#04


「君に紹介したい男がいる」



とある日の昼すぎ、 そう言って鶴見さんに連れてこられたのは兵舎の一室。

鶴見さんの後に続いて中に入った瞬間「キエエエ」と奇声が上がりビクリと肩を震わす。

そこには褐色の肌をした特徴的な眉毛の男前が居た


「鯉登少尉、彼女が先ほど話したみょうじなまえさんだ。3ヶ月ほど前からこの兵舎で保健室の先生をしてもらっている。くれぐれも無礼のないように」

そう言って鶴見さんはその男性に私を紹介した。少尉ということは階級は中尉である鶴見さんの1個下で上等兵の尾形さんや軍曹の月島さんよりも階級が上なんだ。見た目は若いのに未来でいう【エリート】といった所だろうか。


あと今更だが鶴見さんは私のことを【保健室の先生】とみんなに紹介して回っている。
雄英高校での職務内容を詳しく聞かれた時保健室の先生という響きが何故かお気に召したようだ。


「なまえくん、彼は鯉登音之進少尉だ。私の部下で昨日任務を終えて戻ってきてね。ぜひ君に紹介しておきたかったんだ。」
『そうなんですね。 初めまして、みょうじなまえと申します。 医者ではないのでたいした事は出来ませんが以後よろしくお願い致します。』

未だに鶴見さんを見つめてわなわな震える鯉登少尉さんにぺこりと頭を下げると、彼はハッとして咳払いをした。

「第七師団少尉鯉登音之進だ。よろしゅうたのみあげもす」
『もす?』

聞き馴染みのない方言に首を傾げると、「彼は薩摩の生まれだ」と鶴見さんが教えてくれた。
なるほど鹿児島の出身なのか。私がいたのは関東圏だしどうりで聞き馴染みがないと思った。

「鹿児島かあ〜良いですね。さつま揚げ!お酒が進みますね」

さつま揚げをサッと熱湯に通して、余分な油を取ってからマヨネーズと七味をかけたら最高のおつまみだ。鰹節があれば尚よし。

「さつま揚げを知っちょるんと!なまえさんはお酒が強かですか?」
『誰かと比べたことが無いので強さはわかりませんが、好きです』
「そうか。あてはおなごと酒を飲んだこっがなか。いつか晩酌に付き合うてほしか」
『ぜひ!よろしくお願いします!』

鯉登少尉さんは「そうか! では美味い酒を取り寄せさせよう!さつま揚げも」と張り切っている。
私としてもこんな男前を目の前に大好きなお酒が飲めるなんて目の保養にもなるし一石二鳥だ。

私達のやり取りを見ながら鶴見さんはうんうんと満足そうに領いている。

「鯉登少尉は信頼を置く優秀な部下だ。私が留守の時何か困ったことがあれば彼を頼りなさい。いいね?」
『わかりました。鯉登さん改めてよろしくお願いしますね』

鯉登少尉さんはというと鶴見さんに信頼を置く優秀な部下と言って貰えたのが相当嬉しかったのか、再び奇声を上げている。
「興奮して早口の薩摩弁になっているぞ鯉登少尉。少し落ち着け」という鶴見さんに鯉登少尉さんは「無理です」と返した。

そうか、鯉登少尉さんは鶴見さんに興奮するのか。まぁ昔の軍生活に男色は珍しくなかったって、腐女子の友達が言ってたしな。ここでもそう珍しくはないのだろう。

ふと時計を見ると尾形さんの様子見に行く時間だった。

『では鶴見さん、私はそろそろ業務に戻りますね』
「ああ仕事中に悪かったね、尾形上等兵をよろしく頼む」
『いえいえ、鶴見さんもまたお時間があるときにお茶でもご一緒させてください。尾形さんのことも任されました!』

ビシッと音がつきそうなくらい敬礼を真似てみると鶴見さんは 「もちろん楽しみにしているよ、その時にちゃんとした敬礼も教えよう」と笑みを浮かべた。うーん、イケおじだ。

『はい!では失礼いたします』

もう一度2人に頭を下げてそのままの足で療養所に向かった。




『尾形百之助くーん、元気ですか?』
「おい、なんだその呼び方、なめてんのかテメェ」

健康観察的な呼び方で呼んでみたがお気に召さなかったらしい。
尾形さんに自分のことを話してからわりとこういうふざけたやり取りが増えてきた。基本的に
彼は無口でふざけているのは私だけなんだけど。

尾形さんはベットの柵に凭れて座り、書物を読んでいた。呼び掛けに上げた顔はとても気だるげだ。
最近気付いたことは、気だるげな男の謎の色気は今も昔も変わらないということ。

『舐めてませんよ。大真面目です。貴方の健康管理諸々、重々よろしくと鶴見さんから頼まれていますからね』
「……………鶴見中尉殿に頼まれたから?」
『はい?』

尾形さんは読んでいた書物を閉じるとこちらに顔を向けた。

「鶴見中尉殿に言われたからお前は俺を助けるのか?」

その猫のような目が私には少し不安げに見えた気がして思わず『フッ』と笑うと尾形さんは「あ?」と怪そうな表情を浮かべた。

『そうですね、確かに鶴見さんに貴方を任されました。けど、最初に貴方を助けたのは私の意志です。それに自分が関わった人が元気になる姿は1番そばで見ていたいんです』

『だから早く元気になってくださいね』と笑うと尾形さんは一瞬面食らったような表情を見せたが「フンッ」と満足そうに鼻を鳴らし再び書物に目を落とした。
掴みどころのない性格だと思ってたけど、そういう事を気にする可愛らしい面もあるようだ。

『尾形さん、元気になったらまず何がしたいですか?』
「……散髪」
『髪だいぶん伸びましたもんね~』

彼を発見した時は綺麗に刈り上げられていた髪も今や伸びきってしまっている。
顎を固定するために頭の方まで巻いている包帯がとても煩わしいようだ。

「おいなまえ」
『なんですか?』
「さっき、元気になっていく姿は一番そばで見ていたいと、そう言ったな?」
『はい、何度でも言いますよ』
「そうか、なら良い」

尾形さんはまた満足そうな表情を浮かべた。

『尾形さんって』
「なんだよ」
『案外可愛らしいですね』
「ほお、言いますな。 表出ろや、射撃の的にしてやるよ阿婆擦れ」
『あばずれ言うな!冗談ですよ。だから銃持たない!』

銃を取ろうとする尾形さんの手をぺしっとはたくと「チッ」と打ちが聞こえた。
尾形さんの物言いは冗談に聞こえないから冷や冷やする。

『暴言吐けるくらい元気なら健康状態も問題はないですね。 じゃあ先生の言うことちゃんと聞いて安静にしてくださいね尾形百之助くん』

そういうと「ガキ扱いすんじゃねえよ」と悪態ついたが、軽く手を上げるあたり律儀な所もあるようだ。
このやり取りが楽しくて日々の楽しみになっている。仲が良い男子とじゃれる様な。例えるならそんな感じ。


『さー仕事仕事』


この関係がずっと続けば良い、そう思った。





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薩摩弁は変換ページより。
間違っていたらすみません。