#06
『やってしまった』
私は酷く後悔していた。
この時代がどういう時代かなんて三ヶ月いてよくわかっていたはずだ。
私が暮らしていた時代は治安はとても良いとは言い切れないけれど、少なくとも未来の日本は戦争のない平和な国だった。
そして日々ヒーローたちが平和を作っている。
それに引き換えここは明治時代であって、歴史の教科書でもよく目にした日露戦争もついこの前終ったという。
自分とここに住む人たちの価値観の違いは重々承知していたはずなのに。
『仕事中に飛び出してきちゃった』
あの後療養所を飛び出して仕事をする気にもなれず外に飛び出してきてしまった。
所謂サボりってやつ。 サボるにもこの時代には気軽に入れるようなカフェも無いわけだからただただ道を歩いてるだけなんだけど。
かといって長い時間サボるわけにもいかない。脱走だと思われても困るし。
そう思い踵を返した途端、向こうの方の通りから悲鳴やら銃声やらが聞こえてきて思わず身をすくめる。
『何?事件?』
町行く人の話によるとどうやら体の大きな男性が坊主の男の人を追い回していて、それに兵隊さんや町の人たちも巻き込まれて大騒動になっているそう。
さっさと帰ろうと兵舎に向けて足を速める。
その時人にぶつかってしまい尻餅を付いてしまった。
『いたた、すみません』
「いや、こちらこそすまない… なまえさん?」
『え?あ…』
名前を呼ばれ顔を上げるとそこには月島さんがいた。
「なまえさん仕事中では?」
『あ…えと、はは…』
数分でサボり終了。
「珍しいな、なまえさんがサボりとは、何かあったのか?」
月島さん、初対面で肩を撃たれて第一印象は最悪だったけど何かと面倒見がよくてたまに相談に乗ってもらうような仲になった。
ちなみに鯉登少尉さんのおそばにもついているらしい。 鶴見さんにも信頼されて少尉さんの面倒も見てすごい人だ。
『まぁちょっといろいろあって…月島さんは非番ですか?』
「ああ、銭湯に行こうと思ってたんだが、悲鳴が聞こえたからな。でもうちの隊の連中がなんとかしたらしい」
『そうだったんですね、お休み中にお疲れ様です。 私も仕事に戻ります』
「ありがとう、俺も戻るから一緒に行こう」
そう言ってくれた月島さんと一緒に帰ることになり肩を並べて歩いた。
「しかしあのなまえさんが仕事をサボるほどのこととは、一体何があったんだ?」
『う、やっぱそれ聞いちゃいますよね…尾形さんにひどいこと言っちゃったんです』
「尾形に?」
歩きながら私は洋平くんと浩平くんのこと、 そして尾形さんとのことを話した。
途中洋平くんを思い出して泣きそうになり言葉が詰まったが、月島さんは「ゆっくりでいい」とちゃんと話を聞いてくれた。
浩平くんから聞いた入れ墨の話の時、一瞬表情が強張ったのが気になったけど。
「それで部屋を飛び出してきたと、そういうことか」
『はい、そうです…すみません』
そう言うと「そう何度も謝るな、十分反省してるんだろう?」と笑みを浮かべた。
「仕事の最中に抜け出すのはよくはないが、なまえさんがそう思うのは無理もない。平和な時代だったんだろう?なまえさんが生きていた日本は」
『はい…軍も廃止され戦争も国外では今でもあるけど、日本ではおきていません。男女差別もないし、職業も数え切れないくらい種類があって、子供達も学校に通って好きなこと勉強して…。 ヴィランっていう悪いことをするやつらもいたけど、それらから人々を守るヒーローがいて、とても平和な国です』
「今の日本とは大違いだな、たしかに俺たちは軍に所属する兵士で、第七師団の中にも未だに心が戦場にあるやつもいる。尾形も俺もそのうちの一人だ。たしかに人の死は悲しい、でもソレを簡単に表に出せなくなったんだよ」
と月島さんは寂しそうに言った。
「尾形も嫌味なやつではあるが長く引きずるような性格でもない、悪いと思ったなら謝れば良いだろう。 あと話は変わるが二階堂洋平一等卒を殺した杉本はまだこの近くにいるかもしれない。俺たちも行方を捜しているがなまえさんも出歩く時は必ず用心棒として誰か連れて行くように」
『わかりました、話してみます。ありがとうございます』
話しているうちにいつの間にか兵舎に付いていた。
「……………で?何のマネだ?ソレは」
『ひぇ…』
とてつもなく低い声に情けない声が漏れた。
あの後月島さんと別れてその足ですぐに尾形さんに会いに行った。
部屋に入るなり「よおサボり女」と言われ、つかつかとベッドのそばに歩いていきその場に土下座をした。
その場に沈黙が続き尾形さんが発した第一声がアレだ。
『お…尾形さんの気持ちやこの時代のことを無視して自分勝手な気持ちをぶつけました。本当に申し訳ございません。それに仮にも病人を置いて職務放棄したこと深く反省しています』
土下座をしたまま言うと頭上から「はあ」と大きめなため息が聞こえ思わず体を硬直させる。
「別にそんな事気にしてねえ。鬱陶しいから顔上げろ」
『でも…』
「まあ、俺の銃の試し打ちにその頭ぶち抜いても良いのならそのままでもかまわんが?」
その言葉に急いで顔を上げるとそこには「ははあ、 冗談だ」といつもの嫌味な笑みを浮かべる尾形さんがいた。
『っ……』
「あ?また泣くのか?泣いたり怒ったり忙しいやつだなテメェは」
『っ…すみませ…、安心して…尾形さんに嫌われたかもって思って…』
すると尾形さんは再びため息をついた。
「あのな、俺は気に入らねえと思った奴はその場でこの頭ぶち抜いてるよ」
そう言って尾形さんは私の額に思い切りデコピンをくらわせた。めちゃくちゃ痛い!!
『いっっったあ!!!!』
「はっ、すっげぇ顔。ブスだな」
『いや!!!!いくら美人でもこういう顔になるでしょうよ!!』
「…それだ」
『は?何が?!』
額を手で押さえながら尾形さんを見上げると、尾形さんは口元を押さえて肩を震わせていた。
「ふっ…くくっ、スマン…いや、そこまでブスな顔になるとは思わなくてな」
『はあぁあ?!今!二度もブスって言いましたよね!!絶対におでこ赤くなってるでしょ?!どうしてくれるんですか!?』
「はあ、…お前はその調子でいろ」
『尾形さん三回目ですよ、ブスでいろってことですか?』
「ちげぇよ、それに3回目はテメェで言ったんだろうが」
すると尾形さんはこちらにすっと手を伸ばしてきた。またデコピンされると思いギュッと目を閉じると、額に痛みはなくかわりに少しかさついた親指で目尻の涙を拭われた。
『尾形さん?』
「お前に泣き顔は似合わないって言ってるんだ。変に静かだと調子狂うんだよ」
『それって、明日からも来て良いってことですか?』
「あ?職務放棄する気かテメェは、結局いつ包帯が外れるかという俺の質問も無視しただろ。医者に確認して明日も来い、ブス」
『4回目!!!』
「いや俺が言ったのは3回目だ」
そう言って尾形さんは「一眠りするから出てけ」と犬にするようにしっしっと手を動かした。
『ええ、勝手すぎ…』と思いながらも、『安静にしてくださいね』と声をかけて部屋を後にした。
なんだかけなされただけのような気もしたけど、仲直りということで良いのかな?
心がじんわり温かくなった気がした。
ーーーーーーーーーーーーー
2020.03.31 誤字脱字訂正