#41
「殺してはダメだ!」
「でも逃せばきっとまた同じ事を繰り返す!」
「家畜を殺されては俺たちの食料が尽きるぞ!!」
村人たちのああでもないこうでもないという言い合いは少しも治まらず、私はハァとため息をついてから横に顔を向けた。
『尾形さん』
「……なんだ」
『私たちここから見てるだけでいいんでしょうか?』
コタンに連行された谷垣くんは、現在クマの檻に両手を縛りつけられたまま、村人たちの板挟みにあっている。
谷垣くんは犯人は自分ではない!と必死に弁解するけどそれに村人たちが耳を貸すわけもなく、逆に「家畜の次は自分たちの家族が犠牲になるかもしれない」と話がエスカレートしていた。
そんな彼と村人たちを、私と尾形さんは少し離れた食糧庫の上から見ている。
「じゃあお前があそこに行って何か出来んのか?」
『う…それは、何もできないけど…』
「ならここで座ってろ」
『……はい』
確かに私があそこに行った所でできることは何もないけど、こうして遠くから見てるだけなんて…と、言いたいことは山ほどあったけどうまく言い返せず大人しく頷いた。
そんな私に気付いたのかわからないけど尾形さんは「ハァ」とため息をついた後「アレ見ろ」と谷垣くんの方を親指で指さした。
『あ!』
尾形さんが指差した方を見ると、そこにはいつの間にか谷垣くんと村人の間に立つ杉元くんが見えた。
『杉元くん!』
谷垣くんを犯人だという村人たちに対して杉元くんは「ちょっと待て」と仲裁に入っていた。
しかしいきなり出てきた杉元くんに村人たちが耳を貸すはずもなく、中でも体格の良い血の気が多そうな男の人が出てきて「お前もこいつの仲間か!!」と言い放ち、杉元くんの顔面を思い切り殴り付けた。
『!!杉元くん!!!』
「!?おい、待て!!」
思わず食料庫から飛び降りようとしたけど「テメェは待ての出来ない犬か」と尾形さんに腕を掴まれそれは叶わなかった。
杉元くんは殴られても臆することはなく「まぁ落ち着きなって」とずれた軍帽を被り直した。
だけどそれで相手が落ち着くわけもなく、続けて殴られる杉元くん。
「『杉元(くん)!!』」
思わず叫んだ声がアシリパちゃんのと重なった。
すると杉元くんは手を出すなとでも言うようにこちらに手をかざした。
口の中を切ったんだろう、口元から垂れる血を袖口でグイッと雑に拭う姿が痛々しかった。
『杉元くん、手を出さないつもりなんだ…でも素直に話を聞いてくれる相手にはみえないけど』
「まぁ、あいつなりに考えがあるんだろうな」
確かにここでこちらから手を出しても何も得は無いし、逆に話がややこしくなりそうだ。
すると杉元くんがこっちに顔を向け、まるで自分は大丈夫心配ないよ、とでも言うように柔らかい笑みを浮かべた。
その笑みにホッと胸をなで下ろし、安心した次の瞬間、杉元くんは相手の顔面を思い切り殴った。
まるで漫画のように「バキィッッ!!!」といい音が辺りに響いた。
殴られた男の人は一瞬持ち堪えたかと思ったけど、そのまま後ろにバタンと倒れてしまった。
「……」
『……』
「……」
思わず無言になる私とアシリパちゃん、そして谷垣くんと村人たち。
そんな中、尾形さんは1人拍手をしていた。
すると杉元くんは呆気に取られている村人たちに「犯人は姉畑支遁という男で上半身に奇妙な入れ墨がある」と言って、谷垣くんのシャツのボタンを指で引っ掛け弾けさすと、その胸元を曝け出した。
もちろんその肌に入れ墨があるわけもなく、谷垣くんは胸毛のすごい胸元を大衆に曝け出されただけだった。
しかも杉元くんにその胸毛を毟られ「こいつはその姉畑支遁に銃を盗まれたドジマタギだ」という暴言付きだった。
『谷垣くん、不憫…』
「…銃から目を離すのが悪りぃ」
もちろん尾形さんが谷垣くんを庇うわけもなく、前髪を掻き上げながら辛辣な言葉を吐いた。
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『えっ?!3日以内にその姉畑支遁って人を見つけるの!?』
その後、3日以内に真犯人もとい姉畑支遁を連れてくる事を条件に谷垣くんへの刑罰を待ってくれることになった。
そして谷垣くんはというと、現在子熊のオリに収容されている。
「あぁ、それまでは刑罰を待つって、入れ墨の為にも探すしかねぇな」
『刑罰を待つって言っても谷垣くん冤罪なのにね』
「今あの人たちに何を言っても伝わらないだろうから大人しく従うしかないな…。なまえさん、巻き込んじまってすまない」
先程村人を殴り飛ばしたとは思えないほど杉元くんは申し訳なさそうに肩を竦めた。
『杉元くんは悪くないじゃん。そりゃちょっと過激だったけど、谷垣くんにとって杉元くんはヒーローだったよ!』
そう言って、元いた世界のヒーローの真似をして歯を見せてニッと笑う。
すると杉元くんは少しポカンとしてから「ははっ」と軽く笑った。
「そうだな、あのドジマタキの冤罪を晴らすためにもとっとと犯人捕まえねぇとな!」
『うん、私はここで見張ってるから一緒に行けないけど、姉畑支遁がどんなやつかわかんないし、谷垣くんの銃を持ってるだろうから無茶だけは絶対にしないでね』
「あぁ、ありがとうなまえさん。谷垣のことよろしくな、あとどうでもいいけど尾形」
ちゃっかり尾形さんに毒を吐いた杉元くんに思わず吹き出す。
背後からの視線が痛かった気がしたけど、気付かないふりをしてアシリパちゃんに呼ばれた杉元くんにもう一度『気を付けて!』と大きく手を振った。
久々の更新。
短くて申し訳ございません。
2021.04.29