隠滅しにきたか」
『でも、ということは…月島さんは』
「…鶴見中尉の手下が証拠を消しにきたということは、月島軍曹が生きて炭坑を脱出したということか」
「だろうな。この家は窓に鉄格子がある。外の連中も突入するなら玄関以外ないだろう。奴らを玄関まで追い込む。なまえと家永は隠れてろ」
『は、はい!』
そう言って尾形さんは2階に続く階段を駆け上がって行った。すぐにガラスが割れる音と銃撃の音が聞こえてきた。
「なまえさん、私たちは煙から遠いところにいましょう!」
『そうですね…!』
2階に上がった尾形さん、1階の玄関裏で待機する土方さん、2人が心配だったけど余計なことを考えるのはやめた。
尾形さんは腕の立つ狙撃手で土方さんはあの鬼の副長だ。
バァアアン
すると玄関が破られる音がした。
「いけいけ!」
「2階だ!2階の狙撃兵を倒せ!」
何人いるかはわからないけどそんなに多くはなさそうだ。外の見張りを多めに配置しているのかもしれない。
すると耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
「みょうじなまえもこの中にいるはずだ!」
えっ、私!?
そこで炭坑で月島さんと目があってしかも相手に気付かれた事を思い出した。
恐らく月島さんが鶴見さんに報告したんだろう。これは、家永さんのそばにいるのは彼女を危険の巻き添えにしてしまうかもしれない。
『ッ…家永さん!私あっちに行きます!』
「えっ?!なまえさん!?」
「あっちってどっち!?」と後ろから声が聞こえたけどとにかく彼女から離れよう。
2階は尾形さんの邪魔になるし玄関側は土方さんがいる。
となれば、と私は台所へ逃げ込んだ。
部屋の隅に座り込んで出来るだけ体を小さくする。
『ほんとこういう時戦闘向けの個性だったらな…』
今年はヒーロー科1年の成長が華々しいって消太が言ってたな。私も氷を操ったり爆破させたりしたかった。
余計な考え事をしていて注意力が欠けていたのかもしれない。
体操座りで視線を下に向けているとふと人の気配を感じ顔をあげた途端、体が吹っ飛んだ。
『いッッッ!?』
思い切り蹴り飛ばされた痛みと、突然のことで受け身も取れず床に体を打ち受けた。幸い頭は打たなかったけど体に激痛が走る。
痛みを我慢しながら顔を上げるとそこには1人の兵士。その顔には見覚えがあった。
「なまえ先生、みーつけた」
『ッ…
彼、紙屋さんは第七師団の一等卒で、何度か話をしたことがある。二階堂くん兄弟と仲がよくてよく一緒にほけんしつに遊びに来ていた。
顔は整っていて笑うとその爽やかさを際立てていた。
「尾形上等兵殿が消えたと思ったら次は貴女とは…、ボク寂しかったんですよ?」
紙屋さんはニコリと笑っているけどその目は笑っていない。何を考えているのか読み取れずただただゾッとした。
『ッ…私はもう第七師団じゃないんです…!』
「ははっ、なまえ先生は面白い事を言うなぁ。それを決める権利は貴女には無いんですよ?」
そう言って紙屋さんは私の髪を掴み上げそのまま持ち上げた。痛いと悲鳴を上げたが相手は軍人、もがいてもびくともしない。
『いたっ…やだ、離して!』
「その顔いいですね、でもそれは出来ない。鶴見中尉殿の命令なので貴女を連れて帰ります。本当は中尉殿を裏切った貴女を殺してやりたい程憎んでいます、ですが貴女は中尉殿のモノだ。それに貴女に拒否権は存在しない」
「でも暴れるなら足の1本や2本使い物にならなくしてもいいのかなぁ?」と髪を掴んだまま銃剣を抜く紙屋さん。「ボクが連れて帰れば鶴見中尉殿に褒めてもらえるだろうか」と恍惚な表情を浮かべる紙屋さんは狂気に満ちていた。
「じゃ、ちょっと痛いけど騒がないでくださいね?」
そう言って紙屋さんは私の足に銃剣の刃を当てた。
『やめっ…!!!』
刃が足に当たり皮膚に食い込むのを感じ、ギュッと目を閉じた瞬間、パァァン!という銃声と紙屋さんの短い悲鳴が聞こえ同時に髪を掴んでいた手が離され、そのまま床に倒れ込んだ。
『いっ…』
「おい!テメェここで何してんだ!」
痛みに顔を顰めたが声に目を開けるとそこには少し焦った表情の尾形さんがいた。
『お、おが…たさ…』
絞り出した声は自分でも驚くぐらい震えていた。尾形さんはチッと舌打ちをすると「だから隠れてろと言っただろうが!」と言って掴まれてぐしゃぐしゃに乱れていた髪を乱暴に手で梳いて直してくれた。
『か、紙屋さんは…』
ちらりと床を見ると倒れ込みピクリとも動かない紙屋さん。
「この後に及んで敵の心配か?やはりお人好しだなお前は、頭をぶち抜いたから死んでる」
『ッ……』
「紙屋一等卒は鶴見中尉に強い忠誠心を持っていた。いずれ戦う事になるだろうと思っていたが、まさかその標的がお前になるとはな。鶴見中尉はなんとしてでもお前を取り戻したいようだな」
尾形さんは私の体を気遣いながら立たせてくれた。思い切り蹴られたけど幸い打撲程度で済んだみたいだ。
『ありがとうございま…』
気持ちも落ち着いてきて顔を上げてお礼を言うと、そこで初めて尾形さんの顔を見て驚愕する。
『ちょ、尾形さん血だらけじゃないですか!』
「あ?どうって事ねぇ」
口の中を切ったのか吐血してるし殴られたような痕もある。
「こんな傷、戦争中に負った傷に比べたら擦り傷だ。それより早くここから出るぞ、中に入ってきた連中は倒した、杉元達も戻ってきてる」
『わかりました、でも無理はしないでくださいね』
「そっくりそのまま返してやるよなまえ先生」
ははぁと馬鹿にしたように笑う尾形さんだったが、さりげなく手を握ってくれるあたり彼なりの優しさなんだろうと思い『ありがとうござます』と言うと怪訝そうな表情をされた。
冷たくなった紙屋さんにチラッとだけ目を向けて急ぎ足で工房を後にした。
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知らなくてもいいモブ兵士紹介
大日本帝国陸軍
第七師団歩兵27聯隊所属
階級:一等卒
好きなもの:鶴見中尉殿
嫌いなもの:鶴見中尉殿の敵
鶴見中尉殿に喜んでもらえるなら何でもする。