#26



尾形さんに手を引かれ外に脱出した。

他の兵士が追いかけてこないか確認してくると、尾形さんは私の手を離して工房の周りの様子を見に行った。

みんなの所へ戻ると此方に気付いた杉元くんがギョッと目を見開いた。


「!!なまえさん!?怪我してるじゃないか!」

『はは、ちょっと顔見知りにあってね…』

苦笑を浮かべると「無茶しないでね」と杉元くんは眉毛を下げた。

「今は火災で混乱しているけど、いずれ追いつかれるだろうな。この人数で逃げるのは目立ちすぎる。二手に分かれて逃げよう。それで月形の樺戸監獄で待ち合わせよう」

「贋物の判別方法が分からなければ直接のっぺらぼうに会いに行くしかないだろう」と杉元くんは言った。

『あの…杉元くん…』

引っかかることがあり杉元くんに声をかけると「どうしたんだい?なまえさん」と首を傾げた。

『さっき顔見知りと会ったって言ったけど、第七師団は贋物の証拠隠滅に来たのは間違い無いと思うんだけど、私の事も探してたんだよね…』

「なまえさんを?もしかして個性のことか?」

『多分…。鶴見さんを裏切った私を殺したいくらい憎んでるけど、鶴見さんの命令で連れ戻すみたいな事を言ってて、もしかしたら旅の足枷になってしまうかもしれないんだけど……うわっ』

ただでさえ目を付けられているのにそこに私までいたら迷惑をかけないだろうか?それが心配になって杉元くんに相談すると何も言わずに髪を乱暴に撫でられた。

「なまえさん、もしかして迷惑かけるからとか余計なこと考えてないか?」

『う…まぁ、そんな感じ…』

そう言うと杉元くんは「はぁ」と大きなため息をついた。

「仲間なんだからさ、その仲間が狙われてるなら俺はそれを全力で守るだけだよ」

『杉元くん…イケメンすぎるよ!!!!!』

感極まりそのまま杉元くんに飛び付くように抱き付いた。杉元くんは「えっ!ちょ…!?なまえさん!?」とテンパっている。私も守るよって言えるようになりたいわ。

すると突然背後から首根っこを掴まれた。『ぐぇ』と変な声が出た。


「おい、何やってんだ」

『尾形さん!今私はイケメン補給してるんだから邪魔しないで!』

「あ?訳の分からん事を言うな、そんで俺に指図すんな阿婆擦れ」

「おい尾形、なまえさんに悪口言ってんじゃねぇよ、その手離せ」

「ははぁ邪魔して悪かったな杉元、惚れた女ってのが泣くぜ?」

「あ゛?」


今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気に見兼ねた土方さんが止めてくれた。未だに来ない白石さん、キロランケさん、永倉さんを探して合流するようだ。

こうして土方さん組、杉元くん組で月形に向かう事になったわけだけれども。






「なんで尾形が一緒なんだよ」

「……」

「おいコラ!無視すんな!」

『牛山さん、この組み合わせは正解だったんでしょうか?』

「奇遇だななまえ、俺もそう思っていた」

先に月形に向かう杉元くんチームのメンバーは、杉元くん、アシリパちゃん、牛山さん、私、そして尾形さんだ。

たしかに銃を扱える人がいるだけで頼もしいけども、杉元くんと尾形さんは仲良くするってタイプでもないし…不安だ。

「私はみょうじと一緒でうれしいぞ!」

『アシリパちゃん!私もうれしいよ!』

長旅になるだろうし山に詳しいアシリパちゃんがいるのも頼もしい。

道中は人目につきにくいし目撃情報から追跡される可能性もあるからと山道を進んで行くこととなったし、ここからは野宿になるだろう。

『食料探さないとだねぇ〜、でもアシリパちゃんがいてくれるから頼もしいよ』

「アチャが色々教えてくれた。見ろみょうじ!早速いたぞ」

『え?何が?』

アシリパちゃんが手招きするから静かに近付くと少し離れた所に嘴の細長い小さな鳥がいた。

「あれは、ヤマシギだ」

『ヤマシギ…食べれるの?』

「脳みそがうまい」

『珍味じゃん』

「アシリパさんは本当に脳みそが好きだねぇ」

言い合い?を終えた杉元くんと尾形さんも近付いて来て草陰からヤマシギを観察する。

『どうやって捕るの?』

「銃で撃てばいいだろ」

そう言って尾形さんは銃を構えたけどそれをアシリパちゃんは「やめておけ尾形」と止めた。

「なんでだよ、食うんだろ?」

「一羽に当たったとしても他が逃げてしまう。ヤマシギは蛇行して飛ぶから銃で仕留めるのは難しいから私たちはその習性を利用して罠を張るんだ。複数捕れた方がいい。罠を張って明日まで待とう」

そう言ってアシリパちゃんは慣れた手つきで罠を張り出した。杉元くんと牛山さんもそれを手伝っている。「やめておけ」と言われた尾形さんは無言で銃を下ろし「フン」と前髪を掻き上げた。

尾形さんと何年も付き合いがあるわけではないけど、多分プライドが高い筈…何も起きないといいけどなぁ。

私も手伝おうとしたけど、工房でのこともあり休んでいろとそこらへんの岩に座らされた。

尾形さんは少しはなれた所で追手が来てないか双眼鏡で辺りを見張っている。


川も近いこともあり今日はこの場所で野宿をすることとなった。









「おい…」


ピチチ…と鳥の囀りが聞こえる。春の朝の寒さに体に掛けていた上着を被り直した。


「おい…なまえ起きろ」


『んぇ……尾形さん…?』


薄ら目を開け視線を上げるとそこには尾形さん。


「ふあ…どうしたんです?こんな朝早くから…」

目を擦り起き上がって上着を羽織ると尾形さんは「付いてこい」とだけ言って1人で歩いて行ってしまった。慌てて後を追うと、時折此方に振り返り私が居ることを確認する。

勝手にどこかに行ったりと尾形さんは基本自由だけど、はぐれないように手を握ってくれる所とか、こうやって私がきちんと付いて来ているかこまめに確認する所とか、通常時は読めないクセにそういう優しさにフッと尾形さんの後ろで笑みを浮かべた。


しばらく歩き続けた所で尾形さんが足を止めた。


「いたぞ、止まれ………テメェ何ニヤけてやがる」

『ニヤけてません。何がいたんですか?』


尾形さんは唇に指をあて「しー」というジェスチャーをすると草陰の向こうを指差した。


『あれって…』


そこには複数のヤマシギ。三羽いた。

まさか…


『もしかして尾形さん、昨日アシリパちゃんに言われたこと悔しかったの…?』

そう言って銃を構える尾形さんを見上げると、尾形さんはチラッと此方に視線を向けてから「悪りぃかよ」と言ってダァン!と銃を発砲した。

一羽を撃ち抜いて発砲音に気付いた他の二羽も急いで羽をバタつかせ飛び立ったけど、尾形さんはそれを逃さなかった。


空中で撃ち抜かれたヤマシギがボトッと地面に落ちる。


尾形さんは銃を下ろし此方に顔を向け前髪を掻き上げて「どんなもんだい」と笑みを浮かべた。





かっっっっっこいい。


待って、なに今の、普通にすごい。え、すごくない?

しかも、どんなもんだいって何。


『かわいいかよ!!!』

「あ?何言ってんだ、オラさっさと拾ってこい」

『え?』

「なんのためにお前を連れて来たと思ってるんだ」

『パシリ!?やっぱり可愛くない!!!』


文句は沢山あったけど、食料調達してもらったのは事実、変に逆らうとご飯をお預けされるかもしない。渋々草むらから出てヤマシギを回収しに行った。

食料になってもらうヤマシギに『命頂きます、ありがとね』と言いながら拾っていく。




……それにしても不覚にもドキッとしてしまった。

普通ならあんなドヤ顔かまされたら『はぁ?』ってなるのに、逆にカッコ良かった。ドキドキした。

しかも尾形さんがヤマシギを撃ち落とす前、悔しかったのか聞いたら彼は否定しなかった。

プライド高そうだし悔しいとか口に出さなさそうなのに、これが俗に言うギャップ萌え?


『尾形さん拾って来ましたよ』

ヤマシギさんを拾って尾形さんのところに戻ると尾形さんは「ははぁ、上出来だなまえ」と言って私の頭にポンと手を置いてそのまま梳くように撫でた。


そう言うところだぞ尾形百之助ェ。




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誤字訂正しました。

✕:こうして土方さん組、杉元くん組で月に向かう事になったわけだけれども。

○:こうして土方さん組、杉元くん組で月形に向かう事になったわけだけれども。


壮大な話になる所でした申し訳ございません。