#27




『ねぇ、尾形さん、一羽くらい持ってくれてもいいんじゃないですか?ねぇ』


「……」


無視!尾形さんは私の言葉に耳を貸すこともなくズンズンと前を歩いている。面白くないので少しからかってみる事にした。


『あーあ、尾形さんはこんなか弱い女子に自分で撃ち落としたヤマシギさんを持たせるんですねー、そんなんじゃモテませんよ』

すると尾形さんは足を止めると即座に此方に振り返った。

おっと、意外と単純か?


「俺より年上で、自分のことを女子っていうのは中々痛いぞ」

『マジレス…!!』

「それに俺のことを川から引き上げたお前をか弱いとは言えませんなぁなまえ先生」

尾形さんは鼻で笑って前髪を掻き上げた。

さっきはちょーーーーーーっとかっこいいとか思っちゃったけど、カッコよくない!ていうか優しくない…とは言え尾形さんが変に優しかったら具合悪いのかと心配するけど。

『尾形さんに頼んだ私がバカでした、っていうか年上って思ってるんだったら少しは敬ってくださいよね!』

「悪かったよ。じゃあ頼めよ、持ってください尾形上等兵殿ってな」

『はぁあ!!?悪かったって思ってないでしょ!?』

「ははぁ、冗談だ」


「そんなに怒るな」と笑いながら尾形さんは私の手からヤマシギを奪い取ると再び歩き出した。


『尾形さんってツンデレなんですかね?』

「ツン…なんだ?訳の分からん言葉を使うな。あぁ、あとさっきモテないとかなんとか言っていたがな」

『え、なになに、どうしたんですか?』

珍しく尾形さんの口から色恋的な話がきける!?と思い尾形さんの横に追いつき話の先を聞く。

「俺は愛だの恋だの興味はない…が、生憎女に困ったことはない」

『わー、めっちゃムカツク〜』

でも尾形さんはたしかに顔は整ってるし、ただならぬ色気も持ち合わせているし、軍人さんだし…たしかにモテそうではある。でもそれで興味がないなんて少し勿体無い気もする。

『そんなに相手に困らないのに興味がないなんて勿体無いですね』

「戦争に行く身だからな、嫁を取ったとしても俺が死ねばその後の責任は取れん。愛なんてもんは所詮目には見えない…それに…」

尾形さんは何か言おうとするも思いとどまり目を細めて「なんでもない、忘れろ」と私の頭に空いた手をポンと置いてさっさと歩いて行ってしまった。

聞かなかった方がよかったかな…と心に後悔がチクリと刺さったけど、歩いて行った尾形さんがこちらに振り返って「早く来い、置いていくぞ阿婆擦れ」と言ってきたから即座に「阿婆擦れじゃない!」と反論し、その背中を追いかけた。










「なまえさん!おかえり、どこに行ってたの?」

皆の場所に戻ると心配してくれていたようで杉元くんがそばに駆け寄ってきた。

『ただいま、尾形さんのお手伝い…って言ったらいいのかな?ヤマシギさん捕りにいってたの』

「!捕れたのか!?ヤマシギ!」

そう言って声を上げたのはアシリパちゃんで、そっちに目を向けるとヤマシギさんの毛を毟っていた。

『罠でも捕れたんだね』

「でも二羽しか捕れなかったからアシリパさんご機嫌ななめだったんだ」

たしかに旅のメンバー5人に対して体の小さいヤマシギさんが二羽では物足りない。でも尾形さんが捕ったのを合わせて五羽だから1人一羽って考えたら十分ご馳走だ。

「蛇行して飛ぶヤマシギを三羽も、流石だな尾形」

「朝からいないと思ったら、大したもんだな」

アシリパちゃんと牛山さんに褒められた尾形さんはヤマシギを置いてドヤ顔をかましている。

「アシリパさんに無理だって言われたからってムキになっちゃってさ…ハン!」

まったく杉元くんと同じことを思っていたから思わず「ブフッ」と笑うと尾形さんに睨まれた。

「杉元は銃が下手だから妬ましいな」

「ふん!別に!」

杉元くんとアシリパちゃんはヤマシギさんの毛を毟る作業を再開し始めた。

『何か手伝うことある?』

「ヤマシギはオハウにするから水が必要だ、そこの川から水を取ってきてほしい」

『わかった、お鍋借りていくね』

「頼んだぞみょうじ」と言うアシリパちゃんに『任せて!』と頷いて鍋を持ち川に向かった。

ついでに顔を洗おう。






『冷た〜春とはいえど流石北海道』


川につき水を汲む前にバシャバシャと顔を洗った。

冷たいけど山から流れてくる水は透き通り綺麗で、現代みたいに水道代がかかるわけでもないから贅沢だ。


ふと先程の尾形さんの話を思い出した。

私も恋愛体質ってわけでもないし、興味があるかと聞かれればそうでもない。

正直この年にもなってと周りは言うけど、もちろん所謂彼氏なんてものも作ったことは無い。

この個性のお陰でキスはたくさんしてきたけど、人を助けるためだし恋愛感情はまったく無い。

昔この個性の所為で助けた男の恋人にキレられた事が何度もあった。

私は人を助けただけなのに!

そう思ったけど、最後まで相手の気は治らない事の方が多かった。

私も恋をして恋人が出来たらあの女たちのようになってしまうんだろうか、それが怖くて恋人いない歴=年齢、恥ずかしながら未だに処女だ。

まぁ、それだけが理由ではないけど、誰かに縛られるのは好かないし、友人と遊んでいた方が性に合っていた。


それにしても、


『処女のくせにキスの経験は豊富って、まあまあの事故物件だよね』


たしかにこの時代の人からしたらただの阿婆擦れかもしれないなと笑い、鍋に水を汲んで皆の所に戻った。


戻ると杉元くんと牛山さんがヤマシギさんの脳みそを啜らされていた。

アシリパちゃんの目がとても輝いている。


『どう言う状況?』

「みょうじ、ありがとう鍋はそこの火の上に置いてくれ」

『アシリパちゃんこそ下ごしらえありがとう』

「よしみょうじも帰ってきたしチタタプをしよう」

アシリパちゃんはマキリという小さい小刀を取り出し「チタタプ」の意味を牛山さんに説明をしてる。

私も一度だけさせてもらった事があるけど、みんなで料理をしているみたいでいいなって思うからこの時間が好きだ。

牛山さんが「チタ…タプ チタタプ チタタ、プ」と慣れない手つきでチタタプを終わらせてチタタプリレーは私の番になった。

『チタタプ、チタタプ』

「みょうじは筋がいいな、上手だ」

『ふふ、ありがとうアシリパちゃん、せっかく命をいただくんだから丁寧に扱わないとね』

そして私の番が終わりそのまま尾形さんにマキリを渡す。尾形さんも牛山さん同様、初チタタタプだ。

「……」

「……」

ヤマシギさんを刻むトテトテというリズムだけが聞こえる。尾形さんがチタタプをする様子をじっと見つめる杉元くんの横に座って同じく尾形さんの手元を見つめた。

「……」

トテトテトテ

「……」

トテトテトテ

『……』


尾形さんは手は動かすけれども私たちの視線を気にする事もなく終始無言だ。

杉元くんはそれが気に食わなかったのか「アシリパさん!尾形がチタタプって言ってません!」とアシリパちゃんに叫んだ。

アシリパちゃんは「はぁ、おがたぁ?どうしたぁ?」と迫るけどそれでも尾形さんは無言を貫いていた。

まぁたしかにこれで尾形さんが素直に「チタタプ」なんて言った日には槍が降りそうだ。

「おいなまえ、テメェ全部声に出てんだよ」

『これは失敬』

尾形さんは迫ってきたアシリパちゃんにそのままマキリを返して満面の笑みでこちらに向いた。

怖すぎて思わず『ひぇ』と声が漏れた。ちなみに片手で頭をガシリと掴まれるというオプション付きだ。本気で掴まれているわけではないから痛くはないけど尾形さんからの視線は痛い。

「おい尾形!なまえさんに乱暴すんじゃねぇ!」

「そうだぞ尾形、女には優しくするもんだ、紳士じゃない」

『はは、まぁいつも事だから大丈夫です』

杉元くんがすかさず噛みつき牛山さんもフォローしてくれて尾形さんは軽く舌打ちをし、その手を離した。

「お前たち喧嘩するな!食事が不味くなる!」

そこでアシリパちゃんの空腹が限界を迎え声を上げる。

チタタプにしたヤマシギさんのオハウはとてもいい匂いで折角だから新鮮なうちにいただこうと、大人しく全員で鍋を囲み食事の時間を楽しむことにした。