#05



「洋平が殺された」


別れというものは突然訪れる。






朝から医務室に浩平くんが居座っている。

医務室に入るなり浩平くんは「なまえ先生おはよう」とだけ言って部屋の奥にあるべッドに潜り込み、そこから何も喋らなくなってしまった。

表情も暗く目の下のクマも酷かったため、何かあったのかと思いながら深くは聞かず、そのままそっとしておいた。

そこからいくらか時間が経ち、時計を見やるとそろそろ昼ごはんの時間だった。

『浩平くん、今日訓練は?お休みなの?ていうかお休みあるの?』

ベッドの上で布団を頭から被り、こんもりと膨らんだ塊もとい浩平くんに話しかけるも返答はない。

『気分悪い?先生に薬貰う?』

「……洋平が殺された」

『え?』

布団の中からくぐもった声が聞こえよく聞き取れずもう一度聞く。

すると浩平くんは布団から顔を出した。その目には涙。

「洋平が殺された」
『洋平くんが…殺された?』

その途端、昨日の朝にトカゲを捕まえたと自慢げに医務室に駆け込んできた洋平くんの顔が浮かんだ。

でもなぜ?
なぜ彼は殺されなくてはならなかったのか。

「昨日の夜、街で捕らえた杉元佐一っていう男に殺された」

『そんなっ…、その杉元って人は何かしたの…?』

「入れ墨のことを探ってる怪しい奴」

入れ墨?と首を傾げるも浩平くんはそれ以上は教えてくれなかった。

「洋平も俺も、なまえ先生のこと好きだから、知らせなきゃって、でも中々言えなくて、長く居座ってごめん」

それを聞いてポロっと涙が零れた。

『っ……ごめん、ごめんね、浩平くんのほうが辛いのに。ありがとう、教えてくれて』

昨日まで話してた人が次の日にはいなくなるなんて、前の世界では考えたこともなかった。
ヴィランが暴れてもヒーローがいて、自分がどれだけ平和な日々を送っていたか痛感する。
この戦争の時代ではこれが当たり前なのかもしれないけど、私は一生慣れる事は無いだろう。


「いや、俺も医務室を占拠してごめん、昼飯行ってくる」

そう言って浩平くんはベッドから降りると隊服の皺を直し靴を履いた。

部屋から出る時、浩平くんは「あ、なまえ先生」と言ってこちらに振り返る。

『どうしたの?』と涙を擦り尋ねると、とんでもない言葉が返ってきた。

「尾形上等兵をやったのも杉元だって、鶴見中尉が言ってた」











「……い、おい」

『え…?』

「話聞いてたか?俺の包帯はいつ取れるんだって聞いてんだよ」

『あ、ああ、すみません。 えーと、先生に確認しときますね』


おかしい。何がと問われるとはっきりはしないが、コイツにしては少々大人しすぎる。

表情もぎこちなく目元も赤い。まあ、十中八九ニ階堂のことだろうが…。

昨晩、二階堂兄弟の片割れが殺されたとは聞いた。それもあの不死身の杉元に。
まぁ元々殺人衝動が激しい奴らだったから、大方あいつ等の方から杉元にちょっかいでも出したんだろう。

それにしても…他人の些細な変化に気付いたことに自分自身驚いた。

コイツ、なまえは数ヶ月前に俺を助けたいわば命の恩人というやつだ。

どうにも信じがたいが個性といわれる特殊能力を使うらしい。 さらには100年以上も先の未来から来たそうだ。馬鹿馬鹿しいと思いながらも目の前で実際に見せられ、現に自分もその能力で生きているのだからそれ以上何も言えなくなった。

で、その命の恩人様のなまえは現在ここ第七師団の【保健室】の先生だそうだ。

基本的に医者のような医療知識はないが簡単な看護や手当ては出来るようだ。
自分が助けた人間はそばで見ていたいということで毎日毎日この療養所に来る。

しかも毎回毎回登場がうるさい。
昨日は『私が来た--!!!!』と大声で登場したもんだから医者に叱られていた。

そんななまえが今日は『おはようございます』と静かに入室してそこから淡々といつもの問診をし始め今にいたる。

別に他人のことなんざどうでも良いが、こう辛気臭い空気は気持ちの良いものではない。

するとなまえは『尾形さん』と小さく咳いた。

「なんだ?」

『尾形さんにこんな大怪我負わせた人と洋平くんを殺した人が一緒って本当ですか?』

「!…知ってたのか」

『浩平くんが教えてくれました。杉元佐一って人に殺されたって』
『なんなんですか?その杉元佐一って、浩平くんは入れ墨のことを探る奴って事しか教えてくれなかったけど』

二階堂め、余計な事まで喋りやがって。

「そうか、俺も詳しくは知らん。 まぁ余計なことに首を突っ込まんことだ。軍のことを探りすぎると鶴見中尉殿に叱られるぞ」

「お前の場合スパイを疑われるかもな」と冗談交じりで言うと顔を青ざめるもんだから鼻で笑ってやった。

「それに、お前が暮らしていたというの未来ではこんな事ないのかも知れないが、コレが日常だ。そうやって誰かが死ぬ度に落ち込むのか?人が死ぬのを見たくないのならここを出て別の所にでも行くといい」

そう言い放つとなまえはこちらを軽く脱んだ。その目尻には涙が浮かぶ。

『人の死を、それも親しかった人の死を悲しんで何が悪いんですか?尾形さんは誰かが死んで悲しんだことないんですか?!』

「人の死が悲しいなんて感情、戦場じゃ最大のお荷物だ。 それに…俺は父と母、 弟もこの手で殺した」

驚愕の表情を浮かべるなまえに「驚いたか?」と笑って見せる。

『尾形さんは、そんなことする人じゃないはずです…』

「ははっ…テメェが俺の何を知ってるかは知らんがな、数ヶ月関わっただけで知ったかぶるんじゃねえよ」

馬鹿にしたように笑うとなまえは堪えていた涙をボロっと零し何も言わずに部屋を出て行った。


どれだけ平和ボケした時代から来たかは知らんが、あの女にこの場所は危険すぎる。

鶴見中尉があの女の能力を知って何もしないわけがない。
大方あいつの部屋には監視が付いているだろう。

しかし数ヶ月関わっただけの女の身の上を心配するほど俺はお人好しではない。

多少なりとも知らないうちにあの女の空気に絆されていたようだ。



「で、結局包帯はいつ取れるんだ…」