#34




「おそらく白石は今頃旭川に着いてしまっているだろう」


旭川よりも手前の深川村という場所で土方さんとキロランケさんと合流した。

第七師団から白石さんを逃がそうとあの手この手を尽くしたけど、肝心の白石さんがその意図をわかっておらず、カムイコタンという場所で少し交戦したものの奪還にまでは至らなかったみたいだ。

『白石さんらしいというかなんというか…』

「まったくだ!あの野郎せっかく助けに行ったのに」

そう言ってキロランケさんは不満げにキセルを蒸した。

白石さんどうしたんだろう…。普段なら一目散に脱走しそうなのに…。

「白石が勝手に脱出できたとしても、いつになるかわからない。いつになるかわからないものを我々は待っているわけにもいかない」

「そもそも抜け出せるかどうか…脱獄王とはいえ監獄とは違うんだ」

「どんな扱いを受けているか…」そう言う永倉さんに「今この瞬間にも皮を剥がれているかも」と返す家永さんにゾッとした。

『私は白石さんを助けたい…』

白石さんは皆から役立たずって言われてるし、後先考えずギャンブルにお金を溶かすし、すぐ女の人口説くようなどうしようもない人だけど、それでも大切な仲間には変わりない。


「尾形、お前見てこいよ。第七師団だろ?」

「……俺は今脱走兵扱いだ」

牛山さんの言葉に尾形さんは首を横に振る。キロランケさんも元第七師団だけど、「カムイコタンで顔を見られた」と言っていたから行くのは危険だ。

「なまえも第七師団にいたんだよな?本部の奴らとの面識はあるのか?」

『私は鶴見さんに拾われたから本部の人のことは全然知らないかなぁ』

すると尾形さんは「なまえはダメだ」と言った。

「ただでさえお前の個性は狙われている。それに鶴見中尉はいなかったとしても、紙屋のように鶴見中尉に忠実な部下は沢山いる。もしそいつらが第七師団本部にいたら面倒だ」

「それになまえさんを第七師団本部に行かすなんて危険なことはさせれないよ」

尾形さんと杉元くんの話はもっともで、私が行けば自ら敵地に身を投じるようなもんだ。悔しいけど、私の出る幕はない。

『白石さんが怪我してたら治癒してあげなきゃ…』


頭の中に白石さんの顔が浮かんだ。やばい、無償に会いたくなってきた。


「あいつの入れ墨は写してるから…」

だけど私の考えとは裏腹に「まぁいいか…」と誰かが言ったところで「いや…」と口を開いたのは杉元くんだった。


「俺もなまえさんと一緒だ。アイツを助けたい」

『杉元くん!…でもどうやって?』

すると杉元くんはそばで話を聞いていた鈴川の頭をガシッと掴んだ。


「この詐欺師を使おう」


鈴川が小さく悲鳴を上げた。















「俺にどうしろっていうんだ!?」

そう叫んだのは鈴川だ。

あの後身の危険を感じたのか鈴川は杉元くんの手から逃げ出した。

しかし軍人相手に逃げられるわけもなく呆気なく鈴川を捕まえ、旭川付近の目立たないコタンで作戦を立てる事となった。

突然大所帯で押しかけてしまいチセの方には申し訳なかったけど、旭川の街中では目立つからとこうするしかなかった。


作戦いたってシンプルで、鈴川に変装をさせ第七師団に潜入し白石さんを奪還する。

鈴川は抵抗したけど、抵抗すればこの場で皮を剥ぐという杉元くんに大人しくなった。

潜入出来たとして、そこで鈴川がドジを踏めば第七師団に皮を剥がされる。どちらに転んでも地獄だけど、失敗せずに成功させれば問題は無いと杉元くんは言った。

『まぁまぁの無理難題…』

「は、そうやって罪人にも同情すんのかお前は」

『痛っ』

小さく呟いたつもりだったけど、隣に座る尾形さんに聞こえていたようで「つくづくお人好しだなお前は」と小突かれた。

勘違いされたくないけど、同情するつもりはない。

もしこいつが熊岸さんを巻き込まなければ、熊岸さんが贋作ではなく本当の自分の作品を作る未来だってあったのかもしれないのだから。


『でも、変装するにしても何に変装するんですか?』

「白石が旭川第七師団の兵営のどこにいるか…中に潜入して探らなければなるまい」

そう言ったのはキロランケさん。たしかに正面から行って見張りの兵隊に白石さんはどこにいるか聞くわけにもいかない。

「関係者に成り済ますか?」

「カムイコタンでの一件で警戒してるだろうからよほどの関係者じゃ無い限り教えないだろうな」

「東京の師団の上級将校とかは?」


「どうだろう?」という杉元くんに尾形さんは「無駄だ」と首を横に振った。


「軍は階級が上に行くほど横の繋がりが強いから、架空の将校なんてすぐにバレる」


『上の人の繋がりって意外と強いもんね…それがたとえ県外だとしても。今も昔もそれは一緒か…』


どうしたものか。と全員が首を捻る中、飼い犬だろうか?犬の鳴き声が聞こえた。


「イヌ…犬童四郎助いぬどうしろすけはどうだろうか?」


そう言ったのは鈴川で、私は知らない名前に『だれ?』と首を傾げた。


そのあと教えてもらったのは犬童四郎助は網走監獄の典獄だということ。でも鈴川の顔は別に似ているわけでもないと土方さんは言った。

鈴川自身も骨格は似ている気がするとだけ言った。


『え、そんなので変装できるの?』

「嬢ちゃん、誰か実在の人物に成りすますってのは似せるんじゃなくて
その人物と似てない部分を減らすことだ」

そう言って鈴川は記憶を頼りに顔を作っていった。

髪を切り、眉毛を薄くして髪を整える。

もちろん私は犬童四郎助を見たことがないからどんな顔なのかはわからなけど、出来上がっていく顔を見て牛山さんは「なんとなく似てきたかも」と言った。

現に元の鈴川の面影はなくなって来ている。

「第七師団内に網走監獄の典獄と親しい人間がいる可能性は低いが、よほど似ていないと多少親しい人間にはバレるぞ、大丈夫なのか?」

尾形さんの言う通り、いくら似ていても少しの違いを見抜かれる可能性だってあり得る。

すると土方さんは、犬童は厳格潔癖で規律の鬼でありながらも、個人的な恨みで土方さんを幽閉するという矛盾を持ち合わせている、と言った。

『個人的な恨みって、そんなのただの職権濫用じゃないですか…』

「犬童はそういう男だ、心の歪みが顔に出ている」

「たしかに性格って顔に出るもんなぁ」と杉元くんはヒグマも顔で性格がわかると言っていた。


ふと視線を感じて横を向くと尾形さんと視線が合った。

『なんですか?尾形さん』

「お前のアホさも顔に出てるもんな」

『そう言うも尾形さんも猫ちゃんな所が顔と言うか目に出ますもんね』

絶対に何か言ってくると思ったから、今日は言い返してみた。

案の定尾形さんは「あ゛?」と眉間にシワを寄せたけど、「喧嘩はやめろ」と牛山さんが間に入って来てお互いに黙った。


その後心の歪み、顔に出ると聞いた鈴川はスッと顔を作って見せて牛山さんや家永さんはゴクリと息を飲んだ。

その変装はそっくりだったようだ。

「白石の奪還方法も考えがある。準備が必要だ」

もしかしたらうまくいくかもしれない。

現代生まれの安易な考えの私はそう思っていた。


「う…ん…」

話も終わったところでずっとウトウトしていたアシリパちゃんが土方さんの背中にもたれかかる。

『アシリパちゃんもうおねむだね』

クスッと笑って抱き上げようとすると「かまわない」と言って土方さんはアシリパちゃんを抱き上げ膝に乗せた。

「やれやれ、この状況で寝るとは、この子は大物だ」

『本当、アシリパちゃんは私よりもうんと年下なのに尊敬します』

そう言ってアシリパちゃんをの頭を撫でると気持ち良さそうに寝息を漏らした。

すると土方さんは私の頭にポンと手を置いて軽く撫でた。顔を上げると、「なまえもお前なりに頑張っているじゃないか」と土方さんは笑みを浮かべた。

あまりのイケオジに顔が熱くなり「ヒェ…」と情けない声が漏れた。


すると突然こちらを見ていた杉元くんが「あっ!!」と声を上げた。

『杉元くん、どうしたの?』

まさか心の声が漏れていただろうか。と杉元くんを見ると「あ、いや…なまえさんちょっといいかい?」と言って外に連れ出された。

外はすでに真っ暗になっていた。


「なまえさん、ごめんね外に連れ出したりして」

『ううん、大丈夫。あそこでは話ずらいことなんでしょ?どうしたの?』

チセから少しだけ離れた場所にベンチのような倒木があり、そこに並んで座る。

「確信ではないんだけど」

『うん』

「多分白石はずっと前から土方内通していた可能性が高い」

『内通…』

杉元くんは頷いた。

「でも俺は白石を信じたい、だから助けに行く。なまえさんももしかしたら危険な目に合わせてしまうかもしれないけど力を貸して欲しい」

『うん…杉元くんがそう決めたなら私は喜んで協力する。白石さんを助けたい。力になるかわからないけど、治癒なら任せて!』

「あぁ、逆に心強いよ」


そう言って杉元くんが笑うから、私もつられて笑顔になった。

私は私にできることを頑張ろう。